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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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十五話:人員確保任務3

 バケツ型自律兵器から引き出せた情報は、二階の見取り図と、いくつかの映像位だった。

 圧縮ファイルに入った映像を、この場で確認するのは骨が折れそうなので、情報を引き出す為の解析は本部に任せる事にする。

 無効化されたバケツ達は、プログラミングされた通りの巡回を行っており、サイハテの事を気に止めやしない。


「これより三階に向かう、解析データは俺の端末に送っておいてくれ」

『うん、頑張りなさいよ』

「出来る事を出来るだけ、だ」


 三階に上がると、いくつかの警備兵が周囲を巡回している程度だった。

 いくつかの免税店があるだけの、ただ広いだけのフロアであり、見通しはそこそこ悪い。屈み、息を潜めれば、そこらの一般人でも抜けれる可能性があるだろう。

 故に、サイハテにとっては楽な仕事だった。

 こそこそと這いずっている時に、休憩中の警備兵が噂話をしているのを、立ち聞きする。


「なあ、お前知ってるか?」

「あん? なんだよ」


 煙草を咥えた男が、面倒臭そうに返事をした。


「地下で作ってるアレ、西の連中から依頼されたんだと」

「西? 西ってーと……あー、あの魔女の軍隊か」


 やはり、サバトと繋がりがあったようだ。

 それにしても、野盗程度の武装勢力に巨大兵器の政策を依頼するとは、ありえない事だろう。


「あれだろ、とっ捕まえた奴等に作らせてる奴、あんな馬鹿デカいの何に使うんだ?」

「あー、あれな。ほら、東の方に工業地帯があるだろ?」

「海沿いのか?」

「それそれ、それをぶっ潰すのに使うんだとさ。好きに奪っていいし、犯していい。デカくてうまい仕事だ」


 とっ捕まえた奴等、と言うのはレアの研究員達だろうか。

 もう少しばかり話を聞きたいが、ここのレーダーがドローンを補足するまで時間がない。捕らえられた人員の居場所は、足で稼ぐ事にした。


「女かー……捕まえた奴等の中に、もうちっと若いのが居れば好みだったんだがなぁ」

「それなら、医務室の女はどうだ? あれなら若いし、綺麗な女だろう」

「いやなぁ、手を出そうとしたら、ちんこ食い千切られそうになってなぁ……」

「お前……」


 去り際に、医務室の女と言う情報を得た。

 若くて綺麗な女、と言う部分に心を惹かれたが、今は仕事で来ている事を思い出し、サイハテは自重する事に決める。

 腕の端末を見ると、そこにはレアが解析した情報が送られており、ここの見取り図や巡回路等のデータは既に解析済みだったらしい。


 恐らく、映像や音声のデータはまだ時間がかかるので、先に送ってくれたのだろう。

 これで、医務室の場所がわかるようになった、彼はゆっくりと中央ビルにある医務室へと歩を進める事にした。


「……」


 中央ビルのパスコード式キーロックは、故障している。

 ドアノブに手を伸ばし、捻ると、錆びた扉が乾いた音を立てて開く。

 医務室に囚われている女性と言うのは、どんな女性なのだろうか、美人と聞いているので、少しばかり胸が膨らむが、遊びに来ている訳ではないのを思い出し、彼は減音機付き拳銃を構えて、ゆっくりと歩を進める。


 しばらく進んでも、少しの警備兵としか擦れ違わない。

 大した秘密のある施設じゃないからか、それとも、殆どの警備を外郭へと費やしてしまったのか、恐らく後者な理由を感じつつ、サイハテは医務室へとたどり着いた。


 医務室の扉は閉まっているが、扉についたガラス窓から中の様子を伺う事が出来る。

 三つ程並べられたベッドの前で、銃を構えたまま微動だにしない兵士と、デスクに座って、サイハテに背を向けている茶髪の女性、彼女を見張るかのように配置された二人の兵士が居た。

