二十九話:深刻な電力不足8
入院してたよ!
更新遅れて申し訳ない!
口汚く激励してやるのが、兵士達のお約束ではあるのだが、至って普通だった少女はお気に召さなかったらしく、唇を尖らせている。
かと言って、これを取り消してしまうのもどうかと思ったサイハテは、困ったように顎を擦り、これからの事を語り始めた。
「あー……これからどうしよう。って話だが」
ちらりと見られた陽子は、困ったような表情の彼を見て、少しだけ溜飲を下げると、自分の意見を口にする。
「観測手と、あの殺人メイドをどうにかやり過ごさないとね」
「観測手なんて居たんですか……」
潤を含んだ少年達は、どうやら観測手の存在を知らなかったようで、それが仇となったようだ。
しかし、彼らが死んだ位置からはどうやっても知る事の出来ない情報である。知らない事を責めるのは酷ではあるが、どこに敵が居るか分からない廃墟で、のこのこ歩いていたのは責められてもおかしくない。
「そうよ。発電所の屋上に陣取って、周囲を見渡しているみたい」
「そうなんですか。だから、僕らは見つかってしまったんですね……」
推移を見守っていたら、少年少女は談笑を初めてしまった。
内容は決して笑い事ではないのだが、どこぞの誰かが死体になった。その原因はなんだった。なんて話は、この世界では日常会話の一つである。
さして、違和感のある会話じゃない。
「陽子姉さん達は、どうやってやり過ごしたんですか?」
姉さん、そう呼ばれた事に陽子は大きく反応した。
「……今、なんて呼んだの?」
「え? ああ、失礼でしたか。すみません、気安く陽子姉さんなんて」
「いい、いいのよ。好きに呼んで頂戴」
申し訳なさそうな潤に対し、その謝意に恐縮する少女だったが、どこからどう見ても嬉しそうだ。頬は吊り上がりたいのを我慢して、少し痙攣しているし、目尻は下がっている。
それに気が付いたサイハテとしては、苦笑いをするしかない。
「それで、どうやってやり過ごしたか。だっけ?」
「はい、お手数でなければ、教えて欲しいです」
「えーっとね。やり過ごした訳じゃないのよ、あの殺人メイドと観測手を発見したのはたまたまでね……」
陽子は自分の体験を、なんとか言葉にして少年へと伝授している。
拙い説明ではあるが、聞くと聞かないでは大違いだ。彼女もまた、荒野で生き残れる人間であるから、その経験は値千金の価値を持つ。
隣に西条疾風と言う安全装置があったとしても、彼の言う事行った事を経験として消化し、己が血肉としたのは彼女なのだ。
「普段は屈んで移動した方がいいのよ。瓦礫に身を隠しながら、敵を耳で探って、音のしない方に進む。ああ、周囲の情報は大事だから、図書館とかあったら、そこで地図を探すといいかも、目的地を粗方決めて、敵に会わないように進むのが探索の基本だと、私は習ったわ」
「へぇ、なるほど……敵に出会わない事が前提の行動なんですね」
少女の話す事を、潤はしっかりと理解して、確認の為に口を開いていた。
少年少女の談話は終わりそうにないので、サイハテは外の気配を探りながら、二人の会話に耳を傾け、生温かい視線を送っている。
余談ではあるが、もう荒野に放り出しても、陽子ならば生き残れると彼は判断している。戦う為の技術が射撃しかない、と言うのは少々不安ではあるが、それを補う技術を、拙いながらも彼女は獲得していた。
「………………そろそろ、お喋りは終わりにして貰おうか」
若いだけあって、しがらみやプライドなんかとは無縁なので、打ち解けるのは早い。
だが、いつまでもお喋りさせておくわけにはいかない。少々可哀想だが、彼は横やりを入れる事にした。
サイハテが苦笑しながらそんな事を口にすると、二人はここがどこだか思い出したのだろう。罰が悪そうな表情で口を閉じる。
「そう言えば、どうするかって話だったわよね……」
これ位で怒る程、彼は狭量ではないが命に関わる事案であり、遅れれば遅れる程、潤の姉は死に近づいて行くのだから、陽子としては反省する他ない。
当然の如く、その心の動きはサイハテに読み取られており、彼は何度か頷くと、ゆっくり口を開いた。
「そうだ。俺達が向かう先は発電所。そして、そこまでの道に遮蔽物はない。無理矢理突破しようものなら、発見されてあの侍女が向かってくるだろう。彼女達の身体能力から逃れる術は、俺にもないぞ」
故に、助け舟代わりに状況を整理してやる。
サイハテの脳内では、もういくつかプランが出来上がっているのだが、せっかく時間を取った事だし、陽子にも考えさせようと言う魂胆だ。
「そうねぇ……潤、何か考えつく?」
「……えっ!? 僕ですか!?」
「ごめんね、無茶ぶりだったわね……」
黙っていた潤は突如として話を振られ、困惑している。
こう言ってはなんだが、潤のレベルは武器を持った素人であるからして、思い付く訳がないのである。モデルガンを振り回しているのが、お似合いのレベルだ。
「うーーーん……」
少女はどこぞの変態のように、顎を撫でながら考えて、一つの結論を出す。
「妙案が浮かんだんだけど……実行できるかどうかはわからないわ」
案はあるが、実行できるかどうかは未知数だと、彼女は結論付けるが、それは聞いて見なくてはわからない。
「ほう? とりあえず話してみろ。実行できるどうかは、皆で考えればいい」
シラミが沸いていそうなベッドに腰掛けたまま、サイハテはそう促し、思い付いた本人は遠慮がちに、おずおずと語り始める。
「まずね……」