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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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三十六話:少年への報酬

 サイハテ達が保田に着くころには、既に支援物資の積み降ろしが始まっていた。

 VTOL輸送機の後部ハッチから、梱包された青いプラスチックの箱を担いで、のっしのっしと歩く機械乙女、ハルカが居る。

 彼女を見た陽子は気まずそうに眼を反らし、それに気が付いた機械侍女は箱を担いだまま、近寄ってきた。


「お久しぶりデス。どうかしマシタか?」


 小首を傾げて、キョトンとする様は至って普通の少女のようで、先程まで鎬を削り合っていた侍女達と同じ兵器だとはとても思えない。


「なんでもないわ……」


 ハルカに問いかけられた少女は、そっと目を反らすと、そう返事をする。

 流石に同型機を撃破してきたから目を合わせづらいとは、言えないのだろう。南雲陽子は基本的に善性の少女であるから、普通に気まずいのだろう。

 と言う訳で、あまり陽子とおしゃべりさせるわけにもいかないサイハテは、口を開こうとしたハルカを遮ってある事を聞く。


「体の修理が終わったのか」


 視線を誘導するように前へ出ると、ハルカは嫌そうな表情を隠そうともせず、軽く頷いて見せた。


「はい。物資の不足と電力不足によって、難儀しマシタが、なんとか」


 機械侍女の態度を見ても、彼は苦笑いするばかりで、怒ったりなどはしない。

 レア曰く、ハルカの態度は疑似人格AIの過渡期によく見られる兆候で、女性型AIならば近しい男性に、男性型AIならば近しい女性に似たような態度を取るらしく、言わばただの反抗期である。

 グラマラスなボディを持っていたとしても、中身(AI)は六歳位の情緒らしいので、どうしてもこうなってしまうのだとか。


「そうか、よかったな」


 最も人間に近い疑似人格を育てるには、家族が必要である。

 そんな論文を廃墟で読んだ覚えがあるサイハテは、未熟ながらも父親役のような事をやっている。やっていると言っても、嫌われているだけなのだが、それでも必要な役割らしい。


「……貴方に言われなくとも…………一応、お礼は申し上げマス。ありがとうございマス。それで、連絡事項なのデスガ」


 一応でも、礼儀を果たすだけそこいらに居る中年よりマシだと、変態は思った。


「おう、なんだ」

「レア様から、貴方に。至急、館山要塞に帰還するようにと」


 至急と言う台詞を聞いて、サイハテは表情を消す。


「……何かトラブルか? 状況は?」

「トラブルデシタら、あたしがここに派遣されるはずがない、デショウ?」

「それもそうだな。で、至急とは?」


 オレンジ色の髪に、メロン位大きな乳房を持っている美少女のような形をしていても、ハルカは57mm速射砲を標準装備していて、彼が知る限り、最も火力に優れる歩兵だった。

 非常事態であったのならば、その火力を放ってはおけないだろう。


「なんでも、準備が整った。とか」


 準備が整った、その台詞だけで状況を読み取る事ができた。

 サイハテは大きく頷くと、背後でまだ気まずそうな表情を保っている陽子に振り返り、口を開く。


「帰還する用事が出来た。俺はアレに乗って帰るが……君はどうする?」


 アレ、と指差したのはVTOL輸送機だ。


「え? 私?」

「そうだ、君だ。どうする」


 話を聞いていなかったのだろう、少女は困惑したように眉間に皺を寄せると、首を左右に振った。


「私はここに残って、お手伝いするわ」


 だろうな。

 と、思わず出そうになった言葉を、彼は無理矢理飲み込んだ。

 陽子の性格的に薬と医者を渡して、はいおしまいとは言えないのを、十二分にわかっていての質問だった。


「君は、どこまでも他人に優しいな」


 代わりに出た言葉は、称賛か、それとも嫌悪か、どちらとも言えないニュアンスの悲しい響きを持っている。


「そうよ、だって私は誰かに優しくして欲しいもの。だから優しくするの」


 その響きに気づいてか、気付かないでか、まるで当たり前の事を言うような口調で、彼女は心中を語る。優しくして欲しいから、優しくするのだと。

 見返りなんて求めていない、ただ他人の善意を信じる(トラスト・ユー)行為だった。


「俺にもか?」


 ただ、サイハテはひねくれものである。

 少しばかり意地の悪い響きを持たせた台詞だったが、彼は気付いていないだけだ。


「何言ってるのよ」


 呆れたように肩を竦めた少女に、これ以上ない位、完膚なきまで論破される。


「あんたは私にもレアにも、ハルカにだって優しいでしょう」


 こうなると、サイハテは後頭部を掻き毟って顔を背ける事位しかできない。


「どこまでも素直じゃなくて、ビクビク怯えながら、わっかりにっくい善意を振りまくのがアンタなのよ。自覚しなさい、このツンデレもどき」


 まるで、あんたは善人だと言われているようなむず痒さが、彼の背中を走りまくる。

 褒められて座りが悪いのか、右の尻を掻くと、サイハテは少女に背を向けた。


「……善意を振りまいた事なんてないし、そんな不名誉な称号を貰った事はない。それじゃ、俺は先に帰っているから、あまり遅くならないようにな」


 そう言って、輸送機まで歩いていく彼の周りをハルカがチョコチョコ走り回って、煽り始める。


「今どんな気持ちデスカ? 年下の少女にツンデレもどきと言われて、どんな気持ちデスカ?」

「恥ずかしい、だ。覚えておけ」


 サイハテの返答を聞いて、機械侍女は思い切り噴き出した。


「恥ずかしい、恥ずかしいデスカ! なんでそんなに恥ずかしいのデスカ? どうしてそんなに顔が赤いのデスカ?」


 ハルカの煽りは、変態が輸送機の中に消えるまで行われた。最終的に、彼は随分と肩を落として、疲れ切ったかのような足取りだった事が印象に残る。

 VTOLが飛び立った後には、どこか満足気な表情のハルカと、呆れたように笑っている陽子だけが残されていた。

女子中学生に理解されたツンデレ(変態)


普通、こう言ったムーブはヒロインがやるものであって、ムキムキマッチョの大男がやってもきもいだけである。

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