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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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二十話:今日の君は怖い

水曜日更新(今日最後の更新です)

「なんであんたはいつも無茶するのよ!!」


 拠点に帰ったサイハテは、少しばかり申し訳なさそうな表情で、司令部にいる陽子を訪ねた。

 あくまでも、申し訳なさそうなフリなので、見破られたら大きな雷が落ちる事になるのだが、今回ばかりは違い、訪ねるなりいきなり、胸に縋りつかれて、上記の台詞を吐かれたのだ。


「今日も血塗れで!!」


 大柄な彼の胸倉を掴み、がっくんがっくん揺する小柄な少女と言う、珍しい構図だが、ムキムキマッチョの変態は小動もしない。

 だが、サイハテが揺らごうが揺らがなかろうが、彼女にとってどうでもいい事だったらしく、言葉は続けられる。


「小石や砂利が掠めて、血が出ているだけだ。大したことはない」

「そう言う話をしているんじゃないのっ!! なんであんたは自分を大事にできないのかしら!」


 目尻に涙を浮かべながら、陽子は怒鳴った。


「大事にしたって、何が変わる訳でもないからな」

「そう言う話をっ!!」


 不貞腐れるように言い放った彼の頬を、張ろうと手を振り上げたが、その手は優しくサイハテの頬に当てられる。

 目玉がない方の頬だ。


「そうじゃない、そうじゃないのよ。サイハテ」

「………………」


 その後に続くであろう、陽子の言葉を、彼は黙って待ち受ける。


「あんたは、生きて風音さんに会わなくちゃいけないんでしょう? 今度こそ、お父さんするんでしょう? お父さんがボロボロだったら、娘も悲しいに決まっているじゃない」

「……ズタボロでも、父親は出来る」


 サイハテはぶれない。

 だが、陽子の手に自分の手を当てると、静かにこう言った。


「……だが、君の言葉は尊重しよう。もう少し、怪我をしない方向で頑張ってみる」


 二十歳前後の大男が、十代前半の小娘に説教される、珍しい構図だ。

 涙にぬれた、少女の瞳は男を見ているが、それには何が映っているのだろうか。


「私、貴方が傷つくの。嫌」

「………………」


 傷つくのが嫌、と言われても、サイハテには返す言葉がない。

 だから、こんな返答しかできないのだ。


「今更……傷の一つ二つ増えても、誰も気付かないさ。だから、君も見て見ぬふりをすればいい」


 そうした方が、ずっと楽だし、陽子のような年端もいかない子供が、傷を直視して痛みを知る必要はない。その方が、ずっと優しいから。

 だが、それが彼女の逆鱗に触れる。


「……やっぱり全然わかってないじゃないの!! ちょっとそこ座んなさい! 治療しながら説教するわ!! もうわかるまで怒鳴ってやる!!」

「……傷は治りかけているから、治療はいらない。それに、説教は嫌だ」

「そんな泥だらけ血塗れで、感染症にかかったらどうするの! ほら、座れぇ!!」


 顔を怒りで真っ赤に染めて、荒い息を吐く陽子に、彼は眉尻を下げた。


「今日の君は怖い。そして俺は臆病者だ」

「……うん、それで?」


 彼女の眉間に皺がよっている。


「だから、俺は逃げる!」


 あまりにも怖いので、サイハテは逃げ出す事にしたらしい。

 アルファナンバーズのジークは、隠れる事に特化した強化人間である。

 気配を消し、相手の死角に入り、呼吸を潜める技はそりゃもう、世界一であり、人間で彼を発見できる人物はまずいないだろう。

 何せ、本気で隠れると視認すら出来なくなる位の腕なのだから、とんでもない。


 彼をどうしても見つけたいのなら、痕跡を探すべきだ。

 どうやったらこんなに消せるの、と疑問になる位痕跡がないが、流石のサイハテも生物である事は間違いないので、ほんのちょっとは痕跡が残る。

 それを辿っていけば、彼を見つける事ができるのだ。


「こらぁ!! 待ちなさい!!」


 一人でに開くドアを確認したから、サイハテは部屋から出ていったのだろうと、陽子は予想を着けて、自分も部屋から飛びだしていく。

 伝説の男と、ちょっと前まで普通の女子中学生だった少女の追いかけっこが始まった。

 それで驚いたのはサイハテだ。


「マジかよ、降り切れない!?」


 ゴキブリのように、天井をや壁をはい回る変態を、正確に追いかけてくる陽子。

 姿は見えず、音は聞こえず、気配すらもないはずなのに、彼女はどこまでも追いかけてきた。


「……見つけた! そこ!」


 彼女の特技は射撃である。

 神速の早撃ちと、千里眼の狙撃が得意な陽子は、どちらもサイハテを上回っている。そして、人知を超えた変態も、速度リアルな弾丸を避ける事はできない。

 早撃ちで、ゴムスタン弾を命中させられた彼は、殺虫剤を食らったゴキブリのように、天井から落ちてきた。


「ぐぇっ……」


 大地に堕ちたゴキブリは、四肢を何度か動かすと、打ちどころが悪かったらしく、そのまま大人しくなってしまう。

 と言う訳で、大人しくお縄についた訳なのだが、サイハテは一つ腑に落ちない事を聞いてみた。


「……なぁ、なんで俺を見つけられたんだ?」

「コレよ」


 陽子が見せつけてきたのは、スマートフォンを改造した探知機だろうか。

 拠点のマップに赤い点が光っている。


「……成程、縋り付いた時にくっつけたか」

「そう言う事、あんたなら逃げると思ったわ」


 サイハテの襟には、小さな発信機が付けられていた。


「……お説教は、少しばかり手加減してくれるとありがたい」

「その前に傷口を洗浄でしょ? 全くもう」


 最近、勝てなくなってきた。と、変態はぼやくのだ。

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