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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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二十一話:深刻な電力不足

「……むう」


 拠点へと合流した奈央達研究員一同は、忙しそうに研究区画で仕事をしていた。

 サイハテも何か手伝おうと進言したのだが、流石は世界の危機に集められた最高峰の頭脳であり、遺伝子強化を受けていて、人の何倍も物覚えが早い彼でも、邪魔になっている。

 故に、彼は研究区画から追い出されて、自室でぼんやりする事以外、やる事がなかった。


「………………むう」


 暇。

 それ以外の単語が当てはまらない時間に、彼は唸る。

 ないならないで、体を休めればいいのだが、日々の訓練はとうに終了して、体力も有り余っている状況にあり、寝ようにも瞼すら閉じれない有様だ。


「……………………このエロ本、前に読んだな」


 唯一の私物と言ってもいい、エロ本コレクションは既に内容まで覚えてしまって、一々開かなくてもタイトルを見れば、全てのページを隅々まで思い浮かべる事ができる。


「この年になって、千摺りこくのもなぁ」


 サイハテは二十歳前後の若い男であり、性欲が溜まると言えば、溜まるのだが、女を買ったりしようと擦る度に、妻の顔が浮かんでしまい、買えないでいる。商売女は商売女で、抱くと楽しいのだが、彼が今求めている物は決定的に違うような気がした。


「琴音……」


 そう声に出すと、どこからか返事されそうな気がするが、そんな事はない。

 自分自身で手にかけて置いて、何を今更と、彼は自嘲する。

 今日、七回目の自嘲だ。見る人間が見れば、精神修行でもやっているふりをしているマゾなのではないかと、疑うだろう。


「…………いかんいかん」


 陽子やレア達は忙しそうにしているし、アルファナンバーズの仲間達は放浪者の街へと、希望入植者を募りに行っている。

 いくら暇だからと言って、部屋でゴロゴロしているのは気が引けた。

 頭を振って立ち上がったサイハテは、陽子が縫ってくれた猫の肉球マークがついた眼帯を着けて、部屋から飛び出す。

 瞬間。

 何かが切り替わる音と共に、暗闇がやってきた。


「……またか」


 だが、彼が焦る事はない。

 最近、レア達が研究施設を稼働させたおかげで、残った発電機では、電力を賄いきれなくなっているだけであり、この暗闇は発電量不足による、ただの停電だった。

 放っておけば、勝手に発電機が動いて、再び灯りが着く事だろう。


「……いや、待てよ。これだっ!」


 発電量は足りていないが、サイハテの脳裏に電流が走った。

 今まで考えてもいなかったが、発電機を確保するのも、大事な仕事となるだろう。

 ここにたどり着いた時、レアから聞いたのだが、拠点の最下層は生産ブロックとなっており、電力を供給するだけで、自動工作機械が詰め込んだ炭素に他の原子を着けて、弾薬や食料を生産してくれるらしい。


 これを再稼働させることや電力を確保するのも、大事な仕事であり、今暇なのはサイハテ位なのだ。

 やるっきゃないと、やる気を取り戻した変態はその足で、陽子が居る執務室へ走っていく。忙しい中申し訳ないが、勝浦の近くにある発電所を復旧させる仕事の許可を貰いにいったのだ。

 執務室を開けると、サイハテに負けず劣らず、暇そうな少女が居た。


 両腕で頬杖を着いて、退屈そうに鉛筆を咥えている。

 彼がキョトンとした目で陽子を見るように、彼女もサイハテをキョトンとしながら見つめていて、口から鉛筆を落とした。

 陽子は彼を見つめると、照れ臭そうに笑う。


「え、えへへ、暇になっちゃった」

「……そうか、君も暇なのか」


 執務机に近づくと、変態の目にある物が飛び込んだ。

 先程まで、猫をイメージさせる美少女中学生が咥えていた、唾液付き鉛筆が転がっており、それを前にしたサイハテのやる事は、最早反射レベルで決まっている。

 鉛筆を拾って、口に運ぶ事だ。


「ちょちょちょ!? ばっちいからぺーしなさい! ぺー!」

「大丈夫だ、美少女は雑菌まで美少女と決まっている。暖かくて、非常に美味だ。俺の人生のフルコースに加えてもいいくらいの味だな」


 彼はどこか幸せそうな雰囲気で、鉛筆を咥えているが、唾液の生産者たる陽子にとっては、洒落にならない一言である。

 何せ、サイハテはやると言ったらやるからだ。


「やめて!? ドリンクでしょ、それ!!」

「違う、スープだ。ドリンクは妻の母乳だぞ」

「ああ! 聞きたくなかった!! と言うか、出たんだ! あんたの奥さん、おっぱい出たんだ!?」

「ああ、俺がおっぱいを吸い過ぎたせいでな」


 少女は頭を抱えて机に突っ伏してしまう。

 どうやら、彼女に変態の世界は異色過ぎたらしい。

 まぁ、まともな成人男性でも、話を聞いていると気が狂いそうになるらしいから、当たり前なのだが。


「グレイスよりはマシだろう。アイツのスープは女装ショタの一番搾りで、ドリンクは男装ロリの脇汗だぞ。本気で殺そうか悩んだ位だ」

「……」


 上には上がいる。

 知りたくない事を知ってしまった陽子だった。

 彼女は気持ちを整理するため、大きく深呼吸をすると、非常にくたびれたような表情で尋ねてくる。


「で、あんたは何をしに来たの? まさか、そんな話をする為じゃないでしょうね?」

「おっと、本題(建前)を忘れるところだった」

「……今あんた、建前って言わなかった?」

「さぁ、聞き間違いじゃないか?」


 サイハテがしらばっくれたので、陽子はそれ以上追及するのをやめた。

 こうなった彼は、頑として口を割らないから、単純に時間の無駄になってしまう。


「最近不足する発電量を、解決する仕事をやりたい」

「……方法は?」

「近場にある発電所を復旧させて、タレットと自動兵器を置く」


 タレットも自動兵器も、レアが暇を見つけてはジャンク品で組み上げたもの達だ。彼らが使われると聞けば、彼女も喜ぶ。


「ふーん、いいんじゃない? 私も行くけど」

「……何? 君が?」


 快諾してくれた陽子だったが、そこには余計な条件がついていた。

 今度困るのはサイハテの番とばかりに、彼女はそんな条件を突き付けてくる。一人でさっさと片づけようと考えていた彼にとって、それはあんまりな提案だ。


「そうよ。あんた忘れてるかも知れないけど、私は感染変異体相手ならそれなりに戦えるんだから」


 陽子の言い分は最もだが、これから向かうのは未知の廃墟であり、居るのが感染変異体だけとは限らない。

 だが、彼女が暇なのは事実だろうし、張り付いてでも着いて来る気なのだろう。


「……ふむ、たまにはいいか」


 新しい拠点は地下にある上に、色気のない鉄筋コンクリートで造られた基地だ。

 たまには息抜きをさせてやらねば、彼女だって息が詰まるだろうし、たまには銃で獲物を撃たせるべきだろう。

 人を殺すのは、人型の感染変異体で慣れさせてからでもいい。


「よし、それなら武器庫に向かって武器を調達しよう。デートとしゃれ込もうじゃないか」

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