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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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十七話:人員確保任務5

 爆撃が収まれば、急いで脱出する他ない。

 未だ、上空には爆撃ドローンが待機している物の、正確な援護は期待できないし、低空を飛んでいる為、歩兵の持つ火器で撃ち落とされる危険性もあるからだ。

 伏せている研究員達に視線を向けたサイハテは、これからの苦労を考えて、少しばかり頭が痛くなる。

 どいつもこいつも、運動不足のインテリと言った具合で、身体能力は低そうだ。研究者と言えど、少しばかり運動位はしてほしい。


「俺が進めと言ったら進め、止まれと言ったら止まれ、伏せろと言ったら伏せろ。いいな?」


 H-DIEの特効薬を開発する為に、ありとあらゆる研究者が集められたと、レアから聞いた事がある。

 ならば、彼らは安全な場所に居たはずであり、こう言った脱走劇や銃撃戦には慣れていないはずだ。故に最低限、これ位ならば出来るだろう。

 と言う希望的観測で、サイハテは行動している。


「ええ、西条君に従うわ。しっかりと守って頂戴」


 いつの間にか合流してきた、奈央は大きく頷いて、彼の言葉をサポートする。一人が賛同すれば、日本人と言うのは不思議な物で、黙って従おうとする習性がある、集団心理とでも呼べばいいのだろうか。


「それが俺の任務だ。心配しなくていい」


 いいサポートだった。

 サイハテは大きく頷いて、肯定の意を伝え、前に進み始める。


「進め」


 とりあえず、中央ビルに敵はいない。

 だが、遮蔽物がなく、集団で居るには狭い通路だ。

 とにかく、中央ビルから出て、遮蔽物も多く、広いターミナルフロアに出るしかないだろう。ここで敵と遭遇したら、せっかく見つけた研究員達に被害が出る。


「西条君、本当に大丈夫? 脱出する手筈を、こっそりお姉さんだけに教えて頂戴」


 集団からこっそり抜け出て、何をしに来たのかと思えば、そんな事を聞きに来たらしい。

 肝が据わっているように見えても、やはり不安なのだろう、薄らと汗を掻いている。


「外に出れば、大型輸送機が迎えにくる。それで逃げる」


 通路を歩きながら、彼は答えた。


「……そう、そこまでどうやって行く気? さっきの轟音は爆撃でしょう?」

「敵を排除しながら、強行突破していく。細工は上等とは言えないが、十分に可能だろう」


 サイハテは自身有り気に、言い放つが、奈央は少々不安そうな面持ちだ。


「大丈夫なの?」

「大丈夫だ」


 等と話している内に、もう、フロアに出る為の扉にたどり着いてしまう。

 美女とのお話は、少々名残惜しいが、これ以上お喋りしている時間はない。彼は奈央に下がるよう、手で支持を下して、多目的媒体を弄る事にする。

 指令は単純だ。

 今まで味方だったIFFを、敵にするだけの単純な指示、それだけで、外から連続した射撃音と、怒号が聞こえてきた。

 担いでいた、アサルトライフルに新たな弾倉を入れ、コッキングレバーを引く。


「俺が外に出たら、合図があるまで、ここで待機していろ!」


 背後に居る彼らにそう怒鳴り、サイハテはドアを蹴破って外へと飛び出してしまう。

 一つしかない眼が忙しなく蠢いて、敵の位置を把握する。目視できる範囲では十三人程で、大した数ではない。

 もう隠れるような真似はしない、出来るだけ派手に戦って、敵の目を引き付けなくてはならないのだから。


「こんにちわ! 死ね!!」


 下の階へ急いでいた兵士達を大声で呼び止めて、弾をお見舞いする。

 走りながら射撃できるサイハテ相手に、徴収された兵士のような練度の兵士では、太刀打ちできない。

 十三人は一つの弾倉(ワンマガジン)で撃ち倒されて、沈黙してしまう。

 彼は目と耳を使って、周囲の状況を探る。階下では、銃撃戦が起きており、上階はそれに対応する為、空にしたようだ。


「敵は二階に集まっているか」


 戦闘音に交じって聞こえてくる足音と叫び声は、かなり多く、抜けるには相応の苦労をしなくてはならない。

 空になった弾倉を交換しつつ、待機しているはずの奴等に声をかける事にした。


「敵はいなくなった、来い!!」


 奈央を先頭に、ワラワラと白衣の集団がフロアに出てくる。

 誰も彼も、初めての銃撃戦に怯えており、銃撃戦の最中を通過させるのは不可能だ。恐らく、恐怖で動けなくなってしまう。


「ここから、階段まで行く。そこまで行ったら遮蔽物に身を隠せ。合図があるまで、階段は降りるな。いいな?」


 返事はないが、聞く必要もない。着いて来なければ、死ぬだけだし、言う事を聞かなければ、死ぬだけだ。

 ここでエリート層を失うのは惜しいが、ぶっちゃけ、レアの助手用に十人程度生き残ってくれれば、サイハテとしてはそれで問題ない。

 生きるには相応の努力をせよ、なんていい言葉だろうかと、彼は内心で笑う。


「西条君、待って」


 階下まで移動しようとしていたサイハテに向かい、奈央が声をかけてくる。


「なんだ、苦情は聞かないぞ」

「違うわ、これ、あげる」


 唐突に差し出されたのは、金属の対衝撃ケースに包まれた注射器だった。

 針の長さから見て、皮下注射専用の注射器だろう。


「……なんだこれ?」


 それを受け取ってみたが、それは何かわからなかった。

 細胞増殖剤か何かだろうか、と考えたが、赤く発光する薬剤は見た事がない。


「バトルドラッグよ。体にすごく悪いけど、それを使えばあなたが認識する時間は、倍に伸びる」

「ありがたく頂いておこう。これはいい物だ」


 要するに、周りがスローモーションになるのだろう。

 そして、身体能力を上げる訳でもなさそうなので、自分が素早く動けないのは留意しなくてはならない。


「では、それぞれ合図があるまで待機しているように」


 階段付近で、救助対象達を隠れさせておく、吹き抜けから見える階下は地獄のような有様だ。

 自動機械の機銃で、人間の血肉が舞い、それでも続々と増援が来ては自動機械に射撃を加えている。

 いい具合の混乱だと、サイハテはほくそ笑み、階段を無視して、階下へと飛び降りた。

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