三十七話:新たなる装備
水曜日更新(一回しか更新しないとは言ってない)
一足先に館山要塞へ帰投したサイハテは、レアが待っているはずの研究区画へと向かっていた。
階段を下りて、エレベータを使い、それでようやく研究区画へとたどり着く。ここには少なくないコンピュータとわずかな製造設備が存在しており、日夜、研究員達が実験などを行う部屋もある。
そこにたどり着くと、待ちわびたと言わんばかりの小さな少女に出迎えられた。
「おっそーい!」
目の下に隈が出来ている位、彼女は頑張っていたのだろう。
一応断りを入れてから、スカベンジに向かったのだがそれでも、レアにとっては遅かったのだろうと、彼は判断して、軽く頭を下げる。
「すまない、色々事情があってな。だが、君の望むものは確保してきた。それにお土産もある」
そう言って、サイハテは背嚢を漁り、ジェネレータコアと電子戦ハルカの頭部を渡してやった。
「……さいじょー、おみやげってなまくび?」
「そう言われると、少しアレだが、そいつの持つデータは役に立つはずだ」
「それはそーだけど、もーすこし、じょーちょがほしー」
少女の言う事は最もだが、遊びに行ったわけではないので、彼女が好む土産等は確保できるわけもない。
「すまないな、今度は君が好むものを探してこよう」
「こんやくゆびわがほしー」
「……まぁ、それが欲しいのなら、善処しよう」
善処と言う言葉は、やらないの類似語でもある。
日本語の便利さに感嘆の感情を覚えている彼をスルーしたレアは、背を向けると手招きをし、口を開いた。
「じょーだんはさておいて、さいじょーのほしがったもの、つくったから、きて」
「ああ、付いて行こう」
歩き始めた少女の、三歩後ろを着いて行くサイハテ。
彼らの様子を見守っていた研究員達からは、事案の声が上がるが、一々相手にもしていられないので、適当に会釈をしておく。
レアに着いて行った先には、第三倉庫を書かれた部屋があり、彼女がポケットから鍵を取り出して、そこの扉を開いた。
「はいってー」
少女に促され、暗い室内へと通される。
こんな所に何があるのかと、目を凝らしていたら突如として灯りが点き、彼の目を暗ませた。
一つしかない眼をはためかせ、強烈な光に目を慣らすとそこには望んだ物、とは少し違うが概ね希望通りの物が揃えられているのが見える。
「せつめーいる?」
「ああ、頼む。俺では理解し難いものがいくつかあるからな」
「まず、これ」
これと、レアは小さい手で部屋のど真ん中に鎮座するラバースーツのようなものを叩いた。
「だーぱのえーてぃーおーがかいはつした、こーがく、おんぱいがいの、ありとあらゆるじょーほーをしゃだんする。しんせんい、をつかったすにーきんぐすーつ。を、ぼくなりにかいりょーした」
「DARPAのATOか。あいつら、また変な物作っていたんだな……ありとあらゆる情報とは、熱源もか?」
「ねつげんも、えっくすれいとか、ほーしゃせんはむり」
DARPAのATOとはアメリカ国防高等研究計画局の先進技術研究室の略称である。
インターネットの原型と、GPSを作った研究機関として有名なのかもしれない。DARPAを知らなくても、インターネットとGPS位は知っているだろう。
「成程、大分任務が楽になる。いくら俺でも機械的なセキュリティを誤魔化すのは不可能だからな」
西条疾風ことジークは、単独潜入を得意とした工作員である。
生物相手、それこそ人間と犬程度ならば、絶対に見つからない自信はあるものの、機械式セキュリティはどうにも苦手なきらいがあった。
カメラに写ってしまえば、その映像、または写真は残る。それが証拠となって、危機を招いた事は三度もあるのだから、誤魔化せるに越した事はない。
「それで、改良した部分とは?」
「あのね、じんこーきんせんいに、かーぼんなのぶらしをくみこんだ。きょーかきんせんいをじょーびしてる。えぬあいじぇーきかくで、たいぷふぉーのぼーだんきのーがある」
「それは凄い、凄いが防弾だけか?」
近寄って、スニーキングスーツを揉んでみるとゴリゴリした感触が指先から伝わってきた。
確かに、筋繊維らしきものが内部に張り巡らされており、防弾能力は眉唾ではあるが、体が一回り大きくなりそうな印象だ。
「さいじょーのしんけーしんごーをよみとって、ちからをぞーふくするきのーもある。もとがさいじょーだから、たいさないけど。ぶんるいは、ぱわーどすーつ」
サイハテの身体能力はそれこそ、人類が到達できるであろう最高位まで高められている。
人類が到達できるとはすなわち、骨格強度の限界ギリギリまで力を振り絞れるだけでなので、それ以上の力を出せても骨折するだけであり、パワードスーツの機能は無駄になりそうだった。
「成程、それでも十分だ。他は?」
「ほかはねー」
今度はスニーキングスーツの周りに鎮座している対衝撃ボックスを開いて、装備を引っ張り出している。
「これ。しんがたの、こーしゅーはぶれーど」
レアが突き出した二振りの刀を受け取った彼は、鞘から刀身を抜き放って、その刃を眺めてみる。黒塗りの光を返さない黒い金属でできた、暗器のような刀だった。
「刀身が短いな、それに分厚く幅広だ。刃渡りは六十センチくらいか?」
「とりまわしを、じゅーししてみた。ただし」
「……ただし?」
ピッと挙げられた人差し指を見て、サイハテは思わず首を傾げてしまう。
「これはねつで、よーだんするかたな。きりつけるときに、はをひかないでほしー」
「了解した。力任せにぶった切る方向で使おう。こいつの強度は?」
「んー」
強度に対する質問をしたら、少女は悩み始めた。
どう説明するか悩んでいるのか、それとも、使用している金属材が不安なのか、それは彼にもわからない悩みだ。
「りろんじょーは、どんなしつりょーでもたえうる。はずなんだけど……」
「なんだけど、どうした?」
苦虫をかみつぶしたよう、までは行かないが、嫌いなピーマンを齧ってしまった幼児のような表情をしたレアは、申し訳なさそうに小さな声で言った。
「……いんごっとから、かこーできちゃったから」
「……ああ、スペック上はそうなっている。だけの話か、世の中にそんな物は溢れている。イギリス製の武器とかな」
申し訳なさそうな少女に対し、変態はいつも通りだ。
イギリス製の兵器に何かしらの恨みでもあるのだろう、彼はブリティッシュサイドへのディスリスペクトは忘れない。
「いぎりすに、なんのうらみが?」
「L85は二度と使わない、例え、SISの提供品でもな」
サイハテ曰く、現地の民兵に装備させたはいいものの、排莢不良が多発し鍛え上げた兵士達全員が負傷するなり、死亡するなりしてしまったらしい。
彼も無料だからと、現地で使用していたらしいが、敵との遭遇戦でマガジンが落下し、七発も腹部に銃弾を受け、戦死する寸前であったとか。
「……まぁ、ブリティッシュウエポンはどうでもいい。他にもあるのか?」
「う、うん。えっとねー」
余程、辛い経験だったのだろうと、気を使ったレアによる兵器紹介は続いていく。
L85も改良されてから、悪い銃ではなくなったと聞きます。
多分、サイハテに支給されたのはA1だったんでしょうね。