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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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ブックマーク800件突破記念サイドストーリー:こだわりのピストル

「んーんんー♪」


 夜寝る前に、サイハテの部屋に遊びに来た陽子とレア。

 彼女達は非常に珍しい光景を目にしてしまう、あの彼が、いつも不機嫌そうな表情で、鼻歌なんて歌ったところを見た事ないあの変態が、少しばかり唇を緩めて、鼻歌なんて歌っているのだ。


「ど、どうしたの!? 病気!?」

「………………いきなり、失礼だな。俺だって、鼻歌位歌うぞ」

「みたことないから、おどろいている」


 少女二人が、驚愕に包まれているのを見て、サイハテは一つしかない目を反らして、手元に注ぐ。

 そこには、彼があの施設で見つけてから愛用し続けている、古い拳銃があった。

 高級そうな銀色のフレームに彫られた、これまた名匠が手掛けていそうなオリーブのエングレーブ。象牙のグリップガード等々、実用面と鑑賞面において、これでもかとカスタムされている、相棒の45口径拳銃だ。


 綺麗な拳銃だと、陽子は思ったが、彼にとって、少しばかり似合わない銃だった。

 西条疾風は、戦場を生き抜いただけあって、実用性と信頼性に拘る素振りが多く、実用面のカスタムなら未だしも、あれだけ鑑賞面にお金をかけているのは、少しおかしいと思う。


「ねぇサイハテ、そのピストル……」

「ああ、俺には似合わない、と言うんだろ?」


 彼も、自分には似合わないと思っているらしい。


「……どうして? そのてっぽー、かっこいーよ?」


 分解された45口径が散らばるテーブルまで近寄って、シルバーのメタルスライドを手に取ったレアは、そう言った。

 彼女の幼い顔立ちが映し出される位、磨き込まれた綺麗なスライドだ。


「きれー」


 幼いとは言え、レアも女。

 ピカピカ光る、美しい物は大いに好んでいる。


「陽子はな、こんな目立つ拳銃を、隠密が得意な俺が持つのはおかしい、少し変だと言っているんだ」


 顔が映るほど美しく磨き上げられているからこそ、その銃は非常に目立つ。

 太陽光を反射し、街灯の明かりを反射し、どこにいてもピカピカ光るのだ。


「ふーん? じゃーさいじょー、いらなくなったら、ぼくにもらえる? このじゅー、かっこいー」

「それはダメだ。死んでも手放さん、だが、君が護身用の武器が欲しいと言うのならば、後でかっこいいのを見繕う」

「わーい、だから、さいじょーすき」


 ダメ、と言われてしょげたレアだが、サイハテは違う武器をプレゼントしてくれると聞いて、両手を挙げて喜ぶ。


「サイハテサイハテ、私にも」

「君にはSIGがあるだろう……」

「あんたに選んで欲しいのよ」

「……わかったよ」


 小さく息を吐いた彼は、苦笑しながらも了承する。

 銃が欲しい訳ではなく、サイハテからのプレゼントが欲しいのだと理解できたからこその、苦笑だ。

 二人の少女は、思いの外喜んでおり、これは約束を反故する訳にはいかないなと、ぼんやり考える彼の部屋には、和やかな空気が流れている。


「ねぇ、サイハテ」

「うん? どうした?」


 この空気なら、聞き出せると踏んだのだろう。

 陽子が、彼に質問をする。


「そのピストル、大事にしているみたいだけど、なんで?」


 素朴な疑問だった。

 財産などにはあまり拘らないサイハテが、執着していると言ってもいい銃なのだから。


「ああ、これは……M1911は、命の危機を幾度となく救ってくれた銃なんだ」


 喋りながらも手際よく、分解されていた部品を元に戻し、壁に向かって構えて見せるサイハテ。


「どんな状況でも確実に動作して、敵を殺してくれた。強い衝撃力があるから、物を破壊する事もできた。それに、長く使っていたから、手によく馴染んでいる。初めて握ったその日から、コイツは俺の命を救い続けたんだ」


 彼が滑り止めのついたロングトリガーを引くと、リングハンマーが作動し、撃鉄を引っ叩く乾いた音が響く。


「ただ、それだけの話だ。ただの拘り、それ以上の理由はないさ」


 最も信頼するから、カスタムパーツを購入し、改造する。

 最も拘っているからこそ、美しく磨き上げ、金を使う。


「M1911はいいぞ。当たれば敵をひっくり返せる、その分、反動は強いが使い続ければ、その内慣れる。俺はコイツで、五十ヤードピンホールショットを、連射できめられる。握っているだけで、銃口がどこに向いているかを理解できれば、一人前だ」


 そう言ったサイハテは、ホルスターに銃を押し込んで二人の少女をじっと見つめた。


「地下にいるからわからないだろうが、もう夜も更けてきた。君達は、そろそろ寝た方がいい」

「あ、この部屋、時計すらないからわからなかったわ……」

「さいじょー、いまなんじ?」

「夜十一時四十三分だ」


 彼に時間を告げられると、陽子とレアは大分遅くなっている事に焦ったのだろう。話もそこそこに部屋を出ていこうと、就寝の挨拶をしてくる。


「私、もう寝るね。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「ぼくもねる。さいじょー、おやすみ」

「おやすみ」


 返事の為に、二度ほど会釈をしたのを見届け、二人は部屋を出ていった。

 ホルスターに収められた、拳銃を引き抜いて、サイハテはメタルスライドに映る、自分の顔を見つめると、口を開く。


「本当に、いいプレゼントだったぞ。琴音」


 立ち上がって、換気扇のスイッチを入れると、ポケットに隠し持っていたサンクリストバルの吸い口を噛み切り、火を点けた。


「……ああ、奈央が加入してくれて、助かった」


 久しぶりの葉巻を味わいながら、彼は呟く。


「俺って、そんなに物に興味がなさそうに見えるのか……」


 愚痴だった。

どうでもいい与太話。


サイハテが好んで吸っていた葉巻はコイーバのシグロシリーズ

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