表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
202/284

UA八万人突破記念サイドストーリーズ:サイハテがお引っ越しするようですパート5

忙しかったので、今週はサイドストーリーズだけ更新になります。

本編は来週まで待ってください。


オナシャス! なんでもしますから!

 中東、某所。

 任務を終えたサイハテは、一見すると変哲もないロングソードを肩に担ぎ、葉巻を吹かしていた。

 紫煙の薫る向こう側では、バチカンや各国から派遣された調査団達が慌ただしく動きながら、楽園の調査を進めている。

 楽園への道は開かれた。創世記から続く罪は雪がれ、ようやっと、人類は神にお目見えする事ができるはずだった。


「……楽園に、神なんていなかったがな」


 そこにあったのは、ノアの箱舟位だろう。

 箱舟を見た調査団は一体何を思うのか、そんな事は彼に関係がなかった。


「さて、と」


 ブーツの裏で葉巻をもみ消して、彼は立ち上がる。

 幾夜にも渡って嗅いだ、愛しい匂いがする。彼女も来ているのだろうと、その匂いがする方向へと振り返ると、愛しい妻が立っていた。

 その嫋やかな手に、いるもの、いらないものと書かれた段ボールを持って。


「……」

「……」


 じっと、目を合わせると、彼女はにっこりと微笑んで、言った。


「はじめよっか」

「……またぁ!?」


 サイハテは素っ頓狂な声を上げる。

 そろそろいい加減にしてほしかった。

 いくら彼が優秀な工作員だと言えど、ピンクの象さんを探させたり、江戸時代に自衛隊を迎えに行ったり、吸血鬼退治とか、楽園探しとか、流石に門外漢の仕事ばかりだ。


 対中華工作もまだ安定した訳ではなく、予断を許さない状況だと言うのに、日本政府は一体全体何がしたいのかと声を大にして言いたい変態だった。


「ほらほら、あんまりゆっくりしているとデートする時間が無くなっちゃうよ。ハリーハリー」


 段ボールをバンバン叩いて講義する琴音を見て、サイハテは大きく溜息を吐くとポケットからスマートフォンを取り出して言う。


「じゃあ、いつもの如く、これ。スマートフォン」

「これはいらないかなぁ。いつもの如く電波届かないし」


 お約束になってきた、いらないものボックスへと消えるスマートフォンを見送って、彼は口を開いた。


「ああ、今度は山か? それとも深海か?」

「どっちでもないよー? 次」


 またアフリカかと、独り言を言って、次の品物を探す。

 探索が仕事だったので、これと言って荷物を持ってきていないのが悔やまれた。


「あー、じゃあこれは? 楽園で見つけた回る炎の剣、これで俺も英霊デビューだ」

「これもいらないかなぁ、よくわかんないし」


 再びいらないものボックスへと消える聖遺物。

 このやりとりがバチカンに見られたら大変な事になる。


「そうだよなぁ、なんの変哲もないロングソードだしなぁ」


 そう言いつつ、サイハテはさして気にした様子もなく違う品物を探す為に、背嚢を漁り始めた。

 中に入っているのは数組の着替えと、いざと言う時の応急処置キット位で、私物なんてほとんど入っていない。

 いくつか食べ損ねた缶詰やレトルトパウチ等はあったが、これ位は持って行ってもいいだろうと自己判断しつつ、奥底に仕舞われたあるものに気が付く。


「それならこれは? 日本から送られてきたんだが……」


 彼が出したのは紙袋に入っている一枚の冊子だ。

 そう言えば中身を見ていなかった事を思い出し、袋を開けた。


「……なんだこれ、映画のパンフレット? 何々? スペース・ナチス☆機械と化した総統? なんじゃこりゃ」


 B級映画の匂いがする。

 これ以上ない位、B級映画の匂いがするパンフレットだった。


「ああ、それが今回の仕事だよ」

「これが今回の仕事なのか!? これが!?」


 そのパンフレットが仕事だと言われてしまえば、サイハテとて素っ頓狂な悲鳴を上げるしかない。

 一体全体、戦闘能力を有する工作員に、何をさせようと言うのか。


「ほら、次」


 相変わらず、妻は冷たい。

 次と示唆されてしまえば、仕事にかまけていて構ってやれない夫は、ほいほいと従う以外道はなかった。

