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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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三十三話:パワードアーマー2

 三人しか居なくなった演習場の中央で、それは静かに佇んでいた。

 テスト用の為か、赤く塗られた装甲が光を反射し、かつての米国と覇を競った共産主義の復活を思い起こさせる、威風堂々としたデザインである。


「……気に入らんな。赤一色はいけない、アカはダメだ」


 そんなデザインを、共産主義の天敵であるアルファナンバーズのジークは、気に入らないと評した。

 薬物と刷り込みによる洗脳の物であっても、嫌と感じるものは嫌らしく、どこで見つけてきたのか、鑢と剥離剤を手に持って、その塗装をはがそうとしている。

 そんな彼を、クロノが押し留める。


「いやいや、色塗り替えてる暇なんてねぇから」


 止められると途端に不機嫌な表情を作り、顔を背けるサイハテ。

 腕を組み、忌々しそうにパワードスーツを見つめ、唾を吐き捨てる。


「なら、肩のマークだけは変えさせてくれ。歯車から生える稲だけは、絶! 対! に! ダメだ。ついでに、太陽が二つある日の丸もゴミだ」

「……まぁ、それ位ならいいかもしんねぇけど……リズさん?」


 頑なになった彼を見て、この様子をモニタリングしているはずの彼女にも、嫌な予感がした。


『ダメだねぇ。歯車から生える稲だけは、絶! 対! に! ダメ。ついでに太陽が二つある日の丸はゴミだねぇ』 


 たかがマークで、いい大人が頑なになる様子は、クロノをドン引きさせる。

 だが、同時に仕方ないとも思ってしまう。

 何しろ、前者は彼らを産み出した組織で、後者は彼らに戦う理由を作った組織なのだ。遺伝子レベルで嫌悪されていても、仕方がない。


「わかったよ……手早くやってくれよ? 基地が統制を取り戻したら大変だから」

「ああ、手早くやるさ」


 返事の前に、剥離剤をぶっかけて削り始めており、クロノとしては頭を抱える他なかった。

 自動研磨機も真っ青な速度で、歯車から生える稲のマークが消えていき、地金の青い輝きが肩に戻ってくる。それでも頑なに削ろうとするサイハテを、再び彼が押し留めるのだ。


「もう消えてっから」


 腕を掴んで引き戻すと、彼は物凄く不機嫌な表情を見せる。

 その表情に怯んで手を離すと、流石に申し訳無さが勝ったのだろう。駆動甲冑を見て、クロノとツクネを見て、肩を竦めた。


「……すまない。ムキになり過ぎた」

「は、ははは、はは……」


 軽く頭を下げ、謝辞の意を示されたが、笑う他ない。

 ともかく、あまり時間がないのも事実なので、時間を取られる事は避けるべきだと、クロノは気を取り直して、駆動甲冑を指差した。


「とりあえず、説明させてくれよ。あれはKyo-13」


 恐らく、京都の設計局で開発された十三番目の機体。と言う意味だろう。


「鉄原子核炉を搭載した、マッスルパッケージ型の駆動甲冑だろう。従来のパワースケルトン型と比べれば、操作性に稼働時間、整備性が……」

「待て待て、マッスルパッケージとか、パワースケルトンと言われても分からん」


 専門用語を並びたてられても、古い時代出身のサイハテにはチンプンカンプンである。

 そもそも、彼が生きていた時代に、鉄原子核炉なる常温核融合炉は存在せず、パワードスーツだって理論段階の代物だった。


「……ああ、そうか。あんた、二十一世紀の人間だっけか」


 そう宣うクロノも、二十一世紀出身である。


「なら、説明しようかね。パワースケルトンは旧来の駆動方式だ。レールモーターを搭載した関節でパワーを出すタイプで、それを金属でつないだ骨格の上に、直接装甲を置いていた。所謂外強化骨格と言う奴だ」

「……お、おう?」


 要するにガン〇ムのフィールド〇ーターシステムみたいなものかと、納得しておく。


「んで、マッスルパッケージ型は、今あんたが着ているスニーキングスーツみたいな方式だな。炭素筋繊維よって、パワーを出す方式だ。こっちの方が、人間に近い感覚で動かせる上に、ナノマシンによる自動メンテナンスも出来るから、整備性だって向上するし、培養槽で生産できる炭素筋繊維が~」


 ペラペラと楽しそうに語るクロノから、そっと離れ、装甲服を纏ったツクネへと近寄り、耳打ちする。


「なぁ、クロノってもしかして」

「うン。オタク」

「……やっぱりか」


 三度程頷いた少女の表情は、装甲服のヘルメットで伺い知れないが、サイハテと同じ表情をしているのは、見なくてもわかった。

 一度語り始めたら、長いのだろう。


「ナノマシンを使える分、装甲材も従来の鋳造型から、分子構成型の頑丈な物に変更できる上、戦闘時の被弾による負傷にも対応。この方式が開発されたのは、地球共和国軍の再編成時でな。その量産性からフレッシュだけでなく、マシナリーにも大量配備させられたおかげで、今でも遺跡で拾える位~」


 ノリノリだった。

 聞いてもいない事が飛び出す上に、また知らない専門用語が飛び出す辺り、本当に好きなのだろうと理解は出来る。

 しかし、あまり話を聞いてはいられない。


「そこまでだ。それで、こいつはどう着ればいいんだ?」


 ついっと、そのKyo-13を指差して尋ねると、クロノは罰が悪そうな表情をして、後頭部を掻く。


「あ、ああ……それはな」

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