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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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十八話:人員確保任務6

水曜日更新(他の曜日に更新しないとは言ってない)

 物質を持つ物なら、概ね全てが重力に引かれて大地に堕ちる。

 それは鳥であろうと、伝説の男であろうと変わらない。それはどうでもよく、ここで大事なのは、どれだけ重力加速度をつけられるかである。いくら重力に引かれていても、地球には空気と言う、酸素や窒素の混ざった物質が満ちており、物質同士がぶつかり合えば、それだけ速度は落ちるのだ。


 つまりは、あまり物質に触れないようにすればいい。

 体を降りたたみ、天井でも蹴って速度を稼げば、鉄帽をかぶった人間の頭程度ならば、弾けさせられる。

 踏みつぶした、名も知らぬ誰かの脳の感触を、ブーツの裏で味わいながら、サイハテは立ち上がった。顔を顰める事もせず、アサルトライフルを構えて、目につく人間に向かって引き金を引いた。


 悲鳴を上げる事なく、血と肉の混ざった飛沫を上げながら、彼は倒れる。

 訓練で、そう言った感情は抑制できるようになっているから、不快感や罪悪感に囚われる事はない。戦闘中にそんな物を感じるのは、非合理だからだ。


 踏みつぶされた彼の隣に立っていた兵士が、目を丸くする。

 戦闘中に、驚いてはいけない、例え驚いても、兵士であるならば、敵に銃を向けなくてはならない。

 肘の辺りを指に引っ掻け、思い切り引いてバランスを崩してやる。すると、どうしても踏鞴を踏みながら、こちらに倒れ込んでくる訳で、そこで足を払うと、容易く転倒させる事が出来る。


「おっぶぇ!?」


 顔面から倒れた彼は、変な悲鳴を上げて、悶絶してしまう。

 痛そうな落ち方だったから仕方ないとは言え、容易く無力化されるようでは、兵士失格だ。

 彼の頭を小銃で撃ち抜いて、サイハテは眼前で広がる銃撃戦に目をやった。


「手榴弾!!」

「もうねぇよ!!」

「対戦車ロケット!!」

「もうねぇよ!!」

「じゃあどうしろってんだよっ!!」

「俺も知らねぇよ!!」


 仲良く喧嘩しながら、自律兵器に向かって銃撃を加えている姿が目に入る。

 あのバケツ型自律兵器は、形も相まってか、小火器に対する防御はかなり強いらしく、バトルライフルの弾丸もはじき返しながら、元気に暴走していた。


「ハイジョ、ハイジョ」

「ホロベ、ヒューマン」

「オマエ、キノコハ? タケノコハ?」

「キノコガシコウ」

「タケノコニアダナス、オロカナキノコメ。シネ」


 バケツ達も、何故か同士討ちを初めてしまっている。

 サイハテは腕に付けたハッキングツールを見て、これにどんなウイルスが入っているのか、非常に不安になってきた。

 とりあえず、彼らは味方で間違いないのだから、不安を抱えつつも、バリケードを作っている兵士達の側面へ回り込み、銃撃を開始する。


「あぁ!! 田中がやられた!!」

「退け! 退けぇ!!」

「俺まだやられてねーよー!! 待ってーー!!」


 側面からの銃撃で、完全に士気が崩壊したのか、野盗の兵士達は見事な手際で、中央ビルへ撤退していく。

 その背後をバケツ型自律兵器達が追いかけている。


「ニンゲンコロス、タダヒトツノコタエ」

「タナカ、コロス。ショアクノコンゲン、タナカ」

「キノコガシコウ」

「タケノコガシコウ」


 田中への熱い風評被害と、きのこたけのこ戦争が発生しつつも、彼らは自分の仕事を行うようだ。

 半数でもバケツ達を戻せないかと、腕の機械を弄り回すが、どうやら彼らは完全に自由になったらしい。こちらの命令に”fucking Son of a bitch!!”と返答を返してきた。


「……自由に、生きるんだぞ」


 もうこうなってしまえば、後は彼らの行く末を見守るだけしかできない。

 サイハテは去って行ったバケツ達に敬礼をすると、上階で隠れている救助対象達を呼び寄せる。


「後、少しだから、頑張ってくれ。彼らの自由に、背かない為にも」


 そんな台詞を言われても、研究員達は首を傾げるばかりだ。


「ここのビルにいる敵は、全て排除したと思っていい。もう、救助のための輸送機が上空に待機している。滑走路まで急ごうか」


 ここに来て初めての朗報に、救助対象達は沸いた。

 目覚めてから、それなりに長く閉じ込められていたのだろう。あれくれ者達から解放される喜びと、銃撃戦から脱出できる喜びが合わさって、大きな歓声となっている。

 だが、ここで気を抜いて全てがパァは困る、渋い表情のサイハテは、冷たく言い放つ。


「喜ぶなら、輸送機に乗ってからやってくれ。外にはまだ敵が居るんだからな」


 その一言で、彼らは押し黙る。


「静かになったようで何よりだ。それじゃあ、俺に走って付いてこい。輸送機は着陸体制に入って貰った。そこまで走り抜けるぞ」


 しつこいようだが、返事は必要ない。

 それだけ言ったサイハテがさっさと走り出してしまったので、研究者達も、泡を食いながら彼の後を追うしかないのだ。

 ここで取り残されたら、せっかくの自由もパァなのだから。


「……」


 床に落ちているガラスの破片が、背後から追いかけてくる研究者達を映している。

 全員問題なく付いて来ている事に、サイハテはホッと胸を撫で下ろした。


「はやく着陸しろよ、長くは留まってられないぞ」

『分かってるって! もう着陸する! お前も急げよな!』

「ああ、よくわかっている」


 第一ターミナルの一階から滑走路に向かって飛び出すと、百メートル程先に、一機のVTOL輸送機が降りてくるのが見える。

 だが、あちこちから外に出ていたであろう、野盗の部隊が集結し始めている。もう、時間なんてない。


「走れっ!!」


 駆け抜けるしか、手は残っていなかった。

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