エピローグ:突入方法
『ねんりょーのちゅーにゅーいそいでー!』
急遽建設されたミサイルの発射場では、中距離弾道ミサイルの発射準備が急ピッチで進められていた。
この日の為に用意されたフル装備を身に纏ったサイハテは、レアがメガホンで作業員に怒鳴る姿を静かに見つめている。
ある程度、発射準備を整えた頃、護衛である金縁を施した黒い装甲服を纏った、バイオニックソルジャーを引き連れた陽子が顔を出す。
「進んでいるわねー」
彼女は燃料の注入段階に入ったミサイルを見て、そう感想を漏らした。
「ああ、後数分もしない内に、カウントダウンだ」
そのミサイルに乗るはずの変態は、いつも通りの雰囲気を纏っている。
特に緊張等はしていないようで、それが陽子には気がだったが、これからもう一度、その彼に任務内容を説明するのが、今日の仕事だった。
一つだけ咳払いをすると、作戦前のブリーフィングを始める事にする。
「サイハテ、いい。よく聞いて頂戴」
「ああ、聞こう」
パワードスーツの機能を持ったスニーキングスーツを着込んだサイハテは、いつもより一回り以上大きいので、凄まじい威圧感がある。
彼が立ち上がって、威圧感を増した事で、言葉を飲み込みかけたが、少女は喉を鳴らすと続きを喋る為に、口を開く。
「まず、サバトの支配圏を強行突破する為に、貴方は大気圏外から突入する事になるわ。人類初の、宇宙からの敵中降下。正気だったらまずやらない事よ」
「よく理解しているさ。それでも、陸路や海路、空路よりはずっと安全なんだろう?」
正気ではない、と言われても、サイハテの態度は変わる事なく、これが最も確率の高い潜入方法であると宣言をした。
距離的にも遠く、陸路には幾重にも張られた防衛線が、海路には巡回する駆逐艦が、空路には大量の対空攻撃手段が存在する事から、宇宙から行くしかないのは事実である。
「そうよ」
危険な事をさせたくない陽子であったが、安全な手段が解るまで、潜入禁止と言う事はできなかった。
禁止にさせても、サイハテは表面上だけ従うだけで、すぐに単独で風音の元へと向かう事は、誰にでも予想出来る事だからだ。
「落下地点は六甲山を予定しているわ。そこから大阪に向かって頂戴。旧文明の道沿いに向かえば楽だと思う。直接的な戦闘は避けてね、沢山の道路が残っているから、すぐに増援がくるわよ」
「ああ、理解している。敵を避けて、目標に接近しろと言うのだろう?」
「そう言う事、絶対に直接的な戦闘は避けるのよ」
「解っているさ」
と、嘯く彼だったが、心配はいらないだろう。
元々単独潜入の得意なナンバーズなのだから、その辺りは素人の陽子よりはわかっているはずだった。
「それで、これが一番大事よ。サイハテ」
少女はこれが一番大事と言って、サイハテの両手を強く握る。
「私達が出来る支援はこのミサイルだけ、風音さんを見つけるのも、脱出路を確保するのも、全て貴方一人でやらなくちゃいけないの」
そして、こちらから持っていく以外には、武器弾薬の確保手段はなく、大阪上空にはジャミングがかかっているのか、常に暗雲が立ち込めており、衛星写真での地理確認ができなかった。
故に、最も近く、地形の確認と兵器の確認が出来る六甲山を落着場所に選んだのだ。
「……ろくな支援はできないけど、貴方の小手には無線機がある。もし、寂しくなったり、挫けそうだったら、連絡してよ。話し相手位にはなるから」
至って普通の少女が、特殊任務で出来る事なんてこれ位とでも言わんばかりの提案に、吹き出しそうになるサイハテだったが、なんとか堪えて、陽子の頭に手を置いた。
「そこまで心配してくれるな。俺は大丈夫だから」
彼がそう言うと同時に、拡声器で拡大されたレアの声が届く。
『さいじょー! じゅんびがかんりょーしたから、みさいるにとーじょーして!』
もう時間はないらしい。
少女の頭から手をどかしたサイハテは、机に並べてあった小銃や拳銃、二振りの刀を身に着けると、ミサイルの搭乗口まで歩いていった。
これが、彼が見せる最後の姿にならなければいい。
陽子は彼の武運を祈ると、護衛に引き付けれられて、発射場から姿を消した。
スピーカーからは、レアのカウントダウンが聞こえている。
あの数字がゼロになった時、父親になろうとしている男は、戦地へとむかうのだった。
来週から新章突入。
変態、本気出す編です。