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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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四十九話:新人類の王

大分遅くなって申し訳ありません。

子犬拾っちゃって、里親探しとかで、てんやわんやでした。

 西条疾風は心臓を潰した位では止まらない、残された時間を全て使って、打倒しようと迫ってくると、ノワールはよく知っている。

 普段は大した事のない臆病者ではあるが、一度覚悟が決まってしまえば、どんな手を使ってでも目的を完遂する執念深さを、彼は持っていた。


 こうなったサイハテを止める手段は、一つしかない。

 それは、頭から脊椎を一度で全て破壊し尽くす事だ。

 頭だけ潰しても、奴はまだ戦うだろう。脊椎だけでも、まだ奴は向かってくる。だが、そのどちらも破壊されてしまえば、生物として物理的に動けなくなる。


 彼に対して、完膚なきまでの勝利を望むのならば、こうする他方法はなく。仕損じれば、手痛い所か全てをひっくり返す一撃を放つ。

 ならば、一撃で全てを破壊する威力を持った攻撃で、サイハテを殺す他ないのだ。

 樫よりも堅く、柳よりも柔らかく前進を撓らせ、鞭のように彼に迫る。


 才覚溢れた(ノワール)が、出来損ないの(ジーク)に向けて放つ一撃は、どこで受けても生物の体ならば、砕け散ってしまう程の威力を誇っていた。


「死ねぇ!」


 お互い人知を超えた肉体を持つと、格闘戦は裏の掻き合いに近い。

 それ故に、壁と柱を経由して、ありとあらゆる武術でも想定し辛い上方からの攻め手を駆使し、必殺の一撃を放つ。

 上から来ると、理解していても、決して躱せず、腕で防御しようものなら、防御ごと全身を叩き潰す、正しく、必殺の蹴りだった。


「ぐぅ!?」


 命中すると、サイハテは悲鳴のような苦悶の声を上げる。

 それと同時に、ノワールは驚愕する。驚愕の対象は、防ぎ切った彼に対するものではなく、その手に持つ刀の強度だった。

 平で受けても、撓むだけで、砕けもしないその強度に、一瞬思考が真っ白になる。


「糞がぁ……!!」


 反撃に移られる前にと、サイハテをローリングソバットで蹴り飛ばし、距離を取った。

 しかし、彼が壁に打ち付けられる音と聞いた瞬間に、悪手と取ったと後悔する。

 圧倒的優位で、覆る事のない戦況だったはずなのに、ノワールは諦めたように両腕を下ろし、小さく舌打ちすると、サイハテを褒めたたえるのだ。


「……お前の勝ちだ。ジーク」


 彼の姿が見えなくなった。

 サイハテが得意とする、脳の虚を尽き、完全に視界から消え失せる臆病者の極致を食らい、一先ずは敗北した事を悟る。

 探しても、見つからないのだから、どうしようもない。


「そうだな。俺の勝ちだ」


 彼の声が聞こえた時には、既に刀が心臓を貫いていた。背中まで一直線に貫通した、黒塗りの刀は、敗北を確定させた、忌々しい物だ。

 サイハテはそれを引く抜くと、手首を返して、ノワールの首を刎ねる。

 皮一枚残した、綺麗な斬首と共に、男の体は糸が崩れたように膝から倒れ、地面に伏した。


 それと同時に、サイハテも崩れ落ちる。

 ショック死しても不思議ではない失血と、折れていない骨の方が少ないと言う満身創痍に、いくらタフでも、堪えたのだろう。

 腰のポーチから包帯と痛み止めを引っ張り出して、治療をしようとしたその時である。


 壁を突き破って現れたジープに一瞬困惑してしまうが、風音に車を取ってくるように頼んでいた事を思い出して、無理矢理立ち上がった。


「……!」


 ドアを蹴破らんかの如く開いた少女は、父の姿を見咎めると、顔色を蒼白に変える。


「よう、早かったじゃないか」


 苦悶の表情を隠そうとして、引き攣った笑みを浮かべたサイハテは、そう言い放つ。

 心配をかけすぎて、叱られるのも仕方ない、そう考えている彼に返ってきた言葉は、予想できないものであった。


「父さん! 避けて!!」


 悲鳴のような叫びに、一瞬面食らってしまったのが、命取りだった。わき腹に突き刺さる激しい痛みを感じた瞬間、石柱の所まで弾き飛ばされて、打ち付けられてしまう。

 凄まじい衝撃に咽こんでいると、聴こえるはずのない声が聞こえて、思わず顔を上げる。


「あーあ、ひでぇなぁ、ジーク。何も首まで刎ねる事ないじゃないか」


 皮一枚繋がった首を、風鈴のようにふらつかせながら、男は語る。


「だがいいさ、これくらいなら……」


 斬られた首から筋繊維のような触手が伸び、垂れ下がっている頭を持ち上げると、元に位置に戻してしまう。

 蘇ったノワールは、再生した首を確かめるかのように何度か回して、骨を鳴らす。


「治ってしまうからね……アハハ、ハハハハハ! アーッハッハッハッハ!!」


 負わせたはずの怪我も、貫いたはずの胸も、まるで粘土細工のように皮下が蠢いては、何もなかったかのように再生されていく。


「どうだい? 僕の力……いいや、新人類の王が持つ不死性は!!」


 弱り切っていて、立ち上がれない彼の下に歩み寄りながら、元気いっぱいのノワールは語り続ける。


「これが人類が目指した、不老不死の力……H-DIEの本当の能力……さ!」


 サイハテを蹴り上げる。弱った彼は面白いように跳ねて、壁際まで転がって行った。

 がたついた体を引きずりながらも、何とか立ち上がろうとする彼を見ながら、ノワールは懐から出した血塗れのシガリロに火を点ける。


「まぁ、そんな事はどうでもよろしい。まだ、気力だけは衰えていないみたいだな?」


 だらりと垂れ下がった腕、開きっぱなしの傷口、変形した輪郭の中でも、残った一つだけの目は爛々と輝いていた。

 緩やかに立ち上がったサイハテは、肩で息をしながらも、彼を睨みつけている。


「よろしい。ならば、第二ラウンドと行こうじゃないか……」

子犬は、知り合いのお子さんを持つ家庭へ貰われていきました。

旦那さんも奥さんも、犬と共に育ったお方なので、大丈夫だと思います。


尚、予防接種とかで、亜細万の財布は死んだ。

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