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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
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クリスマス特別編:血濡れのキャロル5

「本当に上手く行くのでショウカ」


 食料品店から大きく離れた二階建ての建物、その一階部分にバリケードを構築しながら、ハルカはぼやいた。

 二階では、レアが持ち込んだレーザータレットや、ドローンで防御陣地を構築しているはずで、彼女の設置が終われば、ぼやく彼女が巨大な柱に向かって、攻撃をする手筈だ。


「だいじょーぶ。さいじょーを、しんじよー?」


 声がした方向に振り向くと、掌サイズのレーザータレットを一つだけ余らせたのか、それを持った少女が弄びながら、階段を降りてくる所だった。


「レア様、設置を終えられマシタか」

「んー、どこまでこーかがあるか、ぼくにもわからないけど、ね」


 最後のタレットを、店全体が射程に入る位置へと置いたレアは、そんな返事をする。


「そうデスカ……デシタら、そろそろ。作戦行動を開始致しマショウか」


 剥がした床板を針金で固定したハルカは、手を下に向けた。

 すると、彼女の指先から生じた光が、ポリゴンモデルのような絵を描き、それが緩やかに現実味を帯びて、本物と変わらない姿になると、それを実体でもあるかのように引っ掴んだ。

 否、実体化したのである、事実、その物体、戦車砲の百二十ミリ砲を、歩兵が使えるように改修したソレは、彼女が持った瞬間、質量があったかのように、ハルカの足を床へと食い込ませた。


「ん、ちょーし、いい?」


 奇抜な風景を見ていたレアは、いつも変わらない所か、当たり前のように振る舞っている。


「はい、修理して頂いた量子ストレージと変換機は、問題なく稼働しておりマス」


 右手に三十ミリ機関砲、左手に百二十ミリ砲を持ちを持ち、足をコンクリートに食い込ませながらも、二つのそれを軽々と振り回しながらも、自身の処理能力が低下していない事を証明した。

 それを見たレアが安堵の息を吐き、告げる。


「なら、もんだいないね」


 元々、このハルカは荒野に放置された物をレアが拾ってきて、レストアしたハルカタイプである。放浪者の街では、彼女達に使われているような、高級かつ精密な生体部品等は調達できず、仕方なく、サイハテの狩ってくる暴走ドローンの劣化したパーツや、遺跡に潜り込んで手に入れた市販品を使用していた。

 一応、館山要塞が復旧した際に製造した部品で、改修はしたのだが、これでも完品のハルカタイプには程遠い。


「はい、問題ありマセン」


 それでも、ジェネレータを市販品の常温核融合炉から、軍事規格の核融合炉に積み替えたハルカのスペックは、以前と比較にならない程跳ね上がっていた。


「さぁ、派手に行くとしまショウカ」


 そう宣うと同時に、彼女は店の天井を突き破り、大通りに踊りでると、左手の百二十ミリを構える。

 複眼センサーによる初の遠距離射撃の相手が、狙わずとも外れそうにない巨大な柱と言うのは、少しばかり不満があるが、どうせ射撃目標には事欠かなくなるのだ。

 黙って砲口をそれに向けると、ハルカは引き金を引いた。


 砲が火を噴くと、砲身自体が縮退機となった大きく後退し、彼女の肘もそれに合わせて大きく後ろへと振りかぶる。

 アスファルトの地面に食い込ませたスパイクパンプスのせいか、ハルカの立つ地面は大きく捲りあがった。


 飛んでいった榴弾が柱に直撃し、思ったよりも脆いソレを大きく砕く。

 どうやらあれは蟻塚のようで、中で作業をしていたアントリオンが瓦礫と共に地面へと落ちていく姿を、彼女はしっかりと視認したが、それによって何かしらの疑似感情を抱く事はない。

