表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
276/284

謹賀新年:赤飯

 館山要塞の朝はそこそこ早い。

 早朝六時になる頃には、内線スピーカーから起床喇叭が響き渡り、二人の少女はモソモソと寝床から這い出してくるのだが、今朝は違った。

 七時頃になり、朝ごはんの時間だと言うのに、レアの姿が見えないのだ。


 心配になった陽子は、朝食を取っているサイハテに、少し様子を見てくると言い残し、単身、彼女の部屋に向かう。

 扉の横に着いたインターホンを鳴らして声を掛けてみる。


「レアー? 起きてるー?」


 研究の為に夜更かしして、お昼ごろまで寝ている事が珍しくないレアである。それも考慮して控えめに声をかけた所、扉がゆっくりと開かれて、いつもより蒼白になった彼女がしんどそうに顔を出した。

 顔色が悪く、どことなく辛そうなレア、そして彼女から漂う僅かな錆臭さに、陽子は察する。


「あー……来ちゃったのね」


 子供から一歩大人へと近づいた証拠なのではあるが、毎月恒例の、女性にとっては気が重くなる行事であり、ついでにお腹の辺りも重くなるのだ。


「……うん」


 恥ずかしそうにするレアを見て、陽子は小さく息を吐くと踵を返す。


「ナプキンなら分けてあげるから、ちょっとおいで」


 本来であるならば、母親が教えるべき事なのだろうが、生憎、彼女の母親代わりになる人物は存在しないので、陽子がやるべき案件だと判断した。

 年長の女性ならば奈央とグレイスが居るのだが、前者は医療支援で別の街に滞在しているし、グレイスはロリコンショタコンでヤバイ。


「ありがとね、なぐも」


 とことこと後ろを着いて来る少女が礼を言う。


「いいのいいの、女なら誰でも来るんだから」


 その礼の言葉を軽く受け流し、自分の部屋の扉を潜ると、そこには食堂に居たはずの変態が居り、いつの間にか部屋の中央へちゃぶ台を持ち込んでいた。

 しかも、ご丁寧に赤飯まで炊いている。


「……あんた、何してんの?」


 驚愕のあまり、感情が消え失せた陽子が思わずそう尋ねると、彼はいつものむっつりとした表情で返事をした。


「赤飯を炊いておいた。食べるといい」


 勧められた赤飯は、一体どこで手に入れたのか、フリーズドライの赤飯ではなく、もち米から炊かれた物で、混ざっている小豆も冷凍された物ではないだろう。

 さっと出されてはいるが、こと終末世界に置いては二つとも超が付く程の高級品である。

 何しろ、小豆ももち米も栽培している所は少ないからだ。


「……って、そうじゃなくて!」


 部屋を出ようとしていたサイハテの前に回り込み、声を荒げる陽子。


「なんであんたが知ってんのよ!! と言うかね、デリカシーを持ちなさいよ!!」


 彼女だって、知ったのはついさっきの事なのだ。

 食堂で飯食ってただけの変態が、ほぼ一本道の宿舎まで、どうやって陽子を追い抜いて、先に赤飯を用意していたのか。

 それ以前に、他人の男であるあんたが祝うとは、一体全体どういう了見なのか。


「何故知り、何故知らぬのか……随分哲学的な質問だな」

「違う! 私はそんな事を聞いている訳じゃないのだけれど!?」


 はぐらかそうとした、と判断したのだろうか、陽子の怒りは怒髪冠を衝く。


「そんな事を言われてもな……女性の生理位、察せるのが変態ってものだろう? どうやって知っているかなんて、聞かれても困る」


 眉尻を下げた彼は、そんな事を宣った。


「困っているのはこっちなのだけど!? って、あんたまさか……」


 さらにぷりぷりと怒りだした少女は、ある嫌な予感に思い至ってしまう。

 その予感をこめて、サイハテを見つめると、彼は親指を立てて返事をした。


「ああ、君の生理も把握している。安心するといい」


 何を安心しろと言うのか、そんな言葉も出ない位に呆れだの、怒りだの、恥ずかしさ等を内包してしまった陽子の脳は、とりあえずがっくりしようと判断したのか。

 彼女はゆっくりと崩れ落ちて、力なく頭を振った。

 だが、変態の追い打ちはまだまだ続く。


「だが、一つだけ言わせて貰おう」


 等と言いつつ、いつの間に用意したのか、ナプキン付きのパンツをレアに履かせながら、サイハテは言う。


「働き過ぎだ。最近、君の生理は安定していない。先月なんて、二回も来たのだろう? いい加減、休日を取るべきだと、俺は思うがね」


 一体どこから調達したのか、水を張ったタライと洗濯板を使って、血濡れになったレアのパンツをがっしがっしと大胆に、それでいて繊細に洗いながらの言葉である。

 もう陽子としては、何から怒ればいいのか分からない。


「……あんたはなんで洗濯してるのよ」

「放置すると染みになるだろうが」


 タライから引き揚げられたパンツは、新品のような真っ白なそれになっていた。

 恐るべしサイハテの洗濯技術。だが、怒る内容は整理出来た。


「ねぇ、サイハテ」


 パンツを前にうんうん頷いている彼の背中に回り込み、蹴りを一発お見舞いし、部屋の中へと叩き込む。


「……何をする」


 抗議しようとしサイハテに、ゴム弾入りの拳銃を突き付けて、機先を制す。


「レアの事と、私の事、どっちから怒られたい?」

マイルドな内容だと思います。

本当は生理が来たレアを、サイハテが蚊のコスプレをしながら追いかけ回す内容だったのですが、諸事情で没になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