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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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三十一話:機動化歩兵撃滅作戦

 ツクネが調達してきた銃器は、サブマシンガン等の、スカベンジャーチームが持つには高級品ばかりであった。

 しかし、目標である機動化歩兵……即ち、駆動甲冑(パワードアーマー)を纏った兵士を打破できる貫徹力を持った重火器は皆無である。


「対装甲兵器はなかったのか?」


 現代社会では見た事もないマシンピストルを持ち上げながら、サイハテが尋ねた。


「ないヨ。欲しいなら廃墟を漁らなきゃ、まず見つからなイ」


 語尾が跳ね上がる人工声帯特有の声色で返答される。

 せめて、対物ライフルがあれば、無茶をしなくて済むのだが、無い物はしょうがない。彼女が調達してきた物資で、何かしらをでっち上げればいいだけの話だ。


「そうか。落ちている場所を知っているか?」

「知ってると思ウ?」

「いいや。万が一があるからな」


 心当たりがあっても、二人では取りに行けない場所ならば、と尋ねてみたが、そもそも二人揃えばサイハテに迫る実力を持つ傭兵である。

 聞くだけ、無駄だった。


「……あったら最初から教えてル。ワタシも、クロノも、意地悪じゃなイ」


 あんたと違ってねとでも言いたげな口調だ。

 そんな内心を読み取ってか、彼は再び肩を竦める。


「意地悪性悪大いに結構。身の程知らずで、愛するものを失うよりは、ずっとマシだ」


 確かに比べられる物ではないと、少女は口を噤む。彼女の隣で、その身の程知らずは苦笑いをしつつ、ツクネの肩に手を置いていた。


「それで、西条さん。オレ達は何をしたらいい? と言うか、どうすんだよ」


 デカい口を叩いたから、話題を変えたいのだろう。

 クロノは話を本筋に戻す。


「ふむ、そうだな。クロノ、まず装甲兵器を無力化したい場合、いくつかの手段があげられる。わかるか?」

「わっかんねぇ。そんなヤバイ奴等との戦いは避けてきたからな」

「それも、手段の一つだ。最も賢い手段と言っても過言ではない」


 戦車などの装甲兵器は、陸の王者である。

 歩兵の攻撃をはじき返す分厚い装甲に、隠れた塹壕ごと吹き飛ばす大火力、そして、あらゆる手段で人を探せる目を持っている。これだけで既に勝ち目はない。

 しかも今回は、そこに歩兵を超える制圧能力を付与された駆動甲冑の大隊が相手だ。


「だが、今回ばかりは戦わなくてはならない。そして、そうなれば次善の手段が必要となる。それは、こちらも同じ装甲兵器を運用する事。これがリズの言っていた作戦だな」

「まぁ、それは解るけどよ。それをどうやって確保するかって話に戻るじゃん」

「確保自体は簡単だ。俺が単独で基地に潜入。防衛機構を破壊すれば済む」


 それには爆薬が必要なのだが、ツクネが買ってきた装備に爆薬はない。


「爆薬はどうするんだよ。調達できるところなんて、ここいらにはねぇぞ?」

「いや、あるだろう」

「どこに?」

「ここだ」


 と、サイハテが指差したのは、地図の上に刻まれたマーク。

 サバトの新型駆動甲冑があるであろう基地、即ち、今から侵入する基地であった。


「いやいやいやいやいや……」


 あまりの荒唐無稽さに、思わずクロノも全否定してしまう。

 彼はこれから向かう基地で、全てを現地調達し、済まそうと言うのだ。出来る出来ない以前に、そこに爆薬がある保証すらない。


「そんな都合よくある訳ないだろ?」

「それが、ある」


 彼の疑問にサイハテは答える。


「お前達に出会う前、補給基地の目録を盗み見てきた。三日程前に、搬入されている。山岳発破用のダイナマイトだが、防衛設備を破壊するには十分な威力だ」


 思わず閉口してしまうクロノ。

 彼が、伊達に伝説の諜報員と呼ばれている訳ではない事を、再び知ってしまう。驚くべき作戦遂行力である。

 これならば、新大阪民主主義人民共和国の上層部が恐れるのにも、合点が行く。


「そこでだ。クロノ、ツクネ。君達には、先んじて、基地の査察を行って貰いたい。内部で合流するぞ。リズ、お前は命令書をでっち上げろ。作戦は明朝マルナナマルマルに実行する。以上、質問は?」


