年末なのでサイドストーリーズ:陽子の友達
本編じゃないんだ。
申し訳ないね。
一つの街に長く留まれば、それだけ友達が出来ると言う物で、陽子とて例外ではなく、サイハテの情報源でもある、スラム街の娼婦リリラと友人になっていた。
お互い、十三歳だと言う事もあって、気の置けない友達になっているようだ。
そして、思春期の女の子が二人揃えば、話題なんて決まったものである。
「はー、陽子ちゃんはいいよねー。西条さんみたいな素敵な人の情婦で」
お茶を飲みながら、疲れ切ったOLのような気怠さで、リリラは言った。
クッキーを齧っていた陽子の口が、止まる。
何か恐ろしい物を見るような目で、彼女を見つめ、少女は急いでクッキーを飲み込んだ。
「え、私って、そんな目で見られているの?」
陽子にとって、リリラの言った事は初耳どころか、寝耳に水である。
「えー、違うの? いつも一緒にいるしー、一緒のおうちに住んでて、西条さん、ここに来てから女を抱いてないから、陽子ちゃんが相手しているのかと思ってたけど……」
彼女にとって、男と言う生き物は、女を抱く事が大好きだと印象付けられているようだ。
強ち間違ってはいないが、正解と言う訳でもない。
「し、してるわけないじゃないっ! 確かにあいつは変態だけど!? 私が相手する理由もないし!?」
「男と女ってだけで十分な理由だと思うけどなー」
リリラの反応は年頃の少女と思えない位ドライな反応である。
「それだけで……そう言う事はしたくないの!」
「ふーん?」
顔を赤くして否定する陽子を、彼女はじっと見つけると、こう結論付けた。
「陽子ちゃん、まだ未通かぁ」
「だだだだだ、誰が処女って証拠よ!?」
「処女じゃないの?」
「……処女だけど」
少女は返答すると、顔を赤く染めて俯いてしまう。
「……ふーん、西条さん、まだ抱いてないんだぁ」
対するリリラの方は、何かを考えるかのように顔を背けている。
しばし、二人共沈黙を要した。
陽子は気持ちを落ち着かせる時間を、リリラは思案の為に時間を使い、お互いが黙ってお茶を啜るだけの時間が過ぎる。
「ねぇねぇ、陽子ちゃん」
「……何?」
先に口を開いたのは、結論を出す方が早かった彼女だ。
「西条さんを狙ってる娼婦って、結構多いのよ」
「……は? アイツ、そんなにモテるの!?」
先程の羞恥はどこに行ったのやら、陽子は本日二度目の驚愕を味わっている。
「モテるよー。清潔だし、マメだし、ユーモアがあって優しくて、お金も持ってる上に顔はいいし、強くてスラムなら誰にでも顔が利いて、中心街のお偉いさんにも一目置かれてる……逆にモテないと思う?」
役満とはこの事か。
「……それもそうよね」
確かに、サイハテは身なりも清潔で、女性への気遣いは忘れず、斜め上のユーモアは万歳であり、お金は持っていて顔は悪くない上に、顔が広い。
が、女性の裸体より下着に興奮し、部屋着は何故かバニーガールな上、趣味である早朝の全裸ラジオ体操と、日課の生足ウォッチングを欠かしていない事は、決して忘れてはいけない。
「陽子ちゃん、姉さんたちに可愛がられてるから、今まで手を出されることはなかったけど、これがバレたらちょっとまずいかなぁ」
そう言って、困ったように頬を掻くリリラだったが、素直になれなかった陽子は思っても居ない事を言ってしまう。
「……別にサイハテが誰と恋愛しようが、私には関係ないもん」
「そうじゃなくて、スラムに血の雨が降るよ?」
「血の雨が降るの!?」
血の雨とは随分と穏やかでない表現だ。
「比喩でもなんでもないからね。姉さんが熱を上げ始めたら、多分、入れ込んでる男が西条さんを狙うから……」
「そっか……殺し合いになるかも知れないのね?」
「ううん、男が減ると、あたしらおまんま食い上げちゃうから」
「そっち!?」
陽子は驚愕して見せたが、事実、スラムで燻っている程度の男達が束になっても、サイハテに敵う道理等なく、もし戦いになればスラムの男達は彼に殺されてしまい、男達から稼いでいる娼婦達の収入は途絶えるか、大きく目減りしてしまう。
「だからね、陽子ちゃん。なんとかして、西条さんの童貞をゲットして……」
「……リリラちゃん、サイハテ、童貞じゃないわよ。昔、奥さんが居たって言ってた」
「……いくらアピールしても抱いてくれないから、童貞かと思ってたーあはは」
「あんたも狙ってた訳ね……」
スラムで、サイハテ童貞説が浮上していた。
「まぁまぁ、それよりさ。娼婦の手管を覚えてみない? こう、お酒でも飲ませた後、すっと近寄ってちらりと胸元をシャツの隙間から見せてみるとか」
「……試してみてどうだった?」
「やんわりと受け流された……」
しょんぼりと落ち込むリリラと、苦笑いの陽子。
今日のお茶会はなんだか微妙な雰囲気になってしまった。
それでは皆様、よいお年を。
全然大晦日に関係ない話だったね!!