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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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ブックマーク700件突破記念サイドストーリー:終末のブラジャー

毎週水曜日更新(他の日に更新しないとは言ってない)

 放浪者の街に着いて、すぐの事だ。

 南雲陽子は困惑していた。

 人間は生物であり、病気になる事も多い存在だが、病気はあらゆる手段で予防することができる。例えば食事に拘ったり、定期的な運動を行ったり、家から雑菌の住処を除去したりすることを予防と言う。

 その数ある手段の中でも最重要と呼べる清潔が、無くなろうとしていた。


「下着が足りない……どうしよう」


 廃墟と化した千葉市では、食料品や銃弾等の収集を優先した為、清潔を保つ為に、洗濯して着回すはずの衣服が決定的に不足している。

 特に下着類は壊滅的、と言うより、全滅だった。


「んー……」


 彼女は、さして膨らんでいない少女らしい胸へと視線を送り、眉尻を下げる。

 なんとかショーツは確保したが、ブラジャーがなかったのだ、ノーブラなのだ。

 女性のブラジャーと言うのは、必要不可欠だから出来た歴史があり、その源流は古代ローマまで遡る事が出来る程、麗しき女性群にとって必要な物だった。

 陽子は、ちらりとレアを見てみる。


「んあ?」


 おやつを齧っている彼女の胸は、平坦だ。

 しかし、よく見てみると、Tシャツを僅かばかり押し上げる程度には発達している物の、今すぐに必要とは思えない。

 となると、このメンツで必要な人物は陽子だけになる。


「…………………………」


 彼女は悩む。

 余談ではあるが、ブラジャーと言うのはかわいいからつけるものではない。

 胸を支える靭帯を保護する為、綺麗な形を維持する為に、そして何より大きく膨らむには必要不可欠な存在なのである。

 そして、その為にも体にあったブラジャーと言うのは大事なのだ。


「……仕方ない、かな。ねぇ、サイハテ!」


 背に腹は代えられない、陽子は部屋の隅で荷物整理をしている彼を呼び出すことにする。

 変態だから、相談したくはなかったのだろうが、相談しなくてはどうしようもないから、渋々と相談する事にしたようだ。


「何か用か?」


 チョコレートバーを手の中で回しながら、返答するサイハテを見て、少女は渋い面を見せる。

 彼女の胸中にあるのは、この変態に相談して我が身が無事であるかどうかだろう。


「あのね、真面目に聞いて欲しいんだけど」

「ああ、聞こう」


 何の保証にもならない返事に、更に渋くなる陽子の表情。


「……ぶ、ぶら……」

「ぶら? ブラウザ?」

「………………ブラジャーが、欲しいの」


 勇気を振り絞って要求を伝えた彼女を見た変態は、腕を組むと天井を見上げ、何かを考え始める。

 三十秒程だろうか、奇妙な緊迫感が溢れる沈黙が流れ、視線を陽子へと向けたサイハテが口を開いた。


「もしかして、ブラジャーがないのか?」


 元々赤かかった彼女の顔が、燃え上がるように赤く染まる。


「……そう、そうよ。ないの」

「成程な。それは由々しき事態だ」


 そう言った彼の表情は、さして深刻そうでもない。

 サイハテの態度が、殊更陽子に羞恥の感情を抱かせる。


「ブラジャーな、そうだな……」


 彼なりに気を使っているのだろう、顔を背けて再び何かを考えはじめる。

 また少しの沈黙を要し、再び口を開くと、とある提案を出してきた。


「俺が作ろう」

「……は? あんた、もしかして私の裸が見たいだけじゃないの?」

「見たいが、別に見なくても作れる。一度、揉んだからサイズは把握している」

「勝手にするな!」


 とんでもない技能をアピールされたが、それよりサイズを把握された怒りが勝ったようだ。


「79センチ、54センチ、81センチだろ? 君のスリーサイズは。ついでに身長体重アンダーも当ててやろうか?」

「やめて、本当にやめて……」


 身体測定で図ったサイズとぴったりだった事に、陽子は驚愕し、流石に体重を公表されるのは応えるらしく、制止する。


「でだ、作るにはそれなりの材料が必要になる。とりあえず最低でもポリウレタンと、綿が欲しい。それがあれば、製作は可能だ。付け心地もそれなりの物が」

「……うん」


 恥ずかしがった後、怒ったと思えば今度は意気消沈している。

 眉尻をすっかり下げた陽子は、上目遣いでサイハテを見つめていた。


「君に布の判別は難しいだろうから、一緒に探しに行こう。序に、日用品も得るといい」

「…………うん」


 最早作る事になってしまっているが、彼の頭の中には、廃墟と化した衣料品店を漁ると言う選択肢はないのであろうか。

 無論、陽子とて作った方が確実に手に入ると言うのは解るのだが、知り合いが作った下着をつけるのは、流石に嫌らしい。


「街へ来るまでに見かけた、ホームセンターの遺跡があったな……そこに行こう」

「………………うん、わかった。私は何をすればいい?」

「一度下ろした荷物を再び積み込む、それを手伝ってほしい。ここに置いとくと盗まれるからな」


 いくら嫌悪感を抱いても、物がない世界なのだから仕方ないと腹をくくったらしい陽子は、随分と乗り気になっている。

 サイハテが整理する為に開いた段ボール箱に、散らばった物を詰め込み直して、車へと運んでいく。

 そんな彼女の事を、レアがおやつを食べながら見つめていた。


「さいじょー、さいじょー」


 荷物の詰め込みを陽子に任せ、銃器の点検をしている彼の袖を、少女が引く。


「どうした?」

「ぼくも、こーぐ、ひろっていー?」

「ああ、いいぞ」

「わーい」


 レアの事は、サイハテもよくわからない。

 それでも、断りを入れるのだから、協調性を重視してくれる事は間違いないようだ。

 何はともあれ、今は陽子の下着を得なくてはならない、ホームセンターならば、望むだけの素材はあるだろう。

真面目な話ばかり書いているとですね。

どうしても、ヒロインを弄り回したくなります。


次、弄り回されるのはレアかも知れません。

じぽ事案。

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