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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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幕間:私も行く!

 サイハテがステルススキンスーツを着込んでいる時だった。

 何も知らされていない陽子が、更衣室へと飛び込んでくる。彼女は顔を真っ赤に染めて、目を吊り上げており、怒り心頭と言った面持ちだ。


「……どうした?」


 一体全体、何の用なのだろうと、尋ねてみたサイハテ。


「どうしたもこうしたもないわよ!! 一人で行くって何!?」


 今日も今日とて、彼女はサイハテの事を心配していた。

 自分も役に立つと言う自負があるので、たった一人で戦場に向かうと言う決断をした上に、黙っていたことが許せないのだろう。

 危険な場所へ赴く事に対する心配が九割、黙っていた事に対する怒りが一割の割合だとサイハテは予想し、それは正解だった。


「偵察ドローンから送られてきた映像を見る限り、非常に堅牢な要塞に見える。それでも君は付いて来るのか?」

「当然でしょ!? 尚更そんな所に一人で行かせられるものですか!」


 ぷりぷりと怒る彼女だったが、ここは意地でも着いて来させるわけにはいかない。

 危険なのもあるが、何より、陽子はここのボスである。

 ボスのフットワークが軽いと、部下が困り、彼女にはそれを直してもらう他ない。

 故に、サイハテは一計を案じる。


「付いて来てもいいが、長丁場になる。今回は証拠を残したくない、それに協力出来るのか?」


 彼の言葉を聞いて、陽子は目を見開いた。

 にべもなく断られるかと思ったのだ。

 だが、サイハテは付いてくる事を了承した。彼の言う事に協力出来れば、付いて来てもいいと、確かに口にしたのを、陽子は聞いた。


「いいわ。その事に協力するわよ、だから、ちゃんと連れて行きなさいよね!」


 嬉しいのだろう、釣り上げていた目じりが下がって、彼女は微笑んでいる。

 その笑顔を曇らせるのは、少し申し訳なく思う気持ちがサイハテにもあったが、今回ばかりは付いて来させる訳にはいかなかった。

 陽子を連れて行けば、十中八九、敵に発見されてしまう。

 そうなったら、人質は殺されるだろうし、それを見た彼女の心は取り返しのつかない傷がつき、待っているのは、自身と同じ未来だろうと、サイハテは予感した。


「ああ、守ったら連れていくさ」


 だが、これを出来る覚悟があるのならば、無理にでも連れていく約束はした。守れるのならば、連れて行こうと少しだけ、死ぬ覚悟を決める。


「まず、浣腸だな。排泄物は全部出すぞ、胃に入っている分もな」

「ふーん、浣腸……浣腸!?」


 陽子はサイハテから距離を取って、自分の尻を抑えた。


「それは、そのぅ……なんで?」

「作戦行動中に糞がしたくなったらどうする? ズボンの中にする気か? 外で糞をするなんて許さんぞ、証拠になるし、追跡される。人間の糞は解りやすいからな」

「うぅ……」


 全部が全部正論なので、彼女は反論しかねている。

 それに、浣腸するのも嫌なようだ。


「全部出す必要があるから、俺が見るからな?」

「……や、やったろうじゃないの!! 見たかったら見ればいいんじゃない!?」


 顔を真っ赤に染めて、陽子は腕を組むとそう宣言する。

 いい度胸だが、まだまだ要求はあるのだ。


「次にカテーテルを入れる。尿道にな」


 尿道を聞いて、今度は股を抑え始めた。

 そして彼女は言うに事を欠いて、こんな事を尋ねてくる。


「……痛いの?」

「痛くないと思っているのか? そこに何か入れた経験でも?」

「あるわけないでしょっ!?」

「なら丁度いい、これも経験だ。少し広げておいた方がいいしな」


 怒りを感じるのか、目を吊り上げて見せたと思ったら、今度は眉尻を下げて頬に朱を入れてみたり、逆に痛みを想像して蒼白になって見せたりと、随分と感情豊かに顔色が変わり続けた結果、陽子は両手で顔を抑えると叫びながら退出していく。


「そんなの無理よーーーーーー!!」


 彼女が扉をぶつかるように押し上げて、完全に姿を消した後、サイハテはゆっくりと呟いた。


「……だろうな」


 これでやると言えるなら、最早止める手段はないと思う。

 だが、陽子は無理だと言い放った。

 少女らしい感性を持ち続けてくれて、彼は少しばかり喜ばしい気持ちになる。

 何しろ、手慣れた反応をされたのならば、男としても、変態としても面白くなくなるからだ。


「すまんな。君を置いて、俺は行く」


 今の陽子は足手纏いだ。

 連れて行くのならば、サイハテも命をかける必要があった。

 人間を越えた肉体を持っているとしても、所詮はたんぱく質と炭素、それと水の塊なのだから弾丸を受けてしまえば、死んでしまう。


「死ぬわけにはいかなくなったんだ」


 救わなくてはならない人が、一人だけ増えてしまった。

 彼女の為にも、今死ぬわけにはいかない。

 彼はゆっくりと立ち上がると、輸送機が待機している場所へと歩いていく。不機嫌になっているだろう陽子のフォローは、レアに任せる事にした。

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