 ハルカの関心は、足裏にある振動感知センサーへと向いている。


「怒れる蟻の群れがきマスネ。レア様、決してそこから顔を出さぬよう、願いマス」


 防衛陣地を構築した店舗に隠れた少女から、返事はないが、聴こえただろうと判断し、骨格フレームの固定を解除し、戦闘プログラムを固定砲撃ルーチンから、機動銃撃戦ルーチンへと変更した。


「ぱぁりない、と言う奴でございマスネ!」


 そして、地下道を通って現れた人型蟻の群れに、威嚇するような笑みを向け、突き付けた機関砲の引き金を引く。






 一方サイハテは、陽子を引き連れて、建物内を移動していた。

 この商店街の建物は、全てが通路で繋がれており、迅速な搬入と客の歩く道を邪魔しないようになっている。

 それは今、彼等二人が敵に見つからないように、本丸のある聖堂へと接近するのに、役立っていた。


「……何か、今凄い音がしなかった?」


 百二十ミリ砲が火を噴いた時に産まれた衝撃波は、ドーム型の地下遺跡全体に反響し、陽子の耳にも届いていた。

 彼女は、ぽろぽろと落ちてくる埃に掌を翳しながら、眉間に皺を寄せる。


「ハルカの120mmだろう」


 薄暗いバックヤードの中を、目を凝らしながら歩いている彼にとってはどうでもいい事だったのだろう。

 頭にかかった埃を振り払う事もせずに、サイハテは慎重に崩れた段ボールをどかすと、腰の高周波ブレードで、壁にゆっくりと慎重に穴を開け始める。

 開けた穴を覗きこんだ彼は、小さく頷くと、背後にいる陽子へ覗いてみろと、穴を指差した。


「……何?」


 言われた通りに覗いてみると、そこは巨大な蟻塚の麓である。

 先程の砲撃で崩れたのか、巨大な砂岩のような瓦礫、恐らく、蟻塚の一部が地面へと落ちていて、いくつかのアントリオンを踏みつぶしていた。

 半壊した柱の周りは慌ただしい、瓦礫を撤去する者、それを指示するもの、まだ生きてもがいている者を救助しようとする者がひしめきあっている。


「すっごい数ね……」


 先程の砲撃に対応する為に、大部分の蟻が出払っているのだろうが、それでも二人で突破できるような数ではないように思えた。


「ああ、まともにやってたら命も弾薬も足りん。そこでだ」


 陽子が見守る中、サイハテはゴソゴソと背嚢を漁ると、二つのガスマスクを引っ張り出して、一つを少女に投げ渡す。


「殺虫剤作戦で行こうと思う」


 ガスマスクを付けた彼は、グレネードラックに吊り下げていたいくつかのグレネードを取り出してみせる。


「……サイハテ、それってまさか」


 毒ガス?

 そう尋ねようとした瞬間、彼が躊躇なく安全ピンを引き抜いたので、陽子は慌ててマスクをかぶる。それと同時に、ガスグレネードが放り投げられ、阿鼻叫喚の渦である聖堂前へと投げ込まれた。

 噴出音はすれど、ガスの色は見えない。


「無味無臭無色の神経ガスだ。吸えば命はない位強力なガスだが、皮膚からは吸収されないし、空気より重いから拡散し辛い。些か人道的な非人道兵器だな」


 マスクをかぶりながら、そんな冗談を抜かすサイハテに、白い目を向けながら、外の様子を眺め見ると、先程まで居た蟻全てが、地面へ倒れ伏していた。

 まだ、死にきれていないのか、もがいているのも何匹か存在し、その威力に陽子は思わず吐き気を催してしまう。


「……行きましょう。さっさと回収して、さっさと帰るわよ」


 いつか、あのガスが館山の街を襲うかも知れない。

 いつかあのガスで、サイハテが死ぬかも知れない。

 そんな恐怖が彼女の脳裏に過ぎるが、頭を振って、その嫌な想像を振り切り、陽子はそう宣言すると、自動小銃のグリップを強く握り込む。

もう新年だよ。

書く時間全然ないよ。

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