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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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四十万PV記念:サイハテがお引っ越しするようですパート4

お詫びも兼ねて、お引っ越しシリーズです。

 吸血鬼達を殲滅し、彼らの王である姫を打ち取ったサイハテは、港に構えたキャンプで荷物の整理をしていた。

 絆の芽生えたクルー達に、去るのを惜しまれつつも、自分には仕事があり、彼らと生きる場所は違うんだと言い聞かせて、後ろ髪をひかれる思いで、片づけをしている。


「ハヤテ!」


 そんな中、小屋の扉が勢いよく開けられて、琴音が飛び込んできた。

 走り寄ってくる彼女を、勢いのまま抱き止めて、図らずも抱き合う形となってしまう。

 サイハテの背に回された手は、人殺しが出来るとは思えない程、華奢だ。


「……会いたかった」


 言葉を待っている琴音に、そう声をかける。

 心からの本心に、腕の中に居る彼女は少しばかりむずがったが、抵抗はなく、そのまま受け入れられた。しばらく抱き合った後、自然と二人で離れて、彼女は儚く微笑んで、こう言った。


「はじめよっか」


 サイハテの目の前には見覚えのある箱が二つある。

 いるもの、いらないものと書かれた忌まわしい段ボール箱だ。

 最早この展開にも慣れつつあるが、やはり白目をむきながら、彼はポケットに入っているスマートフォンを突き出す。


「これはいるか?」

「これは……まぁ、持ってても問題はないかな?」

「おお、そうか。これで、少しは寂しさを紛らわせる」


 スマートフォン、初のいるものボックス入りである。

 白目を元に戻したサイハテは、少しばかり心の均衡を取り戻して、次なる物品を探し始めた。

 続いて取り出したのは、ここでも大活躍した45口径拳銃だ。


「これはいるか? こいつのストッピングパワーは吸血鬼相手にも有効だった。持っていけばどんな相手にでも、立ち向かえるだろう」

「これはいらないかなぁ。銃が通用とは思えないし」


 相棒の45口径拳銃(M1911)は、哀れにもいらないものボックスへと消えていった。


「待て待て、銃が通用しないって……俺は何を相手に戦うんだ? その前に、どこへ行くんだ?」

「はい、これ」


 疑問に対しての返答は、物品だ。

 渡されたのは、世界で一番売れているファンタジー小説、聖書と呼ばれる分厚い本だった。


「……聖書? ははぁん、わかったぞ。聖人ゆかりの聖遺物を見つけて来いって言うんだな?」

「全然違うよ。ほら、次」


 予想は一言でぶった切られてしまう。

 だったらどこに行くんだ。なんて疑問を思いながらも、違う物を探して、彼女に見せる。


「じゃあ、これはどうだ? この島で見つけた40年物のワインなんだが、君と一緒に飲もうかと……」

「それは命にかかわるから絶対に持って行って」

「ワインが命にかかわんの!?」

「……多分ね」


 そう言って琴音は照れ臭そうに笑った。

 胸が締め付けられるような感覚がして、思わず胸を押さえてしまったが、余程惚れているのだと、再確認されるだけだ。


「そろそろ、教えてくれないか? 俺は何をすればいい」


 だが、そんな時間もすぐに過ぎ去ってしまう。

 あまりのんびりしていると、裏切りだと判断した日本政府から、仲間が追手として差し向けられるだろう。

 サイハテは決めていた、死ぬのならば、琴音を巻き込まずにたった一人で死ぬべきだと。


「……だからさ、聖書に書いてあるってば」

「聖書に書いてあると、言われても……泣いているのか?」


 聖書を捲っていたら、彼女の嗚咽が聞こえてきた。

 この任務はそんなに危険なものなのだろうか。


「知恵の実でも探してこいって話か?」

「……違うよぉ」


 彼女の瞳から溢れる涙の量は、増え続けている。


「……この任務、もしかしたら帰れないかも知れないのか?」


 尋ねたくはなかったが、それでも聞かなくてはならない。

 一晩位の時間はある、早く準備を終えて、彼女と過ごす時間を多く取りたかったが、ここに来て事情が変わってしまう。

 これが最後の時間になるかも知れないのだから。


「うん……もう二度と、会えないって思ってる」


 それ程までに危険で困難な任務なのだろう。

 不可能のない男と呼ばれる西条疾風でも、達成不可能な任務、それは一体なんなのだろうか。


「教えてくれ、俺は絶対に生きて君の元へと戻る。何年かかっても、絶対に帰ってくるから……」


 それが殺し文句にでもなったのだろう。

 琴音はサイハテの手から聖書を取り上げると、ページをめくってある項を突き付ける。

 そこは、知恵の実を食べて、アダムとイヴが妙に心の狭い全知全能から追い出される場面だった。


「……俺は、知恵の実を探しにいくのか?」


 なるほど、それは困難だと思った。

 だが、琴音は首を左右に振って、違うと言う。


「ハヤテは、楽園を探しに行くんだよ」


 ハンマーで頭をぶん殴られたかと思った。


「楽園!? 楽園ってこの楽園!? 俺に死ねってか!?」

「違うよぉ!! 死んでも天国行けないでしょぉ!? わたしと一緒に地獄でしょぉ!?」


 それもそうだったと思うが、そんなことは関係ない。


「ない物は探せない、アルファ本部に問い合わせてくれ。そんな物は存在しないと」

「何度も問い合わせたよぉ!! それでも、バチカンに借りを作りたいの一点張りで……」


 キリスト教徒でない人間が、楽園を発見する。

 もし実現したのならば、バチカンに対するとんでもない脅しとなるだろう。

 恐らく、彼らに二つ返事で言う事を聞かせられるくらいの、大きな借りになる。


「……クソッタレ」


 サイハテは思わず、悪態を吐いてしまった。

 要するに、見つからなくても問題はないのだ。

 目前まで中華共産党の脅威が迫っているこの時に、サイハテのような潜入が得意なメンバーが抜ける事は、アルファの苦戦を示している。

 それでもやらなくてはならない、琴音が危険だからだ。


「……神が追放したのは、自らの子の人間だ。同じ人間の俺が見つけられるとは思えない。だが、やるしかない」


 任務は断れない。

 断れば、妻が殺されてしまうだろう。

 だから行かなくてはいけない、かつての英雄や聖人達が探し求めても、見つからなかった楽園を探しに、前情報もなく、孤立無援で、たった一人で行くしかない。


「俺は行く、それで、絶対に帰ってくる。帰ってやる!」


 そう声を張り上げると、涙に臥せっていた彼女が顔を上げた。


「だから……待っててくれ。必ず、戻ってくるから」

「……うん、信じてる」


 涙の跡が残る顔で、サイハテの好きな笑みを見せた琴音に、思い切りキスをする。

 これからは大人の時間だ、しばらく会えないのだから、今夜は最も激しく彼女の体と心を求めるだろうと、予感していた。





 どうでもいい余談だが、サイハテは二日で楽園を見つけて、門を守るケルビム達と友達になって帰ってきた。

尚、回る炎の剣もお土産として貰ってきた模様。


これで聖〇戦争に参加できるね!

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