三十一話:機械侍女撃滅作戦
潤が起爆装置を組み上げ終わる頃、サイハテが帰ってきた。
手には少年に使わせるための銃が入った衝撃ケースが握られている上に、空にしたはずの背嚢がまた膨らんでいる。
「何を持ってきたの?」
窓際から離れて、陽子が尋ねた。
「囮だ」
男はそう返答すると、背嚢をひっくり返して内容物をぶちまける。
床に転がったいくつかの木箱には、火気厳禁の焼き印が押されており、そんなに乱暴に扱っていいのかと思う少女を尻目に、変態はその木箱を開け始めた。
中から出てきたのは、ラジコンカーのような、よくわからない物質だ。
「……これが囮?」
それを抱えあげて、首を傾げる陽子を見て、サイハテは小さく頷いた。
「ああ、自走式地雷。と言うらしい、レアに実地試験を頼まれた兵器だな」
その自走式地雷は無造作に転がされており、火気厳禁の割には随分と乱雑な扱いだった。数は五つほどで、どれもこれも、冗談みたいなカラーリングをしており、大変目立つ囮だ。
「んー、これ、私が使うのよね?」
「そうだ。多目的端末は持っているか?」
彼は自分の腕にはまっている小手を突き、陽子は首を左右に振った。
「持っていないわ。使い方がわからないもの」
「そうか、だったらこの機に使い方を覚えるといい」
サイハテは彼女に向かって、ポケットの中に入っていたガラス板のようなものを投げ渡す。
「いいか、使い方は単純だ。使いたいアプリを選んでタップするだけ、スマートフォンと操作感は変わらない。こいつらに指示を出したいなら、T-34と言うアプリをタップして、指示を音声入力しろ。後は地雷のAIが判断して最適な行動を行ってくれる」
「それだけでいいの?」
「それだけでいい。自動化と言うのは、元来こう言ったものだ」
誰かにしか使えない物なんて、なんの価値もない。誰にでも使えるからこそ、価値が上乗せされるのだ。
陽子は言われた通りにアプリを起動すると、ガラス板に唇を近づけて、指示を飛ばす。
「えーっと……集合?」
その一言だけで、無造作に転がっていた自走式地雷は、彼女の前に集まった。しかも、整列して集まると言うおまけつきである。
「なんか、可愛いわね」
「情が沸く気持ちもわかるが、そこまでにしておけ。そいつらは所詮地雷だ」
「……わかってるってば」
サイハテの言葉に、少女は唇を尖らせる。わかっているとは言っていたが、その可能性を失念していたのだろう、彼女はばつが悪そうに顔を背けていた。
「わかっているのならばいい。なら、そちらは任せるぞ」
わかっているのならばと、すぐさま背を向ける彼を見て、陽子はある言葉を口にしてしまう。
「……私って思ったより信頼されてるの?」
ついつい疑問符が出てしまうが、別段質問をしたつもりはなかった。しかし、根は真面目なサイハテである、しっかり質問に返答した。
「ああ、君が思っているより、俺は君を信頼している。本来ならば、君みたいな子供を戦力として数えるのは流儀に反するのだがな……」
そう言って鼻を鳴らすと、彼は潤に持ってきた武器の説明を始めてしまう。
「いいか、潤。こいつはパーソナルディフェンスウェポン。個人防衛火器と称される武器でな、見てわかる通り、自動小銃よりは小さく、機関短銃よりはでかい。そら、構えて見せろ」
「は、はい……」
武器を受け取った少年は、おずおずとそれを構えてみせる。
やはり、正規の訓練は受けていないのだろう、構え方が滅茶苦茶で、とても狙って撃てる技量を持っているとは言えなかった。
「構え方が違う、いいか。こうやって構えるんだ」
「こ、こうですか?」
「違う、もっとしっかりストックに頬をつけろ。これだけで安定性が変わる。後、グリップを握る位置は少し下を握れ。それなりに長い時間銃を握るならば、疲労は僅かにでも軽減した方がいい」
「こう? ですか?」
「そうだ。左手はマガジンハウジング……この辺りを握って、体に引き付けるようにしておけ」
しばらく教官役のサイハテを見つめていた陽子は、その微笑ましさでついつい笑ってしまう。
大体兵士の教練と言えば、教官に怒鳴り散らされてえっちらおっちらやるものだが、相手が子供だからか、教官である彼は優しくわかりやすいように教えている。
その姿がまるで、子供に野球を教える父親のような微笑ましさを醸し出していて、ついつい笑ってしまった。
「優しいんだから」
思わずつぶやいたその言葉は、潤には聞こえていなかったが、サイハテには聞こえていたようで、居心地が悪そうに頬を掻いた彼が、陽子の方向に振り返り、口を開く。
「調子が狂うからやめてくれ」
「うんうん、ごめんね?」
にっこり笑って揶揄うような口調で謝った少女を見て、彼は後頭部を掻いた。
「……もう好きに笑っていろ。それより、そろそろ作戦を開始する。準備はいいな?」