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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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十一話:レアの秘め事

フォールアウトで言うとメインクエって感じです。


今までのメインクエ

・街から脱出しろ

・少女を救え

・レアの秘め事←今ここ

 降雨量は昨日からさして変わっていなかった。

 陽子は窓の外を見て、大きく溜め息を吐く。まるで自分の心の内を現しているようではないか、なんてセンチメンタルな事を考えながら食器などを洗浄するのだ。

 ちらりとサイハテを見る。

 彼は手直しした安楽椅子の上で本を読んでいる。

 あの本は確か、陽子が図書館から持ってきた彼の小説だろう、物凄く渋い表情をしているのが、見て取れる。

 美化され、捻じ曲げられた自分の戦いに対しての感情なのか、それとも、思い出したくない事でもあったのか……それはサイハテのみぞ知る。


「……ねぇ、サイハテ」


 乾いた布で、金属の皿を拭き終わった時に、陽子は口を開いた。


「なんだ?」


 サイハテは視線を動かさず、返事だけを返す。

 言うべきか、言わざるべきか……。迷っていると、サイハテの視線がこちらへと向いてくる、何者でもない、誰の色も映っていない瞳が陽子の姿を映し出している。

 まるで無機質な鏡のようで、不気味な事この上ない。


「あんたはさ、なんのために戦ったの? 中国で」


 戦争を生み出すために渡って、恋人を殺し、最後には利権の為に散って行った男は、一体全体何を考えて戦っていたのだろうか。

 サイハテは以前語った、大多数の幸福の為に、死んだだけだと、だがそれは真意ではないような気がしたのだ。彼にだって、幸福を求める権利があったはずだ、日本国に多少の危険を残したままでも、彼は幸せに生きる道だってあったはずなのだ。


「……………………………………」


 サイハテは口を開かない、前のような無機質な……まるでそこに誰もいないかのように佇んでいる。

 胃の痛くなる空気が二人の間に流れる、本の一分ほどの沈黙なのに、まるで永遠に感じられるような時間が過ぎていく。


「忠誠心だ」


 立っているのも辛くなった陽子に、サイハテの声が届く。


「忠誠心?」

「そうだ、国家と国民への忠誠から俺は戦った」


 その忠義は終ぞ報いられる事無く。


「忠に生きて、忠に死んだ。ただそれだけの物語(お話)だ」


 西條疾風は、裏切りの中で死んでいった。

 最後まで国家を信じて、死んだのだ。


「……あ、あんたまだ生きているじゃないの」


 公文書でも、西条疾風は死んだ事になっている。

 しかし、陽子の目の前にはしっかりと存在している。日本の足で立ち、五体満足の体を持って、あの危険な街から逃がしてくれたのを覚えている。

 死んだのなら、あんな姿はしていないはずだし、ここにもいないはずだ。


「……それは俺にも不思議なんだ。この本を読んだなら、君にも俺の最後がわかるだろう?」


 それはラストシーンの話。

 陽子は本の内容でずっと気にかかっていた事、脳に引っかかっていた事を、無理矢理なかったことにしたのだ。


「だって! だって、それは……脚色された物語じゃないの」


 そう、本はあくまでも、本。フィクションであって、作り話であって、現実じゃないはずなのだ。何しろサイハテは、諜報員なんだから、記録や目撃証言があってはいけないのだから。


「いいや、この本はラストだけは正確だったぞ。何しろ俺はな……トドメにロケット弾を喰らって木端微塵になったんだからな」


 正確には、鳩尾より下がミンチになったと言うことだ。

 失血で朦朧とする意識の中、自衛隊がテロリスト共を殲滅する所をサイハテは見ていたのだ。残った部分で、その様子を見てから彼は死んだのだ。

 間違いなく、死んだのだから。


「嘘よ! だって、そしたら、ここに居るサイハテは何者なのよ!」

「俺が知りてぇよ」


 死んだはずなのに、生きている。

 これはとんでもない矛盾だ。

 いくつか考えられるのは、この西条疾風は記憶を植え付けられた別人だとか、若しくは、今レアが弄っているバトロイドのような戦闘機械人なのかだ。

 しかし、どちらも当て嵌まりそうで当て嵌まらないのである。


「ぼくしってる」


 部屋の片隅で、様々な機械を弄っていたレアが、唐突に声を上げる。そちらの方に視線を向けると、レアはこちらに背を向けたまま、もう一度だけ、同じセリフを吐く。


「ぼくしってるよ」


―――――ぼくはあなたがほしいものをしってる。


 かつての言葉が、サイハテの脳内でリピートされる。

 吐かせるかと、腰のナイフに手を伸ばすと陽子がギョッとしたような表情でその手を抑え着けた。


「ただ、ぼくがくちでせつめーするより、じっさいみたほーが、りかいがすすむ」


 そう言うや否や、レアは無線機とポケットターミナルを投げ渡してくる。無線機はサイハテの時代のものより大分小型で、ポケットに楽に収まりそうなサイズだ。

 ポケットターミナルは、いわば一枚のガラス板だ。色合いは薄いグリーンで四方に剥き出しのコネクターが着いている。


「いこうよ、さいじょーがうまれたばしょへ」

武装解説

56式高周波刀

SFのお約束、高周波ブレードの一種。

高周波にて原子や分子同士の結合を解除して断ち切る剣。刃に触れた部分がデロリと溶ける為、人に突き刺したりしたら大参事になる。

高周波ブレード同士でしか打ち合えない一品だが、人間相手にはこれを使うより拳銃やサブマシンガンを使った方が強い。

ただし、どんな物体でも破壊するので、使いようによっては使える。

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