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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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七話

今回ももじけぇです

「頼る気はないねぇ、例えこの病気が治っても、また違う病気にかかるだけだからね」


 ミールはそう言うと、ぱちりとウィンクをする。

 医療品は高級品で、一粒の錠剤が身売りした少女より高級などと言うのはこちらの常識だ。それに、この町は下水道に溜まった汚物のせいで病気が絶えない。町が清潔なら流行るはずのないペストだって、この町で流行しているのが、レアの目には見て取れた。


「むー……」


 それは解っている、解っているのだが、納得できるかどうかは別の話だ。

 何もせずに諦めると言うのは、人類の発展を目指す科学者としては納得できない事態だ。抗体注射で生き長らえれば、もしかしたらこの町の状況が変わるかも知れないのだ、それを投げ捨てるのは、レアには納得できやしなかった。


「………………」


 その様子を、陽子は少しばかり離れた位置から見守る事にした。

 会話に着いていけないのもあるが、余計な口出しすると話がこじれそうな予感がしたからだ、下手な鉄砲数撃ちゃあたるとの同義語に女の勘はよく当たると言うのが存在する。


「人間は早かれ遅かれ、いつか死ぬもんさ。それまで何を成したかが、人間の価値ってもんを決める。あたいは常々そう思っているよ」


 殺し文句。

 ミールの中では人生とはなんであるかの答えが出てしまっているのだ。彼女に延命は侮辱であろう、レアはそれを聞いて、少しばかり悲しそうな表情をした後に、頷いた。


「わかった。すこし、ざんねん」


 レアの口から漏れた言葉に、軽い咳をしながらミールは笑う。


「レア、報酬も頂いたし。そろそろ私達も帰りましょ。ミールさん、お世話になりました」


 その気を見計らって、陽子は帰還の提案をする。ここに来てから結構な時間が経過している。サイハテからジープを借りているのもあるし、あまり長居は良くないとの判断から提案した。


「うん、みーるねーさん、きょーはありがとー」


 レアもそれには賛成なようで、ミールに可愛らしく頭を下げている。


「ん、あたいも楽しかったよ。今度はどこかの遺跡潜りでも一緒に行くさね」


 レアの頭を、傷だらけの手で撫でる。

 そんなやり取りがあって、陽子とレアは農場を後にした。

 土を踏み固めただけの農道をレアと陽子が乗ったジープが進んでいく、運転機能を自動に切り替えた後、陽子は不機嫌そうなレアの肩に優しく手を伸ばす。


「ミールさん、助けたかったね」

「……うん」


 差し伸べた手を打ち払われては、助ける手段は存在しない。

 彼女を助けるには、ワンダラータウンの機構を大きく変える必要があるだろう、まずはサイハテが潜っていると思われる下水道をどうにかして、衛生意識を変える必要がある。しかし、それを行うには途方もない人材と時間が必要になるだろう。


「まぁ、今はどうしようもないわよ。後でサイハテにも相談してみようね」


 鼻で笑われるか、叱られるか、聞き流されそうな予感しかしないが、相談するだけなら無料(タダ)なのだ。無料とか、割引とか、セールとか素敵すぎる言葉だと陽子は思う。


「うん」


 慰めも、今のレアには効果が薄いようであった。

 陽子は軽く溜め息を吐くと、運転を自動(オート)から手動(マニュアル)へと切り替えて、ハンドルを握って、運転に集中するのであった。













 汚物と共に、下水道の外へと弾きだされたサイハテの周辺には、貧民が集まってきている。爆発の衝撃で三半規管がイカレて、立てないサイハテにトドメを刺して装備を剥ごうなんて魂胆なのだろう。

 ピクリとも動かないサイハテの元まで近寄った貧民は、手に持っているハンマーを高々と振り上げた。その瞬間、サイハテの目がカッと開かれて、腰の刀が抜き放たれる。ハンマーを振り上げた貧民が急いでハンマーを振り下ろす前に、神速の斬撃が貧民の体を四分割にしてしまう。


「………………」


 吹き上がる血を浴びて、サイハテは残りの貧民を睨む。まるで深淵の暗闇のような、深くて黒い眼力を目にした貧民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまう。

 それを見送り、安堵の息を吐いたサイハテは、抜き放った刀を鞘へと戻して運よく近くに転がっていた鼠の首が入った袋を取っ掴むと、汚物塗れの体をどうにかする為に、近場の水場へと歩いていくのだ。


(サバトは何かしらの組織名か? 追跡者としては二流と言えど、自害して自爆するように教育出来たのは大したもんだ……サバトと言えば魔女の集会だが、どう見ても、あの女が魔法を使ったようには思えんな。そもそも魔法なんざ存在しないし)


 体系化されて、誰でも扱えるようになったのならそれは技術だ。魔法や奇跡ではない。


(なーんか、めんどくさい臭いがぷんぷんするぞ……)


 それは、体に付着した汚物の臭いではないのかと思ってしまう。

 とにかく、水浴びをしてから、この鼠の首を自警団の詰所へとお届けすべきだ。報酬を受け取って、装備を整えてから、考えればいい。

 水場までの距離はそう遠くはない、いい加減、この悪臭ともさっさとおさらばしたいものである。

本来のサバトは所謂魔女の集会です、今風に言うとヤリサーのコンパ。


昔の魔女は麻薬をやって幻覚を見ていたそうですよ。

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