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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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九話

ギスる関係!ひゃっほい!!

 腹もくちくなった所で、今後の方針を決めるために話し合いを設ける事にした。元々は傾いた廃墟群を出る為に協力しただけの関係なのだ。

 町に付いた今、別れるなり、これから一緒に過ごすなり話さないといけないのだ。惰性で一緒に居たら、いつか必ず不幸が起こる。陽子もそれが解っているだろう、何しろ、酒場では彼女達を放っておいて仕事に出かけたのだから……サイハテに、もう陽子達を守るつもりはない。


「これから、君達はどうしたいんだ?」


 聞きようによっては、拒絶の言葉をサイハテは口にする。


「私は……特に目的なんかないわよ」


 射撃が出来るだけの女子中学生には、難しい問題である。

 生きていたころとはまるで違う状況で、陽子はあの町で人を殺しているのだ。気持ちが一杯一杯になっても無理はない。あの場は詐欺のような手口で有耶無耶にしたが、落ち着ける場所に来れば思い出してしまうのが人間だ。


「ぼくのもくひょーは、まえからかわってない」


 レアはある意味一貫している。

 不貞腐れたように唇を尖らす陽子……恐らく、人を撃った時の事を思い出しているのだろう。それといつもの如く、眠そうな表情を見せるレアは今ばかりは、陽子の事を心配しているようだった。

 陽子を見て、サイハテを見て、それを三度ほど繰り返しては何かを言おうと口をもごもごとさせている。サイハテに、一緒に居て貰うだけの理由がないから口に出せないのだろう。

 しばし、居心地の悪い沈黙が続く。


「あんたは――――。サイハテはどうするのよ」


 沈黙を破ったのは、陽子の小さな声だ。


「俺か? 俺は……そうだな、この辺りを探索してやりたい事でも見つけようかな。どこかでバイクを見つけて、それを直して日本全国を回って旅するのも楽しそうだ」


 嘘だ。

 そんな事に、西条疾風は魅力を感じていない。第一、ジープがあるのに、バイクで旅をするのはナンセンスだ。特に今はライダーハウスなんてものは存在しないのだから。


「……ねぇ、私はあんたと一緒に居たいんだけど、だめ?」


 これからやる事に思いを馳せているサイハテ―――――本当はやりたいことが何もなくて困っている―――――を見て、陽子はそんな事を口にする。


「私はごはんだって作れるし、銃だってそこそこ上手だと思ってるわ。身の回りのお世話だってするし……」


 どこか、必死だ。

 死にたくないとかではなさそうな雰囲気をサイハテは感じ取っている。


「……何故俺と居たい?」


 こんな事を聞くのは、サイハテにとって、そんな事を条件に出してまでサイハテは一緒に居たい人間には思えないからだ。ありとあらゆる戦闘技術の達人、それは即ち、殺人に特化した人間と言える。銃だって、陽子のような超人クラスを除けば、世界で一二を争う位の腕前だ。

 それに、サイハテは陽子に好かれないように努力をしてきた。恋する女の――――それも子供の女の不可解さはよく知っているからだ。

 軍隊や、それに準じた組織がサイハテの脱退を惜しむのなら未だしも、陽子は普通の子供だ。自分を惜しむ理由などはさっぱりと理解できなかった。

 対する陽子も、その質問には困惑していた。サイハテの瞳は、彼の本性とも言うべきものを映し出している。プラスチックのような、無機質で、人間味のない瞳が陽子を捉えている。


「……ここで、生き残る為にあんたを利用したいとか考えられれば、私もまだ楽だったんだけどねー」


 大なり小なり、陽子は女だ。

 少女の夢見がちな部分と、女の現実的な部分が混在した複雑な時期だ。生き残る為に利用するのだったら、サイハテに体を許す事だって辞さないだろう。だが、陽子はこの世界で十二分に自分一人の力で生きていける。

