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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
六章:父として出来る事
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二話:不時着

 ミサイルは無事打ち上げられ、六甲山までの降下軌道に入ったまではよかったのだが、予想していたより、サバトの防空体制は強固だったため、サイハテの乗る弾道ミサイルは撃ち落とされてしまった。

 煙を噴き上げて、高度を失っていく乗り物から、なんとかベイルアウトするも、高度が低すぎたせいでパラシュートの降下が十全に発揮されておらず、叩きつけられるように街へと落ちていく。


『ちょっと、サイハテ。ロケットの信号がロストしたけど何があったの!?』


 耳小骨から、陽子の声が響いているが、地面に叩きつけられたサイハテは見事に、頭から土へと突き刺さっていた。

 いつかのように、両足をバタつかせると爪先で地面を押して、泥塗れの頭を引き抜いて、故障したヘルメットを投棄する。


『サイハテ! バイタルが乱れているけど、怪我したの!? 凄い心拍数よ!』


 無線の向こうからは、こちらを心配している少女の声が、相変わらず響いてきている。肩に溜まった土を払い落とすと、一つだけ咳払いをして、無線機のスイッチを入れた。


「問題ない。途中、迎撃を受けて墜落はしたが、目立った損傷はない。ただちょっと……」

『ただちょっと?』

「……着地に失敗して、恥を掻いただけだ」

『あ、そう……これ、恥ずかしいから心拍数が上がったのね?』


 呆れたような陽子の口調に、彼は少しだけ頬を赤く染めて、顎を撫でる。

 高度の足りないパラシュート降下でも、怪我をしないようにと訓練は受けていたが、終ぞ役立つ事はなかったと、変態は小さく溜息を吐く。


「ああ、そうだ。醜態を晒してしまったからな、今なら素人のスカイダイバーの方が、上手な着地が出来るとか、そんな事を考えた訳ではないぞ?」

『考えたのね? 考えたから恥ずかしいのね?』

「君は俺の羞恥を、どうしたいんだ……」


 無線機からは、少女の嬉しさが滲んだ声色が響いてきている。

 耳に心地良い声色だが、その喜色が己の恥から来ているとなれば、話は別だった。


『別に? サイハテも人間なんだなぁって思っただけ!』

「……何度も聞くが、君は俺をなんだと思っているんだ?」

『変態でしょ?』


 それは間違いないのだが、と口にしかけた所で、サイハテは会話を中断する事にした。彼女は往々にして、こう言った部分があり、話を合わせていると、ずるずると横道にずれていってしまう。

 あまり、長話はするものではない。


「もう、それでいい。俺は任務に戻る」

『あ、うん。怒った?』

「怒ってはいない。あまり悠長にしていると、敵がやってくるからな。場所を移動させる、安全地帯を確保した後にもう一度、コールする。そのまま待機していてくれ」

『うん、わかったわ。頑張ってね』


 頑張れ。

 そう言ってくれた陽子に、心の中で礼を言うと、彼は移動を再開した。

 墜落した場所は、予定していた六甲山より大分東の方へと流れていた。山脈に囲まれた市街地の廃墟、そう呼んで差支えはないだろう。


 しばらく道なりに進んでいると、根本が腐って倒れた道路標識が鎮座していた。

 看板に積もった土ぼこりを慎重に払うと、ここが奈良市であると情報を得ることが出来た。大分大阪市が近い事も理解できたが、同時に敵の防衛線ど真ん中である事も理解してしまう。

 既に、廃墟のあちこちからエンジン音とサイレンが響いてきており、サイハテの侵入は、バレてしまっていた。


「……前提条件からして、失敗か。成程、ついていない」


 出来る事なら、侵入した事に気が付いていない内に、娘を回収して離脱したかったのだが、パラシュートで降下している場面を見られてしまったのだろう。

 救出プランの大幅な変更を余儀なくされる。

 一度見つかってしまえば、侵入者の死体が見つかるまで警戒を解く事はない。


「……こちらジーク。本部、聴こえるか。救出プランAは即時破棄、プランをBに変更する」

『え、う、うん……大丈夫なの?』

「今のところは問題ない。更にプランを変更する必要があったのならば、報告する」


 スリングで担いでいたアサルトライフルを手に持って、マガジンを引き抜く。

 弾頭の先端を青く染めた抑音単分子処理弾が入っているのを確認すると、そのまま弾倉を元に戻して、コッキングレバーを引いた。


『わかったわ。何度も言うけど、なるべく戦闘は避けるのよ』

「わかっている。通信終わり」


 無線機のスイッチを切って、サイハテは銃を構えて歩き始める。

 あちこちから聞こえてくるエンジン音と、兵士達の走る足音を避けながら、彼は奈良市から脱出して大阪へ向かう。

 これから向かう先には、罠が用意されている位、理解している。それでも失ったものをもう一度取り戻せると知ってしまえば、向かわない訳にはいかなかった。

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