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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
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四話:文明の残滓

若干短いですが、巻きで行く事にしました。


 森を抜け、病院の駐車場へと突入しても背後に迫る感染変異体の数は減る様子は見えない。

 終末前から存在する放置車両を乗り越え、よろけたサイハテに肩を貸しながら病院へと走るも、彼女の胸中には言い様のない不安が去来する。

 一度躊躇してしまえば、風音の足は鈍り、肩を貸してもらっている彼の足も鈍るのだ。


「……大丈夫、だ。このまま、行こう」


 最早走る事が出来なくなったサイハテが、迷う娘に対して道を示す。

 言い返そうと考える少女だったが、そんな事をしては更に速度が落ちて、背後に迫る不気味で巨大な毛虫の群れに食いつかれる事になる。

 文字通り、あの乱杭歯で手や足を齧られる羽目になるので、野外で囲まれるよりは、狭い室内の方がまだ立ち回りやすいと自分に言い聞かせて、風音は病院へと急ぐ。


「……鬱陶しい、な!」


 群れの先頭から、全身を使った跳躍を行って迫ってくる毛虫を切り払いながら、ガラスが砕けて、すっかりオープンになった病院へと駆け込むと、唐突にサイハテが叫んだ。


「伏せろ!」


 反射的に従って、彼を庇うように地面へ伏せると、凄まじい轟音が広く取られた受付へと響き渡った。

 二人を追って、病院へと突入した毛虫はその轟音が響く度に、炭素へと変換されて崩れ落ちていく。

 その轟音が止む頃には、恐れを成して森へと引き返していく、毛虫の群れの背中が、顔を上げた風音の目に映っていた。


「……一体何が?」


 サイハテを助け起こし、無事だったソファーへと座らせながら、思い付いた疑問を口にした所、喉の奥が引き攣ったかのような、苦しい声で返答が返ってくる。


「プラズマ、タレットだ」

「プラズマタレット? こんな所に?」


 再び返した問いに、彼は辛そうに唾を飲み込みながら、ゆっくりと口を開く。


「ああ。病院、等、の独立した、施設には……未だ、前文明の、防護、施設が……残っている場合が、ある。それも、稼働、状態を、維持、したまま……で……」


 彼が指差した方向を見つめると、天井に固定されたいくつものタレットや警報装置が見える。


「……こっちを狙っては、いないみたいだ」

「ここ、は、病院……だぞ? 患者を、追い返し……て。どう、する」


 そう言いながらゆらりと立ち上がったサイハテは、傷口を抑えながら、ゆっくりと歩こうとしていた。


「待て! わたしが先行する!」


 慌てて彼の後を追い、隣に並ぶと、彼は壁に貼り付けられている古ぼけた案内表示板を指差し、億劫そうに口を開く。


「ここは、安全だ。それより、薬剤、保、管庫、から、取って、きて、ほし……い、もの、が……」


 そこまで口にしたサイハテが、突如として崩れ落ちた。


「父さん!?」


 悲鳴に近い叫び声をあげて駆け寄る風音を、手で制する。


「大丈夫だ。それ、より、清潔な、メスと、ピ……ンセット。生、理食、塩水……抗生、物質……増活剤も、あれば、頼む」


 ゆっくりと起き上がった彼は、肩で息をしながら、最低限の手術道具と、治療用の薬剤を要求してきたのだ。

 だが、風音に、手術を出来る程の医療知識はない。


「わかった、すぐに探してくる……奥の手術室で合流、で、いいのか?」


 壁に寄りかかったまま、彼は何度か頷くだけだ。

 覚醒剤の効果で、なんとか意識を保っているだけの状態になった父に、あまり時間が残されていない事を悟った風音は、一度だけ頷くと、すぐさま駆け出した。

 振り返りもせずに、ただ、一言だけ、伝える。


「すぐに戻る!」


 彼女が駆け出した事だけを確認したサイハテは、よろけながら手術室を目指すのだった。

いい加減そろそろ、真っ当に親子させたいですから、ご了承下さい。

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