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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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二話

 どうやら陽子は寝起きは非常に不機嫌らしく、額に青筋を浮かべている。気の強そうな目元は不機嫌そうに吊り上がり引き攣っているのが見て取れる。

 全裸で顔にパンツ(使用済み)を被る変態に銃を向ける少女、どちらに正義があるかは一目瞭然であった。


「ふむ……」


 サイハテは腕組みをしつつ、自分の顎を摩る。少しばかり生えた無精ひげがちくちくして痛い。後で剃らねばなとどうでもいいことを考える。


「何故全裸で君のパンツを被っているか、か。哲学的な質問だな」

「どこが哲学よ!」


 威嚇射撃がサイハテの真横を通り抜ける、黒い弾頭……どこで手に入れたのか、ゴムスタン弾頭であった、当たっても死にはしないが、実弾より痛いとんでもない弾丸である。


「まず全裸なのを説明しよう、俺は拠点に居る時は基本全裸だ! これは文句を言われる筋合いはない!!」

「ええ、でも遠慮してほしいわ」


(全く、わがままな女だな)


「って、うぉわぁ!?」


 余計な事を考えた途端に、足元に弾丸が命中した。

 跳弾まで計算しつくされたそれは、三度ばかり跳ねてから窓ガラスの嵌っていない窓から飛び出ていったのを目撃する。


(……あれ、この距離、もしかして俺、殺られるんじゃね?)


 正直陽子の才能を舐めていたサイハテであった。今の一瞬で跳弾まで考え尽した撃ち方をサイハテが出来るかと問われると、首を横に振る他ない。

 一応、サイハテは銃器の扱いも達人である。拳銃とて、50メートル先を飛ぶ鳥を撃ち落とす事だって可能であるが、陽子のような事が出来るとは思えなかった。


「で、なんで、私の、パンツを、被って、いるの、かしら?」


 まるで、核ミサイル発射のカウントダウンである。

 フッと微笑むと、呆れたように頭を振っては、答えを口にする事にする。


「そこにパンツがあるからに決まっているじゃないか……!」


 廃屋に四発の発砲音が響くと同時に、男の憐れな悲鳴が近隣に響き渡った。







「全く!!」


 陽子は額と胸を押さえて転げ回るサイハテを見て、呆れ半分、怒り半分でそう言い捨てる。元来真面目な少女であるのか、パンツをさっさと奪い返して食事の準備に入っている。材料を見るに、サイハテはごはん抜きは免れそうである。


「ま、まさか、額と、胸部に二発ずつ撃つとは……普通の変態だったら死んでいたぞ」

「それだけ鍛えてたら、弱装ゴム弾如きで死ぬもんですか!! さっさと着替えないとごはん抜きよ!」


 怒られてしまった。

 流石に、この世界では生物の反射限界より弾丸のがずっと早い為に放たれた弾頭を叩き落すなんて事は出来ない。人類最強と銘打たれていようが、所詮は生物だ。生物を殺す為に特化した弾丸を躱せたら、それはもう生き物じゃない。

 ……放たれる前の銃口を見て、弾丸の軌道を予測して、反らすなら出来るのは内緒にしておこう。高が人類最強、されど人類最強なのだ。伊達に歩兵一個小隊に匹敵する戦力ではない。


「きょーのごはん、なーに?」


 サイハテが怒られて、渋々着替えている背後で、色気より食い気のレアがフライパンを覗き込みながらそんな事を尋ねている。


「トマト缶が多いからトマトリゾットね」

「えー、またー?」

「ごめんね、レア。サイハテの甲斐性がなくて……」

「え、俺のせいなの?」


 着替え終えたサイハテが、突如甲斐性の話題を出されて困惑している。冗談だとは解っているが、年齢的に、恋人からそう言われてもおかしくないのがサイハテだ。


「冗談よ」


 陽子は笑っているが、食料はかなり目減りしてきているし、飲料水だってもう残り少ない。どこかで仕事を探してこなくてはならないなと、サイハテ自身も思っていた事だ。


「ふむ……とりあえず、今日は中心街の方に行ってみようか。折角文明の残り香に出会えたんだ。文明的な生活をすべきだと俺は思う」

「その意見には賛成ね、働かざる者食うべからず、ニート撲滅計画よ」

「にーと、ぼくのじだいだと、いなかった。むしろひとがたりなさすぎて……」

「あー、レアの時代は末期感溢れてるな。流石、終末前だ」

「私の時代だとニート大分減ってたわ。バブルが膨らんでたから」

「……俺の時代は、一杯いたなぁ」


 各々、かつて生きていた時代に思いを馳せる。


「増税に次ぐ増税に、お隣の半島国からのいやがらせ、団塊と老人どもが経済の足を引っ張りまくって自衛隊の規模縮小の上に、中国のベトナム侵攻……いやぁ、半端ない激動の時代だった。下手したら第三次世界大戦勃発してた所だったからな」


 妙に重いのは、やはりサイハテの時代だろうか。多数の人間が幸福を享受していた裏で、戦い続けて死んでいった人間がいたのである。


「私の時代は……日本は平和そのものだったけど、EUが大変だったみたい、生まれる格差から連合が陳腐化して革命の嵐が吹き荒れてたわ。そこに付け込んで経済戦争してたいつもの国がいるんだけどね」


 合衆国さんはいつまでも変わらないのである。


「ぼくのじだいは……てろのあらしで、かっこくのけーざいきぼのてーか、おまけにぱんでみっくがおこって、ちりょーほーをあしなみばらばらでさがしてたら、ほろんじゃった。こっかかんで、ずっとあしひっぱりあって、けんきゅーがまったくすすまなかった」


 一番重いのはレアが経験した終末前であろうか、一部の欲に目が眩んだ人間に邪魔をされて文明は終焉、現在に至ると言う訳である。結局、ピンチ前でも誰が金を儲けるかで争いあって自滅したのが地球人類と言う訳だ、お似合いな最後だろう。


「って、できたわ。それじゃ、配膳したら食べましょうか」


 陽子の合図で、食事を開始する。

 しばらくは食器と食器がぶつかり合う音だけが響いていたが、陽子が思い出したように、


「そう言えば、仕事の当てとかあるの?」


 と聞いてきた。

 先ほどのずれにずれた会話の原点だ。


「ああ、こんな時代だからな。俺の技術を生かす仕事はいくらでもあるだろうしな。諜報員としては俺の知っているテクノロジーが陳腐化しているから使えないだろうが、それでも歩兵としては俺はそこそこ使い物になるからな」


 そこそこ使い物になる=歩兵一個小隊分だ。一人で一個小隊分の戦果を叩きだす事からの発言だろう。


「昨日の夕刻に、民兵らしき奴らが中心街のゲートから出てくるのが見えたからな。何かしらの傭兵会社でもあるのかも知れない」

「へぇ、私もなってみようかしら」

「いいんじゃないか? スナイパーとしてなら、君は無敵だろう」

「ぼくは?」

「君は無理じゃないかな」


 流石にちっこすぎるというものだ。

 その後の予定などを話しながら、一行は食事を進める。大体の方針は中心街での情報収集と傭兵組織らしきものの発見、それらが不可能であったら臨機応変に対応と決まった。

 ならば行動をすべきだろう、時間と食糧は無限ではない。

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