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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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一話

 午前五時ぴったり、起床ラッパが鳴る頃にサイハテは目を覚ます。

 目を開けると、木造建築の汚い天井と、そこから吊り下げられたカンテラが揺れているのが見えた。物音をたてないように身を起こすと薄汚れたシーツが床に落ち、乾いた音を立てる。

 周囲を見渡すと、これまた汚い内壁と自分のと合わせて、汚れた寝台が三つ……それで、はてさて、ここはどこであったかと思慮をめぐらす。


「……ああ、ワンダラータウン。だったか」


 キロピードとの出会いから四日後に辿り着いた人の町、そこにある廃屋の一つに、サイハテ達は寝ていたのだ。

 ワンダラータウンの構造は愉快だ、まず外側を貧民街と言う形で貧しい者達が勝手に住み着いた廃屋が広がり、徐々に内部へと入っていくと、川が見える。ワンダラータウンの中心街は川の巨大な中洲に建てられた、町なのだ。

 外側の貧民街にルールはない、住むなら無論、中心街の方にしたかったのだが……悲しい事に、サイハテ達には先立つものがなかった。


(町へと辿り着いたのが昨日の夕方で……こう言った廃屋しか宿がなかったからな。住めば都と言うが、流石に、貧民に十回も襲撃される都はないわな)


 貧民を殺す度に、廃屋の庭にある枯れ木に吊り下げていたらクリスマスツリーのようになってしまったし、毎夜毎夜この調子だと碌に休めないからだ。

 それにはまず仕事だろうなと、サイハテは密封容器から水をマグカップに注ぐのだ。


「……ん~」


 陽子が妙に艶めかしく寝返りを打っているのを尻目に、サイハテは壁に立てかけた銃器と、夜間に酷使したナイフと高周波ブレードの調子を見るのだ。

 銃器は元々バンデッドが持っていたポンコツをサイハテが使えるように整備した物だからか、調子は芳しくない。ナイフと高周波ブレードは物が物故に、酷使しても好調と言えるだろう。


「さいじょー?」


 刃を油を含ませた布で磨いていると、その微弱な臭いに反応したのか、レアが目を覚ましてくる。


「すまん、起こしてしまったな」


 サイハテの謝罪に、レアは首を左右に振って返事を返す。


「はやねはやおきは、だいじ」

「……そうか」


 どことなく変わった雰囲気を持つレアに、サイハテは深く入り込めないで居る。

 刃を磨くサイハテとそれを見つめるレアだけの、無言で奇妙な空間が広がっている。その空気に耐えられなかったのか、それとも気まぐれか、レアが唐突に口を開いた。


「さいじょーは、これからどうしたい?」


 どうするではなく、どうしたいと尋ねてきたのだ。随分と聞いて欲しくない事を聞いてくれるなとサイハテは内心思い、返答する為にしばし思慮を巡らす。


(やりたい事なんて、まだわからないんだよな)


 どう見たって、何かをしたいようにして生きれる世の中ではないとサイハテは思っている。そしてそれは事実だろうし、サイハテ自身にもこれと言って何かをしたい事はまだなかった。


「……君は? 君は何がしたいんだ?」


 これは暗にやりたいことなどないと言っているのと同義であった。


「ぼくは、かつてのぎじゅつをよみがえらせたい。じんるいがいきるためには、かがくはひっす、みちよ、ちのはてまでがぼくのしんじょー」


 かつての技術と来たものだ。

 あんな怪物同士の決戦を見た後で、再び人類を地球上の支配者として君臨させたいとレアは申しているのだ。目からレーザーを発射してミサイルを迎撃した巨大毛蟹(ビクラヴ)と背中にVLSらしきものを積んでいる巨大百足(キロピード)を見ても、人類が再び栄華を極めると思える辺り、愚かなのか、大物なのか、サイハテには判断がつかない。


「そうか、素晴らしい事なんじゃないか?」


(出来るかどうかは、別にして)


 到底出来るとは思えない、サイハテは知っている。人類は決して味方ではないと。明日のパン一斤、目先の硬貨(ニッケル)一枚の為に、容易く友人親族親しき者全てを裏切る事が出来るのを、サイハテは知っているのだ。

 協力は残念ながらする気も起きない、やりたい事がないからと言って、命を賭けるのはお門違いだ。


「……おてつだい、だめ?」

「夢は自分で叶えるものだろう」


 優しく、突き放す。少なくとも、やる気にさせてくれなきゃ考えるにも値しないのである。

 するとレアは腕を組むと何かを思案し始める。どうやら、こちらをやる気にさせる言葉でも練っているのだろうかとサイハテは少し楽しみにしていた。


「ぼくはあなたがほしいものをしってる」


 叩きだされた言葉は、サイハテの興味を引くに十二分な内容であった。片眉を跳ね上げたサイハテに対してレアはほにゃりと笑って魅せる。


「……少しだけ気が向いてきたよ」


 自分でもわからないものを知っていると豪語したレアに対して、サイハテはそうとだけ返答しておく、もしかしたらただの見せ札(ブラフ)かも知れない。しかし、そうじゃないかも知れない、なるほど、その気にさせるには十二分な切り札(ジョーカー)であった。


「おてつだい、きたいしている」


 何がどうなっても巻き込まれそうな不安を感じながら、サイハテは適当に返事をする。そして陽子がのっそりとベッドから這い出してきて、寝ぼけ眼でサイハテの姿を見つめるのだ。


「おう、おはようさん」


 片手を上げて軽く挨拶、しかし陽子は目を擦ると枕元に置いてあった拳銃をこちらに向けるのだ。


「まず、全裸であることと、私のパンツ被ってる事を説明してちょうだい」

被っているパンツは赤と白のストライプ

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