表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
165/284

十九話:人員確保任務終

水曜日更新(それ以外の曜日に複数更新しないとは言ってない)

 ニックは、ありとあらゆる乗り物のスペシャリストである。

 彼に操縦できない機械は無く、どんな物でも乗れば世界で一番の乗り手になるのだ。

 サイハテも、ニックに幾度となく危機を救われたこともあるし、危機を救ったこともある。普段はノンケ好みの厄介な同性愛者だが、気の置けない家族の一人だった。


「おまたせ! VTOLしかないけど、いいかな?」

「この際ヘリでもなんでもいい」


 滑走路の端に着陸した輸送機の後部ハッチが開き、ニックが姿を現す。

 弾丸の嵐の中を駆け抜けた研究員達は、我先にと輸送機の中へと飛び込んで行き、サイハテは担いでいた負傷者を、彼に渡した。


「一人足を撃たれた。治療道具は詰んであるか?」

「おう、勿論積んであるぜ。VTOL輸送機やヘリは、負傷者を運ぶのも仕事だしな。お前がやるのか?」

「いいや、救助した中に医者が居る。その人に任せる」

「おう、それなら、アレはどうするんだ?」

「アレ?」


 アレ、と、ニックが指したのはサイハテの右斜め後ろ。

 そこには大地を爆走する機関砲付き装甲車が居る。

 なんだか、見覚えのある装甲車だな、と思ったら千葉の街で放棄した、いつぞやの退職金。終末世界で、彼らの命を守り続けた重装甲ジープが、いつの間にか回収されて、改修されていた。


「飛び立とう物なら、一瞬でハチの巣にされるな! どうしよう!」


 ケラケラと笑うニックと、少しだけ悲しそうなサイハテ。


「……俺のジープ」


 あのジープの事は、結構気に入っていたらしく、珍しく落ち込んでいる。


「はっ? あれ、お前の? マジで? なんかめっちゃ装甲板着いてるし、スプレーで落書きされてんじゃん。ダッセ!」

「ぶち殺すぞ、ホモ野郎……それはさておき、対装甲兵器は何かあるか?」

「装甲兵器ねー……ちと待っとれ」


 彼の要望に、ホモ野郎は詰んである武器ケースを漁っている。大した数ではないので、すぐに目的の箱を見つけ出し、サイハテに向かって投げつけた。


「56式高周波刀しかなかったけど、いいかな?」


 ニックの言葉と、箱に書かれた文字を認識して、がっくりと肩を落とす。


「また、装甲目標相手に近接戦闘を挑むのか……俺はサイボーグじゃないんだぞ……」

「でも、それしかないし」

「わかっている。俺が引き付けるから、その隙に飛び立てよ」

「合点承知の助!」

「随分古い言葉だな……頼んだぞ、お調子者」


 箱から刀を引き抜くと、高周波のスイッチを入れる。

 腰だめに構えて、輸送機の後部ハッチから飛び出した。

 とにかく、接近しないといけない為、輸送機から離れて走り続ける。装甲車を中心に、円を描くように走りながら、ゆっくりと距離を詰めるのだ。


『死ぬなよ、ジーク! ハッハー!!』


 機関砲がサイハテに向き、人に撃ってはいけない銃弾を発射し始める。狙いは正確だが、機関砲と装甲車の結合がうまくないようで、銃弾は大きく逸れて、付近に着弾した。

 弾けた土砂が、彼の肌を裂いて血を流させるが、怯むことはない。

 致命傷はボディアーマーが防いでくれるし、隻眼には当たらないように気を付ければいいだけの話だ。

 機関砲の銃身が、輸送機とは真逆の方向に向いた瞬間、サイハテは叫ぶ。


「今だ! 行け、ニック!!」

『おうさ! あの拠点でまた会おうぜ!!』


 飛び立つ輸送機に気が付いたのだろう、砲身を輸送機に向けようと、機関砲が回り始めた。

 その隙をついて、一気に装甲車へと接近する。

 装甲兵器は、足を止めてはいけない。止めたら、今の様に、歩兵が接近して攻撃を仕掛けてくるからだ。

 地面を蹴って跳躍した。


「ふんっ!」


 気合の掛け声と共に、機関砲の機関部らしき部分へと刀を突き入れる。

 確かな手応えは感じたが、砲身内で弾薬が誘爆したのか、刀は甲高い金属音を立てて圧し折れてしまった。

 それでも、輸送機は飛び立って、拠点に向けて移動を開始している。あの速度なら、十秒位で、今の位置から見えなくなるだろう。


「……さーて、俺はどうしようかな?」


 装甲車の内部は、飛び散った破片で大変な事になっているのだろうか、車が動かない事を幸いに、影に隠れたサイハテは、そう呟く。

 周囲は増援の装甲車や歩兵に囲まれている。彼らを救出する際に、ドンパチしたせいで、弾の入っている弾倉は少ない。

 弾倉に弾を詰める事が出来るなら、弾薬自体はまだあるのだが、包囲されている状態で、それはできないだろう。


「つーわけで、派手に爆撃頼むわ。俺に当てないなら、当たらなくてもいい」


 無線機に向かってそう囁くと、返信の声は、随分と綺麗だが底冷えするものだった。


『わかったわ。それと、帰ったら話があるから』

「……おう、色気のある話だと嬉しいね」


 肉眼では点にしか見えない程、高い空を旋回しているドローンから、対地爆弾が投下される。

 残りはたった五発しかなかったのだが、その五発の内一つが、野盗の包囲網に穴を開けたので、サイハテはこれ幸いとそこから脱出した。

 右腕とわき腹に弾丸を受けてしまったが、あまり問題はなく、適当に切開して抉り出し、縫合して治療を済ませた後、のんびりと拠点へと歩いていく。


 その最中に、彼はぼやく。


「帰りたくねぇ……絶対怒られるだろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