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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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九話:賞金稼ぎ達4

 多目的端末の液晶を弄って、通信機能を起動させてみるが、耳小骨に響くのは僅かなノイズばかりだった。

 マイクロマシンによる、全自動メンテナンス機能の付いたコレが、故障するとは考え難く、通信を妨害する為の電磁波が蒔かれている事は、分かり切った事だろう。

 サイハテは小さなため息を吐くと、最低限のものを詰めた小型バックパックの中から、折りたたみ式双眼鏡を引っ張りだした。


 それを覗いて、これから向かうはずの通天閣もどきを偵察してみる。

 奴等にとっては、それなりに重要な施設であるのか、多くの兵士が警備しているのが確認できた。それ以外にも、いくつかのアンテナらしきもの、人が侵入できるような場所は一ヵ所程度、と言う事は解った。

 日の出と共に侵入を開始したいので、しばらく偵察を続けようと考えていたのだが、とある異常に気を取られてしまう。


「……?」


 兵士達が突如として撤兵を開始した。

 どこか急いでいるような様子で、兵員輸送車やらトラックやらに分譲しては去っていく、しばらく様子を見守っていたが、彼らが撤退しても、特に変化はなく、街の喧騒と相まって、塔の静寂は気味が悪い。


「……罠か」


 酒場で会った初老の男は、どうやら撒き餌らしく、彼はそれにかかったようだった。

 普段ならば、一度退き、再度情報を集めてから判断する位の事はやるのだが、今日のサイハテは異様に焦っているのか、そのまま中に突入する事を決定する。

 担いでいたライフルを持つと、じりじりと周囲を警戒しながら、塔の中へと入っていくのだった。







 一方その頃、初老の男は、塔の最上階で通信機と向き合っていた。

 巨大なモニターを有する、ちょっと訳の分からない通信機には、白い魔女が映し出されている。

 彼は、その魔女、悪夢の百合相手に、先程やってきた事を報告していた。


「……と、言った風に餌を巻いておいた。よろしかったかな?」


 終末世界を生きる者特有の、獣染みた感覚で強者を見つけ出しては、人目の多い環境で情報を流す。

 やっている事は単純でも、実行するにはそれなりの経験が必要になる仕事だったが、バレている様子は無かったと、男は判断する。

 それを、モニターの向こうにいる相手へと、報告した。


『あら、そう、よくやったわ。ご苦労様、マクニール。貴方には感謝してもしきれないわねぇ』


 マクニール、そう呼ばれた男は唇を吊り上げると、ある事を口にする。


「とんでもねぇ。あんたには返しても返しきれねぇ恩があるんだ。これくれぇなら朝飯前さ」


 返しきれない恩。

 そう宣った彼に対して、リリィは少しばかり申し訳無さそうな様子で口を開いた。


『あまり気にしなくてもいいのよ。私達サバトは、弱い労働者達の味方だから』


 虫一つ殺せ無さそうな手弱女に、そう言われると、男として立つ瀬がないと、マクニールは思い、苦笑いしながら後頭部を掻く。


「弱いなんて、はっきり言われちまうと、何も言えねぇなぁ」


 小娘に弱いと言われても、何も言い返せない。

 それは、彼が外国人遺留地、終末前に避難してきた難民達が作り上げた街の出身だったからだ。

 日本は元来、単一民族が大多数を占める国である。まともな情報源がない終末世界において、民族が違うと言うのは、差別の温床であった。


 どんな差別があったのかは、彼が語る事はない。

 それでも、それなりに悲惨な結末を見て来た事は、誰にでも理解できた。

 そんなマクニールの気持ちを理解できたのだろう、気を取り直すように手を叩いたリリィは、少しでも場を明るくしようと、手を叩く。


『そうそう! 最近の遺留地はどうかしらぁ? 足りない物とかある?』


 弱いと言われた挙句、物資の支援まで申し出てしまわれては、流石に申し訳が立たないのか、彼は全力で首を左右に振った。


「ああ、いえ、大丈夫。大丈夫でさ。出稼ぎの若いのが色々持って帰ってくるようになってね。最近は餓死者も……」


 和やかな会話を遮るように、けたたましい足音とドアを叩く音がする。

 一度だけ忌々しそうな視線を向けた彼は、一言、彼女に向かって謝罪をした。


「……どうやら、罠にかかった間抜けが来たようで」

『……そう、なら仕方ないわね。続きは今度聞かせて貰いましょう』

「そうしよう。その為には……」


 無線機を切って、振り向いて、ドアを叩いている人間に声をかける。


「入れっ!!」


 その声を聴いたのか、頑丈な防弾扉を吹き飛ばすかのような勢いで、肩から血を流した若い男が駆け込んできた。


「ま、マクニールさん!! ば、バケモノ、バケモノが来た!!」


 目は血走り、表情は恐怖に固定されて、鬼気迫った悲鳴を上げて、若い男は倒れる。マクニールが、遺留地から連れてきた若い兵士は、それで事切れてしまう。

 刃物で肩の太い血管をやられており、失血死したのが、見てとれる。


「……続きは聞かせられそうにねぇな」


 腰のピストルホルスターからリボルバーを引き抜いて、そんな事を口にしてしまった。

 唇を引き結び、目を見開き、これからやってくるであろう敵を見据える事にする。

凄腕の賞金稼ぎVS凄腕の変態。

多分、世界初のマッチ。

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