 三人を見渡すが、どうやら質問はないようで、その様子を見たサイハテは大きく頷いて宣言する。


「よし、ならば各員は作戦開始まで、体を休めてくれ。作戦開始時刻には、クロノチームは基地に到達している事、解散」


 有無を言わせぬ作戦説明に口を挟めなかった二人は、困惑した表情のまま、お互い見つめ合っている。対するリズは、慣れているのもあり、解散の号令がかかった瞬間、床に倒れ伏した。

 そして、寝転がりながら、クロノとツクネに声をかける。


「308号室に、ベッドあるから、二人で使ってねー」

「ちゃんとゴムは付けろよ、クロノ。マナーだぞ」


 そして、サイハテは余計な事を言う。

 言い返そうとしたクロノだが、どうせ何を言っても無駄だと短い付き合いでも理解できたのだろう。肩を竦めるだけで何も言わずに部屋を出ていった。

 その背中をツクネが追っていく。

 二人を見送って、何か話があるのだろう。彼はリズの傍に座り込むと、彼女の顔を覗きこむ。


「なぁに? リズさんのセクシーダイナマイツに、見惚れちゃった?」

「そんな訳あるか。なんだこの下っ腹」


 帯の上から腹肉を掴むと、軽くヤバい感じだった。


「くすぐったいから、やめれぇ~」


 ケラケラと笑うリズ。

 記憶にあった彼女より、少しばかりふっくらしている。アルファナンバーズの女は、女性らしい体付きをしていても、筋肉密度が異常に高い。

 いくら自堕落な生活をしていても、太るとは考えにくい。


「お前、妊娠していたな」

「……あー、分かる? そうそう、してたよ」


 してた。

 彼女はそう言った。


「……子供は、父親はどうした?」

「んー……父親はわかんないかなぁ。体を任せた誰かだと思うけど。子供は、うん。まぁ……ね」


 寝そべったまま、顔を伏せたリズを見て、鈍いサイハテも察する。


「……そうか、お前も、奪われたのか」

「そうだよー。産んだらさー、いきなり入ってきたさー、役人が持ってくんだもん。やんなっちゃうよ」


 父である事を知らなかった男と、母である事を許されなかった女は、静かに語り合う。


「看護師さんがさー、元気な男の子ですよってさー。そりゃリズさん、自堕落な女だけどさー。これからは、心を入れ替えようって、頑張ってお母さんになろうって、決めてたのにさ。抱っこする前に持ってかれたんだからさー」


 リズから、涙は流れない。

 なんでもない事のように、彼女は語る。


「流石に、あれは堪えたわー」


 ぐりぐりと、床に額を押し付けているリズをから目を反らし、サイハテは窓を見る。

 いつの間にか、街の灯りは消えて、水平線の彼方にはいくつもの星が浮かんでいた。


「ねぇジーク」

「……なんだ」


 沈黙を、リズが破る。


「リズさん達って、人である事も許されないのかな?」


 人並みの幸せ。

 それは、アルファナンバーズ全員が求めていた物でもあった。もちろん、サイハテも例外ではなく、手に掛けた妻と共に、夢見た事柄でもある。


「……俺にはわからん」

「そっか、そうだよね」

「だが」


 諦めたような声色のリズを遮り、言葉を発した。


「それを諦めていない奴もいる」

「……それは誰?」

「………………作戦が終わったら、お前も館山に来るといい。俺が語るよりも、実際に見た方が早いだろう」

話が重ぉい

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