十二話:人員確保任務1
成田国際空港。
かつては三本の滑走路を持ち、昼夜問わず旅客機が発着する巨大空港だった。
それが今は、よくわからない武装勢力が闊歩し、近くを通る旅人を襲う、ならず者の要塞と化している。
サイハテはそんな空港から少しばかり離れた森の中から、双眼鏡を使って偵察を行っていた。
彼の目には、武装勢力が行う警備としては過剰と言ってもいい位の分厚い防備が並べられた要塞が映っている。
『いい、サイハテ。よく聞いて』
イヤホン内臓のイヤーパッドから、陽子の声が響いてきた。
『貴方の任務は対空設備の破壊と彼らに捕まっている人員の確保。無理して敵を倒そうなんて考えなくていいから』
「ドローンによる対地攻撃で敵を蹴散らそうって言うんだろう? わかっている」
危ない事はするなと釘を刺す彼女に向かって、サイハテは苦笑して見せる。
陽子から見れば、彼は随分と危険を好む人間に見えるらしい、強ち間違いでもないが、正解と言う訳でもないので、サイハテは笑って誤魔化す位しかできない。
『任務を理解しているなら、文句はないわ。敵は誰かわかる?』
「誰かはわからないが、装備はかなりいいぞ。牽引式の榴弾砲に歩兵が携行できる迫撃砲、自動小銃に分隊支援火器、ああ、対戦車グレネード投射機も持っているな。火力過剰と言ってもいい、自由経済軍でも手が出せないだろう」
『……そう、大丈夫なの?』
通信機の向こうでは心配そうな表情をしている陽子が居るのだろう。
その姿を想像して、彼は唇を緩ませる。
「何一つ問題はない、ドローンは三十分後に到達できるようにしてくれ」
『そんなに早く!?』
「これでも鈍っている。成層圏に偵察ドローンは待機しているんだろう? 俺の姿は発見できたか?」
『う、うん……』
「ならしっかりと追跡しておけ。これより任務を開始する」
隠れていた森の中から、サイハテは飛び出した。
偵察機から見れば、自動車か何かと見まがうスピードで、発報線の敷かれたフェンスへと突撃していく。その先には地雷原があり、対空ミサイル群が存在する滑走路が存在する。
フェンスにたどり着くまでも、廃材を組み合わせた櫓から監視する兵士の視界から逃れなくてはならないのだが、彼にとってその監視はないものと一緒だった。
幾重にも張られた警戒線も、自由経済軍を阻み続けた難攻不落の要塞も、西条疾風を前にすれば何もない平野と変わらない。
隠蔽が不十分な地雷等、資源の無駄と言っても過言ではないだろう。
『うそぉ……』
通信機の向こうで唖然とする陽子を尻目に、サイハテはトリオを組んで巡回する兵士の真後ろを走り抜ける。
自走対空ミサイルまでたどり着いた彼は、周囲を警備する兵士を嘲笑うかのように、C4を設置した。
全ての対空設備に爆弾を仕掛けるのにかかった時間は、十分にも満たない。
しかし、ここからが問題だろうと陽子は思っていた。
人員の居場所は解っている、第一ターミナルと呼ばれる、巨大な家屋の内部だ。そこには偵察衛星からの情報で大量の熱量がある事が解っている。
何かがある、それだけの情報でもサイハテが警戒するには十分なはずだった。
「これより人員の確保へと向かう、追跡は不可能となる事が予想されるが、爆撃は予定通りに頼む」
いつの間にか、人のいない場所へと潜伏しているサイハテから、通信が入り、陽子はひっくり返りそうになる。
『予定通りって……それは危険よ!?』
「問答をしている時間も惜しい、突入する」
『あ、こら!』
憤る陽子を無視して、防弾版などで補強された第一ターミナルに、彼はさっさと入ってしまうのだ。
『なんなのよぅ!!』
向こうで怒っているので、後で謝った方がよさそうだ、なんて考えながら、サイハテはバトルライフルを構える。
気分は切り換えていく。
あの微睡みのような心地良い気分は好ましいが、今いる場所は戦場のど真ん中だ。
少しばかり、昔へと戻して、前へと進んでいく。
「……」
エントランスホールには、複数の警備兵がいるが、談笑していたり、煙草を吸っていたりと、気を抜いている姿が目に入る。
あれなら余裕だろうが、同時にいくつもの監視カメラを発見してしまう。あれは少々厄介だ、見つかった瞬間は気付かれなくとも、潜入したという証拠が残ってしまい、いつ警報が鳴ってもおかしくない状況になってしまう。
「……強行突破は避けた方が賢明だな」
ぼそりと呟いて、監視カメラの死角と、警備兵の視界から外れるルートを選択して緩やかに進んでいく。
久しぶりに本気を出したにしては、随分と温い仕事だとは思うが、油断だけはしない。巨大な熱量を感知しているし、何があるかわからないので、慎重に進んでいく。
この建物に捕まっている人員が居るとは聞いたが、どこに押し込められているかはわからないので、全ての部屋を回る必要がある。
どこかで敵兵を鹵獲して、尋問してもいいかも知れない。
そんな事を考えながら、彼は奥へと進んでいく。
ヌルゲーかと思った?
まだまだこれからですよ。