三十九話:サイハテの悩み
水曜日更新(金曜に更新しないとは言ってない)
今回は短いです。
水曜もしっかり更新致しますね。
館山要塞から少し離れた平野部には、既に町が築かれている。
放浪者の街から、サイハテを慕って集まってきたスラムの連中やら、他のアルファナンバーが活動していた街で、彼らを慕って集まってきた連中が作り上げた町だ。
数百人規模の小さな小さな町ではあるが、労働力に対して、需要は増えるばかりである。
東南アジアからの武装商船や、横浜からの貨物船、自由経済圏に所属する軍艦などが補給、または商品を求めてやってくるのだ。
急いで整備した港と、その前に位置する市場、それと街の外にある農地だけで、労働力を全て使い果たす体たらくである。
「どうしたものか……」
各地からやってくる嘆願書、もとい、人員増員要請書を抱えて、サイハテは大きなため息と共に、そんな言葉を漏らした。
館山の町は、未曽有の好景気に沸いている。
農地から収穫される作物と、要塞のプラントから作り出される粗鋼は、館山要塞の大きな利益となっている。なっている、なっているのだが、金ばかり溜まっても、使う人がいなければ意味がない。
「他軍閥の金なんて、貰っても困るんだがなぁ……仕方のない事だが」
おまけに、やってくる商人や軍人は、館山要塞が発行している円。便宜上、初めて発行した円だから元円と呼称している。の取引を嫌がるのだ。
サイハテの予想では、生産力はあっても、それを守る軍事力がないので、価値がないとみなされているのだろう。
「本当にどうしたものか……」
そして、軍事力を増やすには人を集めてくるしかない。
しかし、その歩兵を徴募できる場所以前に、町に人が居ないので、歩兵が集まらない。他所の町から大規模移民を行おうにも、その移民を守る歩兵が居ないので、行えないのだ。
金を払って、マーセナリーを雇うなんて手もあるが、そもそも、その傭兵を統率する常備軍が居ないので、軒先を貸して母屋を乗っ取られかねない。
「……はぁ~~~~~~~っ」
再び、深々とため息を吐く。
八方塞がりとはこの事だろう。
人が増えるまでは何もできない、無作為に増え続ける人員増員の嘆願書を前に、史上最悪の変態は白目を向きながら骨になるしかないのか。
その時である。
「あの、部長。技術研究部より、内線電話が入っております」
遠慮がちに声を掛けてきたのは、浅黒い肌を持ったアジア人の女性だった。
サイハテの記憶では、最近、商船から降りて来た経理担当で、この館山の町に移民してきたベトナム人だったはずだ。
「ああ、えーっと……ありがとう、リエンさん」
リエン、そう呼ばれた女性から無線式内線電話と言う、訳の分からない内線電話を受け取って、受話器を耳に当てる。
『さいじょー、さいじょー。いま、こまってる?』
電話の向こう側から聞こえてくる声は、随分と聞き覚えがある割には、随分と懐かしい声だった。
そう言えば、ここ一週間程会話していないなと、思い出しながらも彼は声の主に返答する。
「ああ、凄く困っている。困っているが……どうした? そっちで何かトラブルがあったか?」
困っているには困っているが、その困っていると言うのは、何もできないから困っているのであって、やる事があるのならばここまで困惑はしない。
『とらぶるはないよー』
「トラブルじゃない? それなら何の用なんだ?」
『おんなごころのわからないさいじょーに、れあはかせから、ぷれぜんとがあります』
相変わらず抑揚のない声色だったが、受話器の向こうでムスッとしている事位は、サイハテにも理解できた。
恐らく、用がないなら電話をするなと聞こえてしまったのだろう。
「……プレゼント?」
『うん。ぷれぜんと』
首を傾げる変態にむけて、同じ言葉を繰り返すレア。
『さんじっぷんいないに、ぼくにあいにきてね。まってるよー、さーいじょー』
と言って、彼女は電話を切ってしまう。
残されたのは、不可解なものを見たような面持ちのサイハテと、さっさと自分の業務に戻りたいリエンだけだった。
「……リエンさん、自分の業務に戻ってくれ。俺は少し技研に顔を出してくる」
「はい、賜りました。お帰りは何時位でしょう?」
「よくわからない。だから、定時が来たら君達は帰宅してくれ」
「畏まりました。いってらっしゃいませ、部長」
ベトナム人の美女に見送られ、サイハテは足音も立てずに執務室から出ていく。
三十分以内と時間制限を設けられてしまったので、今日の彼は急ぎ足で要塞内部を歩いていく。陽子もそうだが、レアも待たせると拗ねるのだ。
急がなくてなるまいと、彼は足早に廊下を駆け抜けていった。
ベトナムには言った事はありませんが、シンガポールになら一度だけ言った事があります。
こう、島に立ち並ぶビル街が圧巻でございました。
車種によって、タクシーの値段が変わったりとか、少々変わった文化があるんですね。片言でも英語が通じるのが有り難いです。
それと、ヒュンダイの多さよ。
アメリカの中古ショップで二十ドルで売られているヒュンダイが、あんなに走っているとは……。まさに驚きです。