四十万文字突破記念サイドストーリーズ:レアとお風呂
物語が進まない!!
ですが、これで、目立つお祝いはなくなったかと思います。
変態の西条疾風も、日本人の例に漏れず、風呂好きである。
余裕があれば朝風呂は欠かさないし、風呂に入れる環境があれば、必ず風呂に入る位には好きなようだ。
今日も今日とて、サイハテは長風呂をしている。新拠点のボイラーは、すこぶる好調な上、ここの風呂は三十人程が湯に浸かれる、巨大な湯船なので、彼の長風呂に一役買っている。
「ふぉぉぉ……」
身長百九十センチ、体重百十キロの大男が大きな浴槽で弛緩する様は、圧巻だ。
日常的に行っている、体を維持する為のトレーニングで、固まった筋肉が解れるのは気持ちがいいらしい。下手をすれば、子供の腹回りより太い腕を大きく伸ばし、更に湯船へと身を沈める彼の耳に、浴室の引き戸を開ける音が届いた。
「……レア、俺がまだ入っている」
名を呼ばれた少女は、相変わらず眠そうな目で、サイハテを見ている。
どうやら、彼女が入ってくる前に、外から聞こえる足音で気が付いていたようだ。
「さいじょー、おふろ、ながすぎ」
レアはそう抗議した。
変態の入浴時間は、驚きの一時間三十分だ。確かに、これは長すぎるような気がしないでもない、温泉だと、時間は倍になるのだから。
「そうか、長いか」
抗議されて初めて、サイハテは自身の入浴時間を振り返る。
妻にも長いと言われたような、と彼の脳裏に随分昔になってしまった気がする思い出が蘇り、結局あの時も、琴音が突撃してひどい目にあったと目を伏せた。
あまり思い出に浸っている訳にもいかないので、レアを見る事にする。
北欧系ゲルマン人だけあって、レアの肌は白い。
白いのだが、機械油や煤で汚れているので、なんだかシマウマを想起してしまう。
「汚れを落としてから、湯船に入れよ?」
「……めんどくさーい」
「面倒臭いか……」
子供と言うのは、風呂で遊ぶ存在である。
玩具を浮かべて見たり、これだけ風呂が広ければ泳いでみたりと、ちびっこ達にとって風呂は絶好の遊び場だ。
遊ばないだけ、賢い少女なのだろうが、まだまだ子供だなと思いつつも、サイハテは湯船から上がった。
「よし、こっちに来い。洗ってやる」
彼の好意を、レアはどう捉えたのか、胸を隠して頬にピンクに染める。
「……ぼくの、みじゅくなからだを、たのしもーと?」
「俺をなんだと思っているんだ……」
「へんたい」
ぐうの音も出ない、完璧な論破だ。
褒められて嬉しいのか、それとも何も言えない事を誤魔化したいのか、あるいはその両方か、サイハテは困ったように後頭部を掻いて、目を反らす。
「嫌なら、いいんだ」
声色は普段通りだが、どこか、寂しそうな雰囲気を漂わせたまま、彼は湯船へと戻ろうとしている。
そんな様子を見ていたレアは、サイハテがただ、彼女を構いたいだけだったと気づき、仕方なく、シャワーの前へと腰掛けた。
「いやじゃ、ない。あらって」
湯船に片足を突っ込んだままの体勢で固まった変態が、振り返ってレアを見る。
背中はウェーブのかかった長髪に隠れているが、女性らしくなっていない、小さな尻が見えている。柔らかそうだが、それは子供特有の柔らかさだろう。
「ああ、なら遠慮なく」
彼女の背後に立ち、スポンジを手に取るサイハテ。
石鹸を擦り付けて、泡立てている音だけが浴室に響き、レアはなんだか、とっても恥ずかしい気持ちになっていた。
彼女が思い出すのは、優しい父の事、文化的な違いで、一緒に風呂に入った事はなかったが、赤ん坊の頃はよく洗ってもらったのを覚えている。後ろに居るのは、ほっそりとした父ではなく、筋骨隆々の大男だ。
「さいじょー」
「どうした?」
レアの髪を勝手に結い始めたサイハテに、声をかける。
「おっぱいさわっちゃ、だめよ?」
