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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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UA六万人突破記念:将来の夢

物語が進まない不具合

「ねーねー、さいじょー」


 将棋盤に向かって、難しい顔をしているサイハテに、話しかける少女がいる。

 彼女の名前はレア、最近十一歳になろうかとする程度の、幼気な少女だ。

 そんな幼気な彼女に、絶賛将棋で無双されている二十歳程度の大男は、難しい表情をしたまま、少し気弱な声で返答した。


「……なんだ? もうちょっと手加減してくれるのか?」

「んー、あと、にじゅーななてくらいで、つみだから、むずかしーよ?」

「……じゃあ、もういいか。それで、どうした」


 二十一世紀のスーパーコンピューターが泣いて謝る計算能力を誇るレア相手に、飛車角香車桂馬抜きとは言え、少しだけ善戦出来たサイハテは褒められてもいいかも知れない。

 レア相手に将棋や囲碁で、善戦出来るのは未来予知が出来る陽子位しかいないのだから。


「さいじょーのしょーらいの、ゆめってなーに?」

「将来の夢? そうだな……昔は防衛大学校に通いたかった」


 彼女の問いかけに、戦慄の変態は、至ってまともな返答をする。

 彼は自分でも似合わないと思っているのだろう、少しばかり恥ずかしそうに見えた。


「ぼーえいだい……ああ、むかしの、しかんがっこー?」

「君から見ればそうなるのか。そうだよ、要するに士官学校だ。厳密に言うと、ちょっと違うんだがな」


 日本に軍隊はないので、士官学校もない。なんて理由で防衛大なんて名前だった気がする。


「ふーん? しょうぐんに、なりたかったの?」

「……いいや、任務で自衛隊に関わる事があってな。その時、自衛隊の生活は楽しかったから、入ってみたいと思っていただけだ」


 どこか遠い目をしているサイハテは、少しだけ穏やかな空気を纏っている。普段は穏やかと言うより、虚無な空気を纏っているので、たまにどこに行ったかわからなくなる時があった。


「だったら、へーたいさんでも、よかったんじゃ?」


 レアの疑問は最もだ。

 自衛隊生活を楽しみたいだけなら、一般入隊でも問題なかった。


「俺は結婚していたからな。子供も欲しかったし、それならより安定して、遺族保険も多目にでる士官の方が、都合がよかった」


 社会の歯車になる、と聞くと、大抵の人間は嫌悪感を示す。

 若ければ若い程、その傾向は顕著であり、若さ特有の伸びしろから来る万能感がある為だ。

 だが、それは歯車になる事が決定しているからこそ、嫌がるのであって、歯車ですらない。国から放たれる銃弾のような人間には、とても眩しく映っているのだろう。


「……それを許してくれるような、政府ではなかったがな。まぁ、当時の与党の議員を大分殺していた。殺されるのも、仕方ないさ」


 殺しているんだから、殺されもする。

 人間社会に、一方的な関係はありえない。

 獲物はいつしか狩人に、狩人も、いつしか獲物に成り果てて狩られるのが、人間界の、いや、自然の掟なのだ。


「さいじょー、いちど、しんじゃったんだから、もうゆるされてる。ししゃにむちうつのは、ごみくずのしょぎょー」

「そうか、そう言ってもらえるだけでも、俺達にはありがたいよ」


 そう言って、サイハテは弱々しく笑った。

 どこか寂しそうで、強い諦めを感じさせる笑みに、レアは眉尻を下げる。

 変な空気になってしまったので、彼は場の空気を少しでも明るくしようと、自分から話題を投げかける事にした。


「俺だけ、夢を語るのは少し不公平だろう? 君の夢も教えてくれよ」

「ぼくのゆめ?」


 尋ねられた少女は、少しだけ不思議そうな表情を見せる。

 まるで、サイハテは知っているのではないか、なんて言いだしそうな表情だ。彼の勝手な予測ではあるが、正解だろう。


「ぼくのゆめは、さいじょーのおよめさん。だいにこーほとして、あいじん」


 今度は、サイハテが眉尻を下げた。

 そうなるのが当たり前、なんて表情のレアになんて言おうか。困ってしまったからだ。

 だが、まず聞く事は、この一言だろう。


「愛人なんて言葉、どこで覚えたんだ?」


 大体予想は付くが、一応聞いておく。


「ぐれーすがね。こーするとおとこがよろこぶって、おしえてくれ」

「オーケー、よく理解した。あいつは海に(チン)してやろう、劣化ウランか、鉛か、好きな棺桶を選ばせてやる」

「……しんじゃうんじゃ?」

「これ位で死ねるなら、俺達は伝説なんて呼ばれていない」


 ゴキブリ以上の生き汚さを持つ、アルファナンバーズは、海に沈めた位では死なない。

 確実に殺したいのならば、心臓か脳を破壊すべきであり、間違ってもサイハテがやられたように下半身を吹っ飛ばす程度で留めてはいけない。


「ぼくねー、さいじょーにもののよーにあつかわれて、まいにちなきくらすの。でもそれは、さいじょーのぶきよーな、あいじょーひょーげんって、ぼくしってるから」

「だから、どこでそんな言葉を覚えたんだ……」


 大体予想は付くが、やはり聞いておく。


「にっくがね、おしえてくれたの。さいじょーはきっとこーだって」

「オーケー、よく理解した。あいつは地下五十メートルに埋めておこう。火葬か、土葬か、好きな埋葬方法を選ばせてやる」

「……しんじゃうんじゃ?」

「これ位で死んでくれるなら、俺の胃痛も和らぐな」


 伝説、と呼ばれるだけあって、アルファナンバーズは死なない。

 どんな状況でも生還し、情報を伝達する、無敵の諜報員組織である。


「……ネイト辺りからも、何か吹き込まれているだろう?」


 そして、そんなゴキブリ以上菌類未満の奴等を統括していたのが、西条疾風だ。

 他の奴等が暴れていて、ネイトだけ何もしていないと言う状況はありえないと、経験則で知っている。


「さいじょーは、ぶきよーだけど、じょーがふかいから、はらんじまえば、こっちのもんだっていってた」

「オーケー、よく理解した。アイツには宇宙の旅をプレゼントしよう。土星行きか、木星行きか、好きな方を選ばせてやる」

「……さすがに、しんじゃうんじゃ?」

「大丈夫だ、一週間ほどで帰ってきた」

「ぎゃくに、どーやったらころせるのか、きになってきた」


 それはサイハテも知りたい事だ。

 何はともあれ、レアを誤魔化す事には成功したようで、ほっと胸を撫で下ろす変態と、真面目にアルファナンバーズを葬る方法を考え始めた少女が、娯楽室を占拠していた。


「うーん、いまはかんがえつかない。だから、とりあえずせーしちょーだい?」

「……絶対ダメ」


 誤魔化せていなかったのは、内緒だ。

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