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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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三十四話:機械侍女撃滅作戦3

 彼女は必ずここを通ると、陽子は確信を持っていた。

 根拠こそないが、外れた事がない彼女の勘がそう言っていた。これも、ニューマであるからだろうなと、少しばかり落ち込みはするが、生まれで何かが変わる訳でも無し、最近は気にしないようにしている。

 サイハテがビビりながら海を泳いでいる時、少女達はとにかく待ちの一手を張った。二人とも、身体能力に優れる訳でもなく、戦い慣れている訳でもないので、これ以外出来なかったと言う情けない理由もあった。


 伸び放題の生垣に身を隠し、二人は罠を張った通路を見張っている。

 少年と少女が一生懸命偽装した罠ではあるが、見る者が見れば丸分かりで、陽子と潤も侍女が引っかかるとは思っていなかった。

 だから、罠の付近で戦闘を開始して、うまく誘導しようと考えている。


サイハテがいるのならば、彼に囮になって貰って、ここまで誘導する手段もあったのだが、今居るのは陽子と潤だけであり、二人が機械侍女の前に出てしまえば、数秒後にはひき肉になっている未来しか見えなかった。

 二つの事情があってこそ、ただひたすら待ち伏せをする選択肢しか選べなかったのである。

 暗い面持ちを、潤に見せないように俯いていたら、彼に肩を叩かれた。


「姉さん、来ました。予想通りですよ」


 小声で耳打ちされた言葉で、顔を上げると確かに、苛立っているように見えるハルカ型が通路に侵入してきたのを目撃する。


「プランAで、気付かれたらプランBよ」


 同じように耳打ちすると、少年は少しくすぐったそうに身動ぎした。


「わ、わかりました……」


 巨大な爪を引きずりながら歩く機械侍女は、周囲に目を配りながらゆっくりと歩いている。

 まるで、誰かを探しているかのようだと、様子を見守っていた陽子は思った。

 彼女は罠の数メートル手前で突如として足を止めて、後ずさりを開始する。隠蔽が不十分な罠はあっさりと見破られてしまったのだ。

 だが、バレるのは想定内で、バレてからの行動が少女が考え上げた作戦なのである。


「行って、自走地雷!」


 道端に放置された、錆びたセダンの下から隠れていた自走式地雷が飛び出してくる。搭載されたモーターが甲高い唸り声をあげて、彼らはハルカ型へと迫った。

 彼女は接近する自走式地雷を、敵性だと判断したのだろう。

 身の丈を越える、巨大な機械爪で、地雷たちを薙ぎ払う。それは彼女の傍で爆発するが、機械侍女の持つナノスキン装甲にダメージを与える事はない。


「……」


 しかし、それも想定していた。

 初めから、パルスグレネード以外での足止めは考えていない。足止めしてから、陽子の持つプラズマロングガンで仕留める作戦なのだから、爆炎で視界を塞ぐ以外は考えていないのだ。

 自走式地雷が炸裂したころ、少年少女は定位置に移動していた。


 陽子が向かう先は遠く、潤が向かう先は近い。

 少しの時間差が発生するので、少年一人で、機械侍女を足止めしなくてはならない上に、パルスグレネードの罠は、使う訳にはいかなかった。


「わ、わあああああああああ!!」


 ハルカ型の背後から、潤が大声を上げながら射撃を開始する。

 お姉さんぶりたい少女からは、当てる事を考えず、とにかく弾丸をばら撒きながら逃げ回る事を要求され、少年もそれで納得していたので、作戦に異論はなかった。

 見当違いの方向に散らばる弾丸でも、人間相手ならば制圧射撃として意味があるのだが、頑丈な装甲を持つハルカ型は突っ込んでくる。


「ひゃあああああああああ!?」


 素っ頓狂な悲鳴を上げて、振るわれた爪を寸での所で回避した。

 彼の横に合った電柱が、機械爪によって木っ端微塵に粉砕されて、大地に堕ちる。未だ残っている変圧器と電線を持って帰れば二週間は食っていける金になるのだが、潤がそれを気にしている余裕はない。

