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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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二十二話:その頃の南雲さんとハルカさん1

 陽子が館山要塞のリーダーになってから、警護をする兵士が居なくなった事はない。

 ネイトと別れた彼女が、レアの所に向かうと言うだけなのに、四人の兵士に守られながら、移動しなければならない程、警備が厳重であった。

 一式自動小銃を携えた兵士が四人は、流石に大袈裟すぎやしないかと、思ったが、この館山要塞も完全に復旧した訳ではなく、まだどこぞの区画に感染変異体が残っている可能性があるからと、押し切られてしまったのだ。


「こちらです、閣下」

「うん、ありがとう。五十七番」


 司令室のあるフロアから研究及び生産区画の存在するフロアへと移動した際、護衛の一人が先導を始めた。

 ガラス張りの廊下を歩きながら、様変わりした第三フロアの様子を眺めつつ、少女は緩やかに進んでいく。ガラスの向こうでは、訓練用の装甲服を纏った人造兵士達が、訓練をしているのが見受けられる。


『近寄るな! 火力で粉砕しろ!!』


 訓練室の向こうで、指揮官タイプの人造兵士が怒号を飛ばしていた

 実体のない拡張現実(AR)訓練室だが、ガラスに何か細工されているのだろう。

 兵士達が見ているターゲットを陽子が見る事も出来る。

 今日は対感染変異体訓練らしく、十二人一個分隊の兵士が、迫り来るグールの壁に向かい、じりじりと下がりながら攻撃を加えているのが見えた。


 飛んでいくのは、貫通力が殆どない模擬弾だけだが、それにARの映像技術が加われば爆風や発砲炎の閃光までもが再現される。

 本物の戦場となんら変わりない訓練を、肉体と実銃を使って訓練出来る事を、サイハテが高く評価していたのを、陽子は覚えていた。


 少し足を止めて、訓練風景を眺めていると、白い訓練アーマーに黒いラインを引いた指揮官タイプが、決定打となる判断をする。


『擲弾筒装填!! 二百の距離で一斉にぶっ放せ!!』


 命令通りに一式擲弾筒を、小銃に括り付けた十二人が、グールの壁に向かって榴弾を飛ばしていく。

 普通の榴弾は、爆発によって形成された金属片を兵士に当てて、負傷なり死亡なりさせる兵器であるが、対感染変異体弾頭の榴弾は少し違う。

 破片の形成より衝撃波を生みやすい火薬を使って、水分の多い生物を、吹き飛ばす為の弾薬だった。


 感染変異体、特にグールは密集しての突撃を狩りの常套手段として用いており、レアの開発したああいった兵器は、非常に有効だと言えるだろう。

 とは言っても、空気を伝達する衝撃波であるからして、分厚い装甲を持つ相手には、効きにくい性質がある為、一長一短だろうか。


『よし、敵ラインに穴が開いた。突撃準備! 木を破壊するぞ!!』


 木とは、そのままの意味ではない。

 感染変異体のグールは、哺乳類の癖して、クラゲに似た性質を持つ。彼らは寿命が近くなると結合して、巨大な受精卵に変貌し、ポリプのような、巨大な生肉製樹木になる。

 そこから新たなグールをポコポコ産んで際限なく増える為、対グール戦では、この巨大な木を破壊する事が大事なのだ。


 動き回っている時は、たんぱく質の細胞しか持たないくせに、この繁殖形態になると、その細胞をセルロースのような硬質な被膜で覆う事も確認されている。

 何をどうやって、そんな変異をする遺伝子を所持出来るのか、レアにもわからないとの事だ。


「おー、勝ったわね」


 グールの生態を思い出していた陽子は、突撃が成功し、巨大な肉樹木を爆破した分隊が、残敵掃討に映るのを見届けてから、移動を再開した。

 この訓練室区画を抜ければ、レアの研究区画が待っている。

 あんまり待たせていると拗ねる為に、少しだけ急がさせて貰う事にした。


「五十七番、二十三番、六番、百五十二番。悪いけど、少し急ぐわよ」

「了解。行くぞ」


 人造兵士はAIで動いている為、少しばかり融通の利かない部分がある。それ故に、今は一々指示を出してやらねばならないのだとか。

 開発者曰く、それはAIが若いからこその行動で、もう少しデータが集まれば大分マシになるとは聞いているのだが、どの位のデータが必要かは、教えて貰えなかった。


 兵士を引き連れた陽子が速足で訓練区画を去り、司令室を出てから三十分程の時間を要してから、ようやっと研究区画の扉を開く。

 案の定と言うべきだろうか、少しばかりむくれたレアが出迎えてくれた。


「お~そ~い~」


 ぶんぶんと両手を振って、抗議をする彼女を見ていると、申し訳なさより、微笑ましさを感じてしまう。そっと目線を合わせると片目をつぶりながら、陽子は謝罪する。


「ごめんごめん。訓練風景を見ててね、いい出来じゃないの」


 言い訳等はする必要が無く、正直に遅れた理由を口にすると、褒められたのが嬉しいのか、レアは文句を言おうとしていた口を閉じ、渋々と言った様子だったが、話を続けた。


「……まー、いーけどさー。ついてきてー」


 くるりと背を向けた彼女を見つつ、陽子は周囲を護衛していた人造兵士に、待機命令を出して、小さな背に続く。

 案内されるのは、実験用の機械工作室、だろうか。

 人の出入りが無さそうな実験室に、一体何の用なのか、疑問を口にしたところ、レアは意味深な言葉を吐く。


「ねぇ、ここに何があるの?」

「ふーふーふー、なつかしいかおに、あえるよ」

「懐かしい顔?」


 何のことだろうと、続いて入った部屋の中で、それを見た。

 ナノマシンで満たされた水槽のような物の中で、揺蕩う二人の少女らは、確かに、陽子がよく知っている人物であった。

 眠っているかのような穏やかな表情で、乳白色の液体の中で、彼女達は揺蕩っている。


「うげぇ……」


 懐かしい顔と言われて、少々期待していた部分もあるのだろう。

 水槽に浮いている少女の顔を見た瞬間、陽子は物凄く嫌そうな悲鳴を上げた。

 何しろ、見覚えがある所の話ではなく、富津市の発電所で倒したはずの敵が、二人もそこにいるのだから、仕方のない事だ。


「こいつら、暴走していたハルカ型じゃないのよ」


 電子戦機と近接格闘機の厄介なコンビだったことを、彼女は覚えている。

 電子戦機が目標を発見すると、無線通信で近接格闘機に指令が飛ぶ。すると巨大な爪を携えたメイドが、恐ろしい身体能力を使って、すぐさま肉薄し、攻撃してくるのだ。

 ちょっとやそっとの火力では傷一つ負わない頑強なボディを持ち、もし富津で戦った彼女等が万全であったのならば、勝ち目はなかっただろうと、陽子は考えていた。


「そーだよー? さいじょーがね、おみやげで、くれたの」


 持って帰って来たのは、今は居ない変態だったらしい。

 陽子は複雑な表情で、自慢げなレアに、尋ねばならない事を聞く。


「……襲ってはこないの?」


 その質問に、幼女は小さく息を吐くと、その答えを口にした。

最近、執筆中小説の続きを書き、上書き更新すると、更新分が丸々消えている事があります。


おかげで暇だったのに、ろくに更新できなかったよ!! 畜生め!!

五回ぐらい書き直した記憶ががががが。


更新は少し待って下さい。

書き直しががががががが。

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