 あの射撃技術ならば、食うことには困らないだろう。

 だから生き残る為にサイハテを利用するのはどうしても選択肢から外れてしまう、それは陽子もサイハテもよく理解している事だ。


「では、なぜ?」


 普通ではないサイハテには、陽子の気持ちは理解できない。生き残る為、贅沢する為に協力し合う。最も合理的で解り易い回答であると言うのに、彼女はそうとは言わなかった。

 嘘を吐いている様子もない、つまり、先程の利益の為の協力ではないと言う言葉は真実だ。だから、彼女に問うのだ。


 ―――――君が俺と一緒に居て、なんの利益(メリット)があるのかと。


 ここまで言っても、彼は解らないらしいと、陽子は眉尻を下げて見せた。二三度咳払いをし、熱くなる頬を軽く叩くと、覚悟を決めたように少女は口を開く。


「わからない? 友情よ、友情! 同じ釜のご飯を食べて、同じ寝床で寝て、同じ戦場を走り抜けて、同じ危機を皆で乗り越えた! ……これって、戦友って呼ぶんでしょ? だったら私達は戦友じゃない!」


 ――――――まるで夢見がちな十代(ティーン)の言葉だな。


 顔を赤くして、熱演(語る)する陽子の前にはそんな言葉は出せなかった。

 彼女がそのまんまであったのもあるし、何と言うか、茶々を入れた方がバカを見そうだったからだ。少女の言葉に、呆れたような笑みを見せて頭を振る。


「かも知れないな」


 いつもの答えだ。

 サイハテは肯定も否定もしない、誰が何を想い、叫ぶかは個人の自由だからだ。だからサイハテは彼女の考えを否定はしない。同じ思想なら認める事はするが、そうでないなら曖昧に濁すだけだ。

 そうかも知れない、言い換えれば、お前の頭の中ではそうなんだろうと言う言葉だ。

 陽子はその言葉を聞いて、大きくむくれる。どんな事情があるにせよ、サイハテは陽子を頼ったはずだ、それでは戦友とは呼べないのか。なんて小さな怒りと失望だ。


「もう、何が不満なのよ」


 不満と言う訳ではない。だが、陽子は一つだけ大きな勘違いをしている。

 西条疾風は戦士でも兵隊でもない、彼の仕事は戦う事ではない。

 確かに、ありとあらゆる武器に精通し、ありとあらゆる戦闘技術の達人たるサイハテは、優秀な兵士足り得るのかも知れない。だがそれは副産物であり、彼の本業は戦う事は考慮していない。

 敵に気が付かれぬように、中枢まで侵入し、情報を抜き取り、それを使って戦いを未然に防ぐか、或いはそれで戦いを巻き起こすかが仕事なのだ。故に、戦友など必要としないし、存在しない。


「君の答えに不満はない。君は俺と一緒に居たい……それでいいんだな?」


 彼女が勝手にこちらを戦友と思うのは自由だ、波風を立てる事もない。

 サイハテは優しい言葉遣いで、陽子にそう言う。


「そうよ」

「だったらそれでいいじゃないか」


 何が不満なんだと聞くような言葉に、陽子は言葉を喉に詰まらせる。

 不満と言えば不満なのだが、その不満とやらが言葉に出来ない。漠然としたものがモヤモヤと、胸の奥に存在するだけの事だ。無視しようと思えば無視できる。


「……ええ、そうね」


 無性に寂しく思いながらも、陽子は納得する。納得するしかなかった、と言うのが正しいのだろう。自分の望みは叶ったのだ、また三人一緒に居られる……それで十分なはずなのだ。


「私、今日は早めに寝るわ。食器は明日洗うから、どこかにまとめといてね」

「ああ、おやすみ」


 レアがこちらを不安そうな眼差しで見つめている。

 内心、陽子は理解していたのかも知れない。自分が感じている友情は独り善がりな物で、サイハテはこちらに一切気を許していないんじゃないか、と。

 信頼されていない事に失意を感じながら、陽子は寝床に横になるのだった。

誰も信頼せず、同等の者など存在しない。

俺は一人でいいんだ。


中二病ですね、わかりまs

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