 必死に足を動かして、逃げ回る。


 さもなくば、死、あるのみで少年は二撃目の爪も、寸での所で回避した。

 逃げ回りながら、ゆっくりと罠がある方向へ誘導する。

 おかしな位、ハルカ型の機械爪が当たらないが、彼にそれを思考する余裕はなかった。逃げ回り、罠の有効範囲まで誘導するので精一杯だからだ。


「うぐぁ!?」


 そうやって逃げ回り、七度目の爪が肩口に掠って、彼の肌を焼いた頃に耳に着けていたイヤホンから、今一番聞きたかった声が響いてくる。


『ごめん! 遅くなったわね! プランC発動よ!』


 陽子の声が聞こえた瞬間、気のゆるみから涙が出そうになるが、今ここで視界を消失する訳にはいかない潤はぐっと堪え、大きな声で返事をし、ハルカ型を睨みつけた。


「はい!!」


 向かい合っていた機械侍女に背を向けて、少年は走りだす。

 回避は、陽子が指示してくれる手筈になっている。

 非常に不安定な回避方法になるが、ここでやらねば己と陽子が死ぬのだ。潤は飛び込んでくる指示に素早く従った。


『右に転がる!』


 背中を爪が掠めて、肉を焼いた。

 痛みで顔を顰めるが、立ち止まる事だけはせず、すぐさま手を着いて立ち上がる。


『前に前転!!』


 走り出して三歩目で聞こえた指示にも従って、飛び込むように転がった。

 尻に爪が食い込んで、ズボンと皮を破いて行ったが、痛みさえ我慢出来れば走る能力に問題なかったし、今の彼は脳内麻薬が出過ぎているので、幸いにも痛みを感じていない。

 立ち上がって、罠のある場所まで再び走り出す。


『立ち止まってしゃがむ!』


 厳しい事を言う陽子に、少年は自分なりに従って見せる。

 立ち止まってしゃがむのは無理だったので、その場で転んだのだ。

 ハルカ型が、彼を飛び越えて、目の前の道路に爪を突き立てた。機械侍女が忌々しそうな視線を潤に向け、目があった少年は右に転がると急いで立ち上がり、爪を引き抜いたハルカの横を駆け抜けていく。


『罠を飛び越えたら、伏せて!!』


 罠はもう目の前で、今これを起爆しても潤を犠牲にハルカの足止めには成功するだろうが、陽子は人が死ぬのをよしとしない。

 少年が飛び込むように罠を飛び越え、機械侍女がそれを追って罠を飛び越えた瞬間、少女はパルスグレネードの信管を撃ち抜いて、作動させた。


「―――――――――――!!」


 突如として発生した強力な電磁パルスに、侍女の全身が悲鳴に似た軋みを上げる。

 それは地面に伏せている潤を大きく飛び越えて、道路に叩き付けられると地面を何度も転がった。後は、その先で待機している陽子の仕事だった。

 銃身が焼き付いてしまうので、一回しか使えないが、それでも歩兵が携行出来る火器で、頑丈なハルカ型を撃破出来る火力が放てる。


「これで、終わり……」


 マガジンに残っている荷電粒子を一度に放つ、チャージショットだ。

 撃つ前だと言うのに、普段は銃身を隠している白いパーツが花弁のように展開して、緊急冷却を開始している。

 紫電にまとわりつかれた機械侍女が忌々しそうに顔を上げて、少女を睨んだ。


「……ごめんね」


 ただ、与えられた命令を果たしていただけの、家族に似た機械に向けて、陽子は謝罪の言葉をつぶやくと同時に、引き金を引いた。

 巨大な金属プラズマが侍女の電脳と頭部を焼き尽くし、彼女の駆動を停止させる。

 侍女は地面に倒れ臥し、長い稼働年月に終止符を打った。


「……なんだか、やるせないわ」


 人間に最後の最後まで利用されて、朽ちていく機械とは、どんな気持ちなのだろうか。

 それを考えただけで、陽子は胸が張り裂けそうな気持になった。

遅れに遅れて申し訳ない。

とりあえず徹夜で書き上げました。


来週は普通に更新できるかと思います。

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