「……ああ、摘ままないように努力しよう」
「さいじょーは、しつれい、れでぃのきもち、わかってない」
「淑女と名乗るなら、後十年は待とうな」
髪が結い終わったのか、彼の持つスポンジが、少女の柔肌へと当たる。
「く、くすぐったい」
サイハテが優しく洗うので、彼女はむずがるように、身を捩らせる。まだ、肩口を擦っただけなのに、と、彼は苦笑いを浮かべた。
「すぐに済むから、少しだけ我慢してくれ」
「はーい」
変態はなるべく急いで、背面と側面を洗い上げる。
擦る度に、レアはむずがり、身を捩るので、大分時間がかかってしまっている。父親っぽい事をしたいと、考えた事を、サイハテは少しだけ後悔した。
「……終わったぞ」
子供の肌と言うのは、きめ細かく柔らかく、瑞々しいが、非常に脆いものだ。
気を使って洗わないと、傷つけてしまいそうで、恐ろしいかったのもあり、彼は少し疲れた様子で、苦笑している。
だが、少女はそんな事では止まらない。
「おわってない」
浴槽用の、穴が開いた椅子に座ったまま、器用にこちらへ向くレア。
サイハテの目には、凹凸のない、ツルツルな裸体が映っている。
「まえもー」
洗ってもらうのは気持ちが良かったようで、彼女はすっかりその気になっており、非常に不味い状態だ。
流石に、そこを親族でも恋人でもない男に洗わせるのは、大きな問題がある。
レアは人懐っこい部分があり、放浪者の街でも、近所に住んでいる子供好きのおっさんにも懐いていた。女性としての自覚が足りない、ではなく、周囲の男が子供としてしか見なかったので、知らないのだろう。
これ位、大きくなれば、女として見る男が居る事を、レアは知らない。
陽子位の年齢になれば、体付きが女らしくなっている事もあり、肉体に精神面が引っ張られるので自然と自覚が産まれるし、学校や親から、性行為の知識と男の危険性を教わる。
しかし、彼女の年齢では、自覚しろと言う方が無理だ。知識がある分、マシだとは思いたいが、やはり、こんな世の中では危うい。
「……仕方ない」
こんな役割が、自身に回ってくるとは思っても居なかったサイハテは、諦めたようにそう呟いて、レアの体に着いた泡を流す。
「レア、いいか? 親族でも恋人でもない男に、易々と裸を見せるもんじゃない」
「さいじょーと、ぼく、そのうちこいびとに、なる」
「ならない、俺は妻以外に懸想はしない」
説教など、していい生き方をしてきた訳じゃない。
されど、誰かがやらねばならない事なのだ。
「じゃー、せーしだけちょーだい。あとで、こどもうむから」
「もっと駄目!! 大体、君は子供の作り方を知っているのか!?」
「しってる!」
とんでもない発言に、声を荒げてしまったが、どうやら作り方は知っているらしい。
「じょせーから、らんしをてきしゅつ、だんせーからさいしゅした、せーしをちゅーにゅー! ばいよーきで、ばいよーして、あるてーどおーきくなったら、とりだす」
「……間違ってはいないな。正解でもないが」
なんというか、近未来的な出産方法である。
いつ間にやら、子供を作ると言う行為は、工業製品と似たような行為に成り果てていたらしい。
子供のライン工場とか、なんとも冒涜的な工場が思い浮かんでしまい、サイハテは頭を振って想像を掻き消す。
「後で一緒にお勉強だな……とりあえず、湯で温まろうか……」
「んー? おべんきょーはうれしーけど、まえ、あらってくれないの?」
「もういい、洗うよ。おう、洗うとも、髪の毛も洗ってやる。もう隅々まで俺が洗うよ。うん、後で後悔しても知らないからな」
「?」
小首を傾げている、いつも眠そうなふわふわ幼女は、風呂から出て、彼と一緒にお勉強した後、羞恥に濡れる羽目になった。
こう、女性器を開いて、垢を指で落とすまで書こうと思ったけど、流石に不味いのでやめた。
あかんので。