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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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三十六話:殲滅戦2

「うおおおおおおぉぉ!?」


 錐揉み回転する駆動甲冑の中で、サイハテは驚愕していた。

 超振動ジェット、要するに空気に振動を伝えて膨張させ、それを推進力とする新たなエンジンではあるが、数百キロもある駆動甲冑を飛行させる推力があるとは、思ってもいなかったのだ。

 ただただ、前に押す力だけで、空力特性もなにも考えられていない人型機械を飛ばす性能に、彼は恐怖する。


『西条さん、大丈夫か?』


 錐揉み回転で撃ちあがったのを見ていたのだろう。無線からクロノの声が飛んできていた。


「大丈夫ではない!! クソッタレ、なんだこれは!?」

『なんだって聞かれてもよぉ。パワードアーマーとしか言いようがねーわ』


 ジグザグに飛びながら、大声で返事をすると、面倒臭そうな答えが返って来る。

 投影された映像に描かれた高度計を確認しつつ、手足の重量移動でなんとか飛行を安定化させようと試みつつ、サイハテは怒鳴った。


「航行アシストとかないのか!? バランスが取れん、墜落するぞ!」

《警告、高度低下。引き上げを推奨します》

「うるせぇ解っている!!」


 高度計が正しいのならば、今、彼は秒速百十メートルで、地面へと向かっている計算だ。

 喋っている時間も惜しいのか、思い付いた事をとにかく試しているが、状況は改善しない。


『いいか、西条さん。ソイツは飛行機じゃねぇ。スロットルはイメージで動かさないとならんし、安定性なんて皆無だ』

《警告、高度急速に低下中》

「そんな事は解っている!!」

『解ってるなら、話は早ぇ。推力だけで、飛ぶんだよ』

「……推力だけ?」


 サイハテの脳内には、うろ覚えの装甲を抜けるはずの空気、その計算式が瞬いては消えていた。揚力を得にくいボディで、なんとかそれを得て、安定しようと考える事自体が、間違いだったのかも知れない。推力だけで空を飛ぶ兵器を、彼は知っている。

 幾重も抜けた戦場で、それは戦車に向かって、戦闘機に向かって飛んでいく、自分達とよく似ている武器だった。


「そうか、ミサイルか!!」


 空気抵抗がバランスを崩すならば、それを押しのける程のエネルギーで前に進めばいい。手足が主翼にならないのなら、補助翼として扱えばいい。

 そんな単純な事を思いつかないなんて、どうかしていたと、彼は嗤う。

 とにかく目一杯のエネルギーで、前に進む。そうイメージすると、地面に向かっていた機体は、大きく空へと浮き上がった。


 高度、五十メートルから一気に三千メートル付近まで上昇する。

 経験した事のない上昇力によって、かかるGに意識を持っていかれそうになるが、そこは強化人間の体、なんとか堪えて、ブラックアウトしかけた視界を、頭を振って元に戻した。

 駆動甲冑の投影モニターには、視覚化された情報が描かれている。


『んで、大丈夫か?』

「……問題はない。飛んでいるとは、言い難いがな」


 鼻を鳴らし、不服そうなサイハテであったが、任務は果たすらしく、降りてくることはない。


『そりゃそうだ。戦闘機みてぇに、華麗に飛ぶ兵器じゃないからな』

「解っている。ともかく、こちらは奇襲を敢行する。そっちはリズと合流してくれ」

『わかった。合流の後は?』

「リズの指示に従え。全て終わったら、また話そう」


 味方IFFまで、後少しの場所に辿り着いた。

 既に、75mm対戦車ライフルの射程に入っている。もう通信をしている余裕はないだろう。

 肩のウエポンラックに搭載されたライフルと言うには、余りにも巨大な口径のそれを構えて、狙いをつける。

 モニターに表示された照準を、味方IFF、要するにサバト軍へと合わせると、引き金が引けなくなり、警告音声が流れた。


《警告、味方に銃口を向けています》


 誤射対策だろう。

 思ったよりもしっかりと設計された補助AIに対して、舌打ちをした彼は、それを騙す為に、口八丁の出任せを述べる事にした。


「IFFを一時敵性に切り替え。あれらは資本主義思想(ブルジョワ)に染まった、労働者人民(プロレタリアート)の敵である」

《検索……警告、我が国家において、劣等思想に染まった人民は存在しません。貴方は刑法第193条、共産主義思想に対する疑問を犯している危険性があります。司令部に報告……通信失敗、三十秒後に機体の動力炉を停止させます。直ちに着陸態勢に入って下さい》

「ああ、なんてこった。機械まで融通が利かない、流石共産主義」 


 思わず嘆いてしまう程、頭が固い。

 三十秒後に動力炉を停止させられてしまったら、墜落してしまう上に、その時間ではどうやっても着陸なんて不可能だ。

 装甲の中で肩を竦めると、腕輪の方についている無線機を作動させる。


「おいリズ。聞こえるか?」


 聞こえなかったら地面とキスするしかない。


『聞こえてるよ』


 だが、神はまだサイハテを見捨てていなかったらしい。

 骨を通して、今一番聞きたかった声が聞こえてきた。


「コイツのAI、遠隔操作で書き換えられるか?」


 そう話している間にも、背中のジェットフィンが変な咳き込み音を上げ始めていた。どうやら、動力炉が止まった関係で、電量が足りていないらしい。

 人工筋肉を動かす為の電解液辺りがバッテリーの役割をしているのだろう。その少ない電気で、なんとか墜落せずに済んでいるようだった。


『やっぱり共産主義は人間もAIも糞だね。と……うん、無線を介して、中に侵入出来た。適当にでっち上げるから、二十秒ちょーだい』

「もう少し早くならないか?」

『変に書き換えると、動かなくなるけど?』

「よし、二十秒だな。やってくれ」


 ナスカの地上絵ならぬ、関西の地上絵になる気はない。ないが、電力供給の止まったフィンは空気の振動止めてしまい、揚力の得られない駆動甲冑は、今まさに、地面へと向かっている。

 なるべく急いでほしいなと思いながら、サイハテは二度目の自由落下をエンジョイするのだった。

いい加減戦えよ

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