四十二話:第一装甲化歩兵大隊2
サバトに置いて、元来の駆動甲冑は歩兵の延長線上にある兵器として扱われていたのだろう。
第一装甲化歩兵大隊の扱う駆動甲冑にも、水素式のロケットは付いているものの、新型の駆動甲冑に装備されている超振動ジェットのような、電力さえあれば、いくらでも空を飛べるものではない。
積める水素の量にも限界があり、新型のように飛行を念頭に置いたものではないのだ。
それ故に、新幹線並のスピードで戦場を駆け抜けるサイハテに、翻弄される。
駆動甲冑のパワーは人並を外れているとは言え、その移動手段が徒歩中心に限定されてしまえば、歩兵の機動力にプラスアルファ程度の速度しか持たない。
事実、装甲化歩兵大隊の彼らは、水素ロケットを物凄く高く飛べるジャンプとしか、活用してこない。
あくまでも彼らは、その部隊名の通りに、装甲化された歩兵の大隊でしかないのだ。
如何に分厚い装甲を持っていようと、如何に拡大された機動力を保持していようと、対応する戦術は、歩兵を相手にするソレに、駆動甲冑を打破できる程度の火力を加えた物で十分だった。
チェーンガンに搭載された最後の弾倉を叩き込みながら、サイハテは、そう思う。
「……ちっ、弾切れか」
武器を捨て、敵の̠火線から逃れるように稜線へと身を隠す。
付け焼き刃ではあるが、リズに少しだけ手を加えて貰ったOSは、無理矢理増設されたウエポンラックにも対応している。
残った武装は戦車等の重装甲目標相手に使用するミサイルランチャーと、使用を避けてきたレーザー兵器、元々使っていた二振りの高周波ブレード位しか残っていない。
六発しかないミサイルで、残る十六の駆動甲冑を撃破出来るとは思えない。彼は仕方なく、よくわからない武器である光学兵器を使用する事に決めた。
発破ボルトで、レーザーライフルを固定していたマウントパイロンを吹き飛ばして、グリップを握る。
使うと決めたが、やはり好みではないと、サイハテはぼやく。
「……ああ、糞。嫌だ嫌だ。なんで俺がこんなものを使わなくてはならないんだ」
紫外線レーザーを収束させる収束機が、最も大きな部品だろうか。
それが、頼りない樹脂フレームの上にどかっと乗り、そこに接続されたレーザー発振器は、思ったよりも小型で、マガジン代わりのエネルギーセルは、サイハテの小指サイズだ。
不格好で、頼りない。それが、ライフル型のレーザー兵器を担いだ、サイハテの言い分であった。
「嫌だ嫌だっと」
振動ジェットを使用して、高度500メートルまで上昇し、武器を構える。
試射すらしていない兵器だが、元々この駆動甲冑で使用する予定だったのか、照準システムは搭載されているらしい。
サイハテの出来る事と言えば、モニターに表示される照準に従って、引き金を引くだけだった。
本来は不可視のレーザー光なのだが、空気と触れ合った瞬間、その余りのエネルギー量にイオン化後、即プラズマ化して、空を裂くような奇跡が残る。
そんなエネルギーの直撃を受けた敵の甲冑は一瞬にして溶解、中のパイロットは蒸発し、辛うじて残った脚部の装甲は真っ赤に焼けただれ、自重に耐えきれず、柔らかそうに曲がった。
「……ああ、糞ったれ」
その有様を見ていたサイハテは、敵からの対空射撃を回避しつつ、そう漏らす。
敵を一撃で無力化出来る、汎用性の高い兵器、と言えば聞こえはいいが、当たれば骨すら残さずに蒸発するなんて、非人道的行為にすぎる。
ついでに、一発撃つと冷却が入って、しばらく攻撃できなくなるのも、彼には気に食わない。
レーザーライフルを投げ捨て、敵の火線を掻い潜りながら、高周波ブレードを引き抜いた。
このブレードは出発前、レアから渡されたそれだった。サイハテより一回り以上大きい駆動甲冑の手には、少々小さい代物だが、それでも、白兵戦用の武装はこれしかない。
接近した敵機を一振りで切り裂いた彼は、残った手でミサイルをばら撒いて、さっさとこの戦闘に区切りをつける事にした。