 もう荷物の残りも少ないので、後は岩壁に立てかけてある物位しかない。


「それならこれはどうだ。ここに来た米軍の人から貰った戦闘装備一式なんだが、これはいらないだろう?」


 彼が掲げたハンガーには、都市型迷彩服に、ボディアーマー、それにM4が付随していた。


「あ、それも仕事道具だよ」

「米軍との共同作戦かなにかか?」


 装備一式を見つめていると、とある仕事の可能性を思い付く。


「ああ、なるほど。映画の撮影か」


 そう考えれば不自然ではないし、さして無茶な仕事ではない。西条疾風の身体能力を持ってすれば、行えないアクションなど存在しないからだ。

 尚、物理的に不可能な動きは除く。


「……」


 しかし、妻の反応は芳しくない。

 装備をいるものボックスにしまっていたサイハテは気が付かず、思わずこんな事を口にしてしまう。


「俺も銀幕デビューか。スタントマンとしてだろうが、なんだか悪くない気分だよ」


 思わず口元に微笑を浮かべて、振り返ったその時である。最近はすっかりとお約束となった、大粒の涙を溢す琴音がいた。


「……どうして泣いているんだ?」


 映画のスタントマン程度ならば、多少の危険はあれど単独潜入任務よりは危険は少ない。

 だと言うのに、彼女が泣いていると言う事は、今までより圧倒的に危険な仕事だと言う事だ。映画の撮影ではない事を、察した。


「だって、もう訳わかんないじゃん!!」

「どうした、落ち着け。詳しく説明してほしい」


 琴音はヒステリックな声色で怒鳴ると、いるものボックスから例のパンフレットを引っ張り出し、サイハテの眼前に突き付ける。


「これが今回の敵なの!!」


 その余りにも簡潔で、これ以上ない位しっかりと説明を果たした割には、意味不明な内容に、再び素っ頓狂な声を上げてしまった。


「これが今回の敵なの!?」


 オウム返しだった。

 今回の敵はスペース・ナチス☆機械と化した総統です。と言われてしまえば、彼はこう答えるしかない。

 目を一度閉じて、強く頭を振って、いつもの調子を取り戻したサイハテは、落ち着いてはいるが、どこか心ここに非ずと言った様子で、口を開く。


「……成程、わけわからん。敵は解った、確かにナチスの思想はヤバイから、倒さなくてはならないな。だが、機械と化した総統とはなんなんだ?」


 今回の主敵はナチズムなのは理解できたが、機械と化した総統と言うどこか、ゲイポルノのような部分はさっぱりわからなかった。

 べそべそと泣く琴音の隣に腰を下ろして、返事を待つ。

 しばらくすると落ち着いたのだろう、彼女は小さな声で話し始める。


「ヒトラーは死んでなかったんだって、ベルリンが包囲された時、沢山の科学者と一緒に、無数の冷凍された受精卵を持って、ロケットで脱出して、火星に逃げてたらしいよ」


 それが本当ならば、非常に不味い事態だ。

 しかし、かの独裁者は自殺したと言うのが、世界の通説であり現代にいたるまでの認識である。


「……それで、機械になって今まで生き延びていたと?」


 サイハテの捕捉に、琴音は頷いた。


「うん、地球への帰還がついさっき確認されたんだって。旧連合国相手に、秘密裏の通信があったそうだよ。私は帰って来た、って」


 それからは予想が付く。

 元同盟国の日本にも連絡があり、焦った本部がサイハテにパンフレットを贈って来たのだ。秘密裏にヒトラーを消して欲しいと言う意図は読み取れたものの、この状況で消したら世界は混乱に陥ってしまう。

 次点で米軍との共同作戦が妥協案らしく、彼の知っている本部らしい采配だった。


「成程な」


 サイハテは頭を掻きながら返事をすると、ゆっくりと立ち上がる。


「そんな事情ならば仕方がない。俺はどこに向かえばいい?」

「ケネディ宇宙センター」

「仔細まで了解した。作戦説明は向こうさんからお願いしよう」


 いくつか他愛のない会話をした後、彼とその妻は別れて仕事に向かった。

 伝説の諜報員ジークの列伝に、この事は書かれていない。世界が秘匿した為である。

 尚、今日に行われた作戦の感想を、サイハテはこう評した。


「米軍TUEEE」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