 合わせて三人だ、監視カメラらしきものも、盗聴器を仕掛けるスペースもない。


 大した数ではないだが、彼らの練度は他の連中より高いように見える。

 どっしりと構えて、全ての死角に対応できるように、自身の立ち位置を調整していた。

 銃は、噂の女医へと向いており、侵入者が来ても、彼女を撃ち、女医が逃げても、彼女をすぐさま撃てるだろう体制だ。


 無茶は出来ないと判断したサイハテは、引き戸の取っ手に紐をゆるく結びつけると、しばし距離を取った。

 策と言うのは、弄する為にある。

 少しばかり、遊んでやるつもりだ。


 紐を引くと、ゆるやかに扉が開き始める。

 少しレールが錆びているのだろう、金属を引っ搔くような音を立てている為、こっそりと侵入するには、別のルートが必要だった。

 だが、爆撃まであまり時間がないので、時間がかからないように、考えたのだ。


「……おい」


 女医を見張っていた一人が、ベッドの前に立っていた男に声をかける。


「わかってる」


 ベッドの前の男は、小さく返事をすると、アサルトライフルを構えながら、開いた扉へと歩んでいき廊下へと銃を突き出した。

 そのまま左右をクリアリングし、誰もいない事を確認するとため息を吐きながら肩を竦める。


「誰もいない」


 背後の彼らに向かって振り返り、そう言い放った時である。天井に張り付いていたサイハテが彼の背後に落ちて来て、兵士を盾にするため、首に手を回して拳銃を引き抜いた。

 僅か一瞬の隙、緊張から解かれた時に生まれる安堵を狙ったサイハテの作戦は、成功を収めたと言ってもいい。

 彼等が慌てて銃を構えようとした瞬間、二人の眉間を正確に撃ち抜いてみせた。

 残るは、腕の中でもがく男一人だ。


「……お、お前! どこに!?」


 喉が圧迫されており、大声を出そうとしても声が出ない。

 そんな彼をみたサイハテは、耳元に唇を寄せると。


「シー……」


 静かにするように促した。


「ま、待て、取引をしよう……俺が知っている事なら」

「遠慮しよう」


 だが、喋ってしまったので、サイハテは兵士の首を圧し折った。

 元々、生かすつもりもなかったが、後数分の命を数秒まで縮めなくてもいいではないかと、下らない事も考えてしまう。

 拳銃をホルスターに戻し、人が三人死んだと言うのに、同様すら見せなかった女医に、声をかける。


「レア・アキヤマ博士から、君達の救出を依頼されたものだ」


 彼女の名前を伝えると、女医はゆっくりと振り返って、返事をした。


「そんな甘さは捨てるようにと、私は教えたのだけれど……」


 セミショートの美しい女性だ。

 睨んでいる訳ではないのだが、どこか威圧しているような顔立ちの、きつめの美人であり、男が寄り付かないタイプの女性だろう。

 値踏みするような視線を、隠す事なくサイハテへと向け、しばらくたった後、口を開いた。


「私は飯塚奈央、見ての通り……医者よ」


 彼女の目は、サイハテに自己紹介を求めているようだ。


「西条疾風。見ての通り、ムキムキマッチョの変態だ」


 彼女の流儀に従って、名乗ると、奈央と名乗った彼女は、面白そうに声を抑えて笑う。


「変態さんでもなんでもいいわ。ここから解き放って頂戴……籠の中の鳥はこりごり」


 色気を多く含んだ目線で頼まれたが、サイハテは揺るがない。

 変態とは言え、態々虎穴に入る程間抜けではないのだ。


「申し訳ないが、自由になるのは少し後だ。君と一緒に捕らえられた研究員の元まで案内して欲しい」


 女医一人を連れて帰っても、あまり意味がない。

 二十代前半で、レアの研究グループに入っていたと言う事は、かなり優秀なのだろうが、今欲しいのは人数である。


「あら、申し訳なく思う必要なんてないわ。エスコートして下さるのでしょう? だったら、私は貴女のキセキレイになってあげるわ……」


 色気たっぷりに笑う奈央を見て、サイハテは諦めたように首を左右に振った。


「……ああ、命を賭けて、守ってみせよう」


 これは敵わない。

 彼はそう思うと、エスコートの約束をする。


「ええ、それなら、案内してあげる。こっちよ」


 緩やかに立ち上がった彼女はサイハテの先導を始める。その足取りはどこか楽しそうだが、堂々と歩かれてしまってはたまらないので、彼女の隣に立つ事にした。

キセキレイと言う鳥は、道案内をしてくれるように人間の前に現れる鳥です。

胸からお腹の辺りまで黄色い羽毛に覆われているので、奈央の下着が黄色である事を示唆しています。

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