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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
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クリスマス特別編:血濡れのキャロル3

 たどり着いた場所は、噂に違わぬ程に巨大な遺跡だった。

 元々はカトリック系の聖堂を中心に作られたアウトレットモールだったのだろうが、東京に近かったせいか、それとも大規模な地殻変動があったか、その場所は大地に沈んでいる。

 聞くところによると、そっくりそのまま沈んだ為に遺跡部分の大部分はそっくりそのまま残っているらしい。


「……厄介だな」


 サイハテがぼやく。

 地下遺跡だと言うのに、トラックでは通れない程度の出入り口には文明の灯りが灯り、それなりに明るい。

 つまり、終末前の警備システムがそのまま存在している可能性があり、存在していなかったら、それを打破しうる感染変異体が存在すると言う事だ。


「これは……キツイかもね」


 陽子も同意見なようで、彼の意見に賛成の意を示した。

 彼女の手には、アルファ・クランが後に正式採用する一式自動小銃が握られており、レールガンは背中に背負われている。


「んー……」


 背負ってきた機械から、何かのアンテナを伸ばして地下遺跡の開口部に向けたレアは、難しい顔で液晶パネルを見つめ、サイハテの方に向き直ると、伝えた。


「せーたいはんのー、あるけど……」


 液晶を見つめたまま、呻くように呟いた彼女は、更に難しい表情をする。


「どうした?」


 液晶画面を隣から覗きこんだサイハテも、同じような表情になった。

 なにしろ、生体反応を示す光点が、この遺跡全体に広がっているのだ。遺跡を埋め尽くす勢いの光点に、思わずうめき声をあげる。

 このパターンは、凄まじくでかい感染変異体が存在するか、それとも大量の変異体がひしめきあっているか、だ。


「……よし、ちょっとだけ偵察しよう。ダメそうだったら、すぐ帰る」


 だが、サイハテは感銘を受けて、牧師の為にこんな遺跡までやってきている。危険そうだから帰りました、では怪しまれてしまうだろう。

 だから、その巨大感染変異体の画像か、それとも埋め尽くす程の変異体の画像でも無ければ、言い訳が効かないのだ。


「……そうね。ヤバそうだったら、すぐに撤退しましょ。陣形はいつものでいいのね?」

「ああ、いつもの陣形だ」


 いつもの陣形とは、サイハテが十メートル程先行し、ハルカを先頭に、レア陽子が並ぶ形の陣形である。

 サイハテが敵を発見、ハルカが火力で牽制し、陽子が遠距離射撃で敵を減らし、レアが手持ちの機械で周囲を警戒するシフトだ。

 この陣形は、サイハテとハルカが殿になって、近接戦闘が苦手な陽子とレアを真っ先に逃がせる事に尽きる。


 しかも、陽子とレアが安全圏まで退ければ、ドローンによる攻撃と、狙撃による支援の中、二人も撤退する事が出来た。

 かなり理に叶った陣形なのである。


「よし、いつも通り、先行するぞ」


 サイハテはそう宣言すると、アサルトショットガンに初弾を装填し、銃口を自分が向いている方向に向けながら、開口部へと入っていく。

 十メートル開いたと判断したのだろう、ハルカが振り向いて、二人に言う。


「参りマス。離れないようニ」


 人工声帯特有の、語尾が跳ね上がる癖を残した宣言に、陽子は自動小銃を構え、レアはサブマシンガンを搭載した飛行ドローンを二基展開し、返事とした。

 彼に続いて、狭い開口部を歩く三人組を、傾いた電灯の無機質な灯りが照らしている。

 狭い開口部を抜けると、崩れかけた天井が目に入る。天井と言うよりは、あれは何かの背骨に見えると、陽子は天井をじっと見つめた。


「……ねぇ、レア。あれってさ。生き物の骨よね」


 小銃に取り付けられたフラッシュライトを上に向けると、レアがそちらを見て、唸る。


「……そーだね。ごーきんせーだけど、せぼねと、あばらぼねに、みえる」


 酸化してすっかり錆びているが、形状からして、生物のそれにしか見えないものだ。

 金属の骨格を持つ、超巨大生物が覆い被さったせいで、このアウトレットモールは地下に沈み、その骨が残ったおかげで、埋もれる事無く終末前の姿を保っているという訳だった。

 だが、陽子は一つの懸念を口にする。


「ねぇ、生体反応。今はどうなってる?」


 物凄く嫌な予感がしたから、尋ねてみたのだが、その予感は当たったらしい。


「……! さっきのいりぐちに、しゅーちゅーしてる!?」


 間延びしたまま叫ぶと言った器用な叫び方をした彼女は無視して、前方に向かったサイハテへと、大きな声を飛ばす。


「サイハテ! 包囲された!!」


 叫びながら後ろを振り返ると、開口部から人型の生物が雪崩打ってくる。

 だが、陽子とて安穏と生きてきた訳ではなく、こう言ったピンチが幾度とも迎えており、考えるより先に、体が反応した。

 勝手に構えられ、狙いを付けられた自動小銃からFMJ弾がばら撒かれる。


 雪崩の一列目を掃射で薙ぎ払ったが、こんな物は焼け石に水だった。

 ライフルをスリングで担ぎ直し、背負っているレールガンを使おうとした瞬間、跳躍したハルカが前に降り立って、叫んだ。


「西条様の援護ヲ!!」

「わかった!!」


 レアが展開したドローンがサブマシンガンで攻撃した瞬間、ハルカが持っていた30mm機関砲が火を噴いて、後方の感染変異体集団を粉みじんにしていく。

 十メートル先に居るサイハテの下に駆け出した陽子は、彼がまた大量の感染変異体に囲まれている事を確認し、レールガンを展開した。


 低出力の立射モードで起動し、四本のレール、その先から磨いていた弾針を押し込んで狙いを付ける。

 そして、そのまま引き金を引くとリコイルコントローラーが作動し、電気振動で膨らませた空気を噴き出して、リコイルが軽減した。

 飛んでいった弾針は、人型感染変異体の群れに、大きな穴を穿ちながら、遥か向こうまで飛んでいき、建物の一つを吹き飛ばす。


「助かった!!」


 その開いた穴から、焼夷散弾をばら撒きながら、サイハテが走り抜けてくる。

 陽子の元まで走ってきたので、彼女はその意図を理解し、再びレールガンを背負い直し、彼に向かって両手を差し出した。

 抱き着くように少女を抱えあげたサイハテが、後方で敵を押し留めている二人に向かって声をかける。


「逃げるぞ!!」


 その声を聴いた二人は振り返る事もしない。

 レアは、ハルカの元まで駆け寄ると、その背中にぴょんと飛び乗り、重量を検知した機械侍女は機関砲を量子ストレージの中へデータ化して仕舞うと、サイハテが逃げる方向へと走ってくる。

 彼に並んだハルカが問う。


「どうしマス?」


 それに対し、サイハテが怒鳴り返す。

 抱き上げられた陽子が、拳銃で追ってくる敵を倒しているからだろう。


「隠れてやり過ごす!! レア!! 生体レーダーから目を離すなよ!!」


 後はレアの指示に従いながら、敵を撒くだけである。

書き上がってた部分はここまで

五部位になりますかね


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