四十一話:第一装甲化歩兵大隊
立花を蹴り飛ばした時に、己をミスを痛感した。
この駆動甲冑はここまでの重装備を想定して、設計されている訳ではなかったらしく、先程の一合で脚部のフレームが悲鳴を上げている。
コンディションイエロー、機能を喪失する程ではないが、戦闘を続行できる損傷ではない。
いくつかの武器をパージすれば、まだ戦えそうではあるが、山陰の向こうに待っているのは、一個大隊程の機甲戦力だ。
全ての武器を使い切ってしまったら、最後の手段として持ってきた、太腿に括り付けたPDWと、それの予備弾薬をマガジン三つ分の歩兵装備を使用するしかなくなってしまう。
ある程度は現地調達で賄えるだろうが、武器を拾いながら戦闘を行うなんて、考えただけでもぞっとする。
本来ならば、ここで一度引き返し、機を見て、もう一度挑むべき事態なのだが、そのもう一度がやってくる可能性は限りなく低い。
そして、この戦いこそ、敗北してはならない一戦なのだった。
「……今、行くからな」
言葉で、急速に萎えていく勇気を奮い立たせる。
幸せになって欲しい人の為に、とは誰の言葉だっただろうか。
聞いた時は、子供の感情論に聞こえて、青臭さに鼻が曲がりそうだったが、こうなっては成程確かに、民主主義や自由なんてフワッとした物よりも、ずっと有意義な理由だと感じる。
命を賭けるのならば、思想や理念の為よりも、大切な誰かの為の方がいい。そんな当たり前の事を、大の大人が自分よりずっと小さな女の子に教えられた。
サイハテは装甲の奥で笑う。
奇しくも、探していた答えの一つが、そこにあったのだから。
勢いよく谷から飛び出すと、そこには人工的に整地された広場が広がっていた。
ゴルフ場のように広い平地で、山を削ってこれを作ったとなれば、相当な予算がかかったに違いない。
しかし、それほど予算をかけたにも関わらず、鉄条網にコンクリート製のトーチカ等で、景観はすっかり最悪になってしまっている。
だが、サイハテは別荘を探しに来た訳ではない。
目標は、中心に立つ立派な建物よりも、周囲に張り巡らされた防衛線の奴等だった。レーダーと生体センサーを使用し、駆動甲冑のAIに数を計測させる。
そして、その中から装甲目標だけを選別し、無理矢理括り付けた八基の四連ミサイルポッドで攻撃を実行した。
「チマチマ使うのは、性に合わん! ありったけだ!」
三十二発のミサイルが尾を引きながら目標へ向かっていくのを確認し、空になったポッドを投棄する。
後はこのまま着地して、奇襲効果の薄れない内になるだけ多くの駆動甲冑を撃破するのだが、どうにも歩兵の数が多い。
なので、両腕に装備した20mmチェーンガンで、対戦車ミサイルの傍に居る歩兵だけを薙ぎ払っておく。
そうしてからようやく、ミサイルと20mm弾の土煙の中へと着陸し、余分な装備であるスモークディスチャージャーを使用して、サーマルスモークを巻き散らす。
『糞……敵襲だ! 敵は駆動甲冑一機! 繰り返す、敵は駆動甲冑一機!!』
『はぁ!? 駆動甲冑一機に、あれだけのミサイル詰めるのかよ!!』
無線を調整したリズのお陰で、敵の無線が聞こえてきた。
混乱しているように見えて、モニター上のターゲットは土煙の向こうで素早く包囲行動に移っている。鍛え上げられた精鋭だと、彼は判断し、まだ完成していない包囲の部分に居る敵機に向かい、20mmをお見舞いする。
『くそっ。日下がやられた!!』
撃たれた駆動甲冑が崩れるのと同時に、誰かの悲鳴が聞こえた。
そうして作った隙間を、超振動ジェットを利用した、疑似ホバーを駆使して抜けていく。
スローラムと言えなくもないジグザクの回避軌道を行いながら、牽制と本命含めた連射を敵に浴びせるが、やはり精鋭なのだろう。あっさりと散会して、サイハテへ攻撃を仕掛けてきた。
『追い詰めろ、敵は一機だ』
『タンゴエイト、タンゴナイン! ついてこい!!』
広く散会した多数の駆動甲冑が制圧射撃を行い敵の足を止め、少数の駆動甲冑が突貫して目標を仕留めると言う戦術だ。
実際、サイハテの身に着けている甲冑の装甲は、彼らが持つチェーンガンを何度も防げる程分厚くはない。下手に動けば当たってしまう状況、普通の兵士ならば成すすべなくやられてしまう、いい戦術だった。
しかしだ。
彼らが相手にしているのは、激動の時代二十一世紀において、超軍事大国相手に戦い抜いたアルファナンバーズ、その長である。
銃口の向いている方向から、射撃範囲を予想し、そこに産まれた隙間を抜けるなんて芸当を行える変態には有効ではなかった。
超振動ジェットの疑似ホバー移動を駆使し、すり抜けるように射線を躱しながら、制圧射撃をしている駆動甲冑を仕留める。
接近してきていた敵から、射撃されて、いくつか直撃したが、大事には至っていない。
そのまま、滑るように移動を続けて、攻撃をする事にした。




