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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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三十二話:パワードアーマー

「こちらです」


 どこか焦っているような様子の技術士官に案内され、クロノとツクネは基地の廊下を歩いていた。

 恐らく、この先は試験を行う演習場になっているのだろう。廊下の先から匂ってくる埃っぽい乾いた空気を感じながら、クロノは肩を竦める。


「うまく行くかな」

「さぁ、わからなイ」


 それは、サイハテが単独で行っている破壊工作の事であったのだが、会話を聞いていた士官には、侮りに聞こえたのだろう。

 くるっと踵を返すと、毅然とした態度で言い放った。


「大丈夫です、同志クロノ、同志北郷。開発中の新型は実働データが足りないだけで、実戦投入せよとの命令があっても、問題無く投入が可能であります」


 未完成ではなく、完成しているのだと、彼は胸を張って答える。

 そんな様子を見て、もう一度肩を竦めたクロノが、返事をした。


「そりゃあいい。同志もお喜びになるだろう」


 適当に返事をしておく。

 その答えに満足したのか、技術士官は試験場への先導を再開する。

 あまり余計な事は言わない方がいいと判断した二人は、しばらく口を閉ざし、彼の背に着いて行く。粉っぽいコンクリートの廊下を抜けた先には、ドラム缶にマンターゲットを張り付けた仮想目標が、ブロック塀等の遮蔽に隠され配置された、さほど大きくない室内演習場があった。


 そして、その部屋の中央に、目標としている新型駆動甲冑は存在する。

 現在は固定兵器であるリストレーザーへのガス補給中だろうか、両腕に取り付けられたホースが、鈍い音を立てるコンプレッサーへと伸びていた。

 部屋に入ってきたクロノ達に気が付いたのだろう。耐圧スーツを着た若い男が、笑顔を浮かべて、二人に近寄ってくる。


「はじめまして、同志。今回の試験で、アクターに選ばれた村田一郎少尉であります」


 ぴしっと敬礼してみせた男。村田の年頃は二十代中盤であろうか。

 駆動甲冑着用者特有の、太い首を持っており、分厚い耐圧服の上からでもわかる程、鍛え上げられた肉体をしている。

 日本で最大の工業力を誇るサバトと言えど、精密な駆動甲冑を大量配備する事は出来ていない。


 極少数の精兵に行き渡らせるだけで精一杯な現状で、機動化歩兵に選ばれたと言う事は、家柄だけでなく、彼の能力も一級品である事は間違いなかった。

 駆動甲冑を纏わなくても、村田は強いだろう。


「ああ、よろしく。今回監査をする黒野猛だ。同志も今回のテストには、期待を寄せている」


 そう名乗り、彼に握手を求める。すると、村田は嬉しそうにクロノの手を握り、彼もその手を握り返した。

 傭兵の身でありながらも、サバトの兵士に謗られる事はない。何故なら、彼がナイトメアリリィのお気に入りであり、懐刀の一振りだと、広く知られているからだ。


 コネがものを言う共産主義界隈で、クロノ達に気に入られると言う事は、出世街道を歩める事と同義でもあるのだから、気位は使う。


「はいっ。この大役、見事に勤め上げてご覧に入れます!」


 そんな自信満々な言葉の後には、だから、白い魔女によろしくお願いいたします。なんて口にされない言葉が付いているのは当たり前だった。


「ああ、同志に良い報告が出来るよう祈っている」


 面倒臭いおべんちゃら合戦であるが、疑われない為にも、これ位の演技はしておく必要がある。

 会話をしていたら、駆動甲冑の最終チェックも終わったらしい。整備員の一人が、村田に近寄って、声をかけた。


「少尉、準備完了致しました」


 訓練校を卒業したばかりの、新兵らしき整備員だった。


「ああ、ありがとう。では、自分はこれで……」

「頑張ってくれ」


 村田に会釈を返し、観測室へ避難していく整備員の群れに着いて行こうとしたその時である。ここに案内してくれた技術士官がすっと手を伸ばして、クロノとツクネの肩を掴んだ。

 何事かと問う前に、彼が耳打ちをする。


「時間だ」


 聞き覚えのある声がしたと同時に、観測室へと続く廊下を爆炎が襲った。

 整備員たちは消し飛び、破片となって室内に降り注ぐ。爆音を聞き、反射的に伏せた村田が顔を上げたその瞬間、味方であるはずの技術士官に、額を撃ち抜かれ、キョトンとした表情のまま永遠の眠りにつく。

 硝煙を上げる、銀色のM1911を緩やかにホルスターへ戻した彼は、引き攣ったように口角を上げると、制帽を脱ぎ去り、二人に声をかけた。


「よう、危なかったな」


 顔は違えど、その声色は単独潜入しているはずの、西条疾風、そのものだ。

 それを問う前に、基地のあちこちから爆音が響き、演習場の天井からは埃が落ちてくる。反射的にツクネを庇ったクロノを見て、彼はくつくつ笑うと、自分の顔を撫でる。

 フェイスホログラムが解除され、見覚えのある顔がそこに浮かび上がった。


「……西条さん、あんた、いつの間に」


 問わなくても、最初から彼だったのだろうと予想はできるのだが、聞かずにいられなかった。一体いつから化けてのだろうか。


「最初からだ。思ったより、仕事が早く終わったんでな」


 人差し指に、制帽をひっかけ、くるくると回しながらサイハテは言い放つ。

 その言葉からは想定よりも楽だったとの印象を受けるが、それならば、一体どんな警備の基地を想定していたのか、尋ねそうになったが、聞くのはやめておいた。恐ろしすぎるからだ。


「……まぁ、いいや。素直に称賛する。すげぇよ、あんた」

「何、これでも鈍っている」


 これ以上の戦果とは、一体全体なんなのか。

 二人は顔を見合わせると、そんな疑問も飲み込む事にした。

朗報、西条さん強い。

尚、強すぎて活躍シーンは全カット。


本当の理由は、爆弾泥棒して、仕掛けているだけだから、絵面が地味過ぎてカット。

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