三十七話:殲滅戦3
今回は短ぇです。
電解液の電力が全て無くなってしまったのだろう。
先程まで軽やかに動けていた四肢はがっちりとロックされ、指一本動く事はなく、様々な映像処理を行っていた投影型モニターは、ただの樹脂プレートと成り果てている。
それでも、落ちていると理解できるのは、体にかかる浮遊感のお陰だろう。
今、空のどのあたりに居るかなんてサイハテには理解できないが、少なくとも、地面へ向かっている事だけは確かだった。
いくら駆動甲冑が頑強と言えど、中の人間が頑丈になった訳ではない。
地面にぶつかった瞬間、甲冑で殺しきれないエネルギーが、己を圧殺する。彼は、そんな知識も持っていた。
「……」
だが、取り乱す事はない。
サイハテとて、間近に迫った死は怖いのだ。
今際の際まで、意地を張り続ける人間は、存在しない。特に、誰も見ていない状況ならば、どんな強固な精神を持っていたとしても、取り乱すだろう。
「……そろそろだな」
閉じていた目を開く。
相変わらず、樹脂プレートには何も映し出されていないが、彼には確信があった。
リズが二十秒といったなら、二十秒で目的は果たされると言う事を。
「来たっ!」
突如として、樹脂プレートに映像が映し出された瞬間、サイハテは全力で振動ジェットを吹かした。
体にかかるGのお陰で、再びブラックアウトを経験しながらも、手に持っていた対戦車ライフルを構えると、こちらに向かってきている偵察部隊の、装甲車へと狙いをつける。
照準の十字線を合わせ、唇を舐めると、叫ぶ。
「さあ、ロックンロールだ!」
そのまま引き金を絞ると、発射薬の大きな衝撃で、機体は大きくバランスを崩した。
空中で一回転しながら、バランスを保つと、光の尾を引きながら弾薬は直進し、吸い込まれるように装甲車へ突入し、大穴を穿つ。
装甲は身を守る盾でもあるが、打ち破られた時、破片となって、搭乗者を殺傷する刃ともなる。
「悪くない」
と、サイハテは75mmライフルの威力を評価する。
正面装甲を突き抜けて、内部で爆発するタイプの徹甲榴弾だったこともあり、動きの止まった装甲車から、歩兵が出てくる事はない。
周囲を走っていたバギーが止まり、数人の兵士が砲撃から身を隠す為に、元は家だった瓦礫に伏せているのが見えた。
まだ発見されていない事に安堵した彼は、彼らの上空まで移動しながら、ウエポンラックに着けた機関砲と、ライフルを交換する。
そして、歩兵の上空を通り過ぎると共に、30mm砲弾の掃射を浴びせて去って行く。
生体センサーを積んでいる駆動甲冑のモニターに、反応がない事を確認してから、残りの部隊へと向かう。
「……この兵器は、厄介だな」
無傷で偵察部隊を打破したと言うのに、彼の声色には不安が入り混じっている。
それもそうだろう、歩兵の制圧力を持ちながら、ヘリの展開能力と、ガンシップの火力を組み合わせたような兵器である。
継戦能力が低いのは重々理解しているが、この兵器は戦場を変える物だと、理解できてしまった。
超振動ジェットの排熱が上手くいっていないので、一度着陸し、ヒレを冷却しつつ、彼は大きなため息を吐く。
「老兵ってのは、こんな気分なのかね……」
時代に取り残されて、使い慣れた火薬兵器だけを信じて戦ってきた男は、どこか寂し気に呟く。
「俺も、光学兵器とか使わなきゃいけないみたいだな。全く……俺も度し難い奴だ」
鉄と木でできた武器から、セラミックと強化プラスチックで出来た武器へ、移行する時の古参兵もこんな気持ちだったのかなと、考えながら、彼は再び飛翔を始めた。
目指すは、基地に向かっている他の偵察部隊である。
そして、水曜日に間に合わなかった件




