三話:山中突破
サイドストーリーズはしばらくお待ちください。
奈良市から大阪に向かいたいのならば、生駒山を越えていくのが、一番近い。
曲がりなりにも大阪は日本第二の都市であり、インフラが発達していた事実がある。文明が崩壊し、管理する人間が居なくなった現在でも、道路群の大半は形を保っていた。
車でもあれば、楽な旅になるだろう。
だが、サイハテがそんな所を通る訳がないのである。
道路が残っているのならば、大量の物資を運搬しなくてはならない軍隊が、そこを利用しない訳がなく、この時代においても、一時間に数十台のトラックが行き来しているのが確認できた。
瓦礫に身を隠した変態は、装甲車の護衛を引き連れた輜重隊を見て、一瞬だけ渋い表情を見せる。
「……道路から向かうのは無理か」
その気になれば、敵の歩兵隊に紛れながら進む事も出来るが、隠れる場所のない車両の上で、しかも少人数で構成される補給部隊に紛れる自信はなかった。
護衛さえ居なければトラックの荷台にでも紛れられたのだろうが、幌のないトラックに紛れても見つかるのがオチである。
降下の失敗により、警戒レベルが上がっているので、物資集積所に出入りする補給部隊は検査の対象である、ここは大人しく別のルートを選択した方が、潜入成功率があがるだろう。
潜入任務に置いて、敵部隊との戦闘は最後の最後に取る手段であった。
出来るだけ敵に見つからないように移動したいのならば、人類が踏破し辛い道を選ぶのがセオリーである。
「結局山登りか……」
遮蔽物も多く、野生動物が蠢いているから、人間相手にも機械相手にも見つかり辛い。
中華で散々山を登ったので、思わずそんなぼやきが出てしまったサイハテは、気を引き締めると近場にある生駒山へと向かう。
町中を進んでいる最中に、いくつもの巡回部隊と遭遇し、その度にやり過ごす時間が必要だったので、生駒山へとたどり着くころには、すっかり日が傾いてしまった。
西日に照らされる山脈は美しいが、今はその花鳥風月を楽しんでいる場合ではない。
目の前に広がるなだらかな山脈を踏破する為に、身を低くして藪の中へと突入していった。
いくらなだらかな山岳とは言え、人の足で登るにはそれなりに険しい場所である。
しばらく巡回部隊とも出会わず、順調に進んでいたサイハテだったが、木々の間をすり抜けるように飛ぶ、機関銃の付いたドローンを見て、思わず身を隠した。
左腕の小手についたカメラを起動させ、そのドローンを撮影し、アルファ・クラン本部へと連絡を入れる。
『はぁい! 何か用かな、ジーク君』
無線に出てきたのは、心地良い声の陽子ではなく、何故か女装している男ネイトだった。
「……陽子はどうした?」
まさかとは思いつつも、そう尋ねると、無線機の向こうで彼は笑う。
『町で問題が発生したから、その対処だってさ』
ネイトの言葉を聞いて、サイハテは小さくため息を吐いた。
この問題と言うのは、あれくれ者の船乗りが酒場か女郎小屋で乱闘騒ぎを起こした、と言う事だ。前々から対応の陳情書が上がっていたのだが、警備人員の不足から、直接アルファ・クランのメンバー、または館山要塞のメンバーが対応する以外に解決方法がなかったのだ。
「あの子は、また仲裁しにいったのか……」
それでも、陽子が行くと無駄な血を流さずに解決できる事から、彼女が自ら望んで赴く事が多かった。
今回もそれだろうと、彼は予想し、その予想は当たっている。
『ま、そう言う事。そんで、何の用だい?』
「送った写真に写っているドローンの解説を、レアに頼もうと思っただけだ」
ネイトの質問に返答すると、彼は意外な事を言い始めた。
『ああ、これか。これな、向こうの堺設計局って所で開発されたドローンだよ』
僅かに眉を動かしたサイハテは、至って落ち着いた声で彼に問う。
「何故お前が知っている?」
落ち着いた、とは言うが、感情を押し殺した機械音性のような声色に、ネイトは慌てたように弁解した。
『いやいや! 僕が商品を売った訳じゃないって!! 僕は岐阜の方で元々商売してたんだよ、したらさ、お得様のスカベンジャーが、箱に入ったソイツを持ってきたから買い取ったんだよ』
「ほう、続けてくれ」
『んっんー、それでよ、どこで手に入れたか聞いてみたら、サバト軍の野営地を襲って手に入れたって。後は僕の方で、色々、ちょいちょいっとね』
彼の話に、矛盾はない。
だが、それはそれで言わなくてはならない事が出来てしまう。
「そう言った情報は全て報告しろ。工作員容疑をかけたくはない」
『悪かったって! もうお前に仲間を撃たせるような真似はしないよ、ほんとに』
それならいいが、と呟きながら、サイハテは言葉を続ける事にした。
「情報はまとめて、俺の端末に送ってくれ。その情報を確認次第、奴の捜査線を突破する」
『あいよ。二分位待ってな!』
彼の返事を聞いてから無線機を切り、未だふらふらと何かを探すように動くドローンを見張る事にする。
人の通らない場所を重点的に探している辺り、侵入者がアルファナンバーズの誰かであると、サバトは確信を持っているのだろう。
何はともあれ、未だ大した距離を進んでいないのだから、あまりドローンにかまけている暇はないのだった。
終末変態ガジェット:一式自動小銃
6.5×51mm弾を使用するアルファ・クランの正式採用自動小銃。
基本モデルの銃身長410mm、全長890mm。
プラスチックの軽さと、鋼の強度を持つプラスチールと言う金属で造られた近未来的な割には、設計が古臭い自動小銃。
古臭いからこそ、非常に頑強で整備しやすい特徴を持っている。
銃身を交換するだけで、マークスマンライフル、分隊支援火器にもなる設計で、01式小銃てき弾を取り付けるだけで発射する事が可能。
30発箱型弾倉、50発箱型弾倉、100発円盤型弾倉を使用する。
一応、アメリカ軍が使用しているアクセサリーならば、取り付ける事は可能。
小銃としての仕事も、中距離狙撃銃としての仕事も出来るどころか、機関銃にもなるし、火力支援も出来る汎用性の高い設計である。
記念すべき一回目の調達で、七千丁が発注された。
アルファ・クランは陸上自衛隊より予算を持っている可能性がある?




