十話:ダッシュで駆け抜ければ問題ないよね2
「と言う訳で、ダッシュで駆け抜けて、素早く武器庫にたどり着いて、ダッシュで敵を殲滅するぞ」
隔壁前までアルファナンバーズを連れて来たサイハテは、唐突にそう言い放った。
「いや、どう言う訳だよ……」
それについてツッコミを入れるのは、このメンツでは比較的常識的なネイトである。
「だから、ダッシュで駆け抜けて、武器庫に行くんだよ」
「だからどういう訳で、そんな作戦になったんだよ」
「お前らの喧嘩で時間を消費し過ぎた」
「オーケー、よくわかった」
原因は向こうにあるので、サイハテは強気だったわけだ。
ともかく、おふざけが過ぎていたのは、ナンバーズも理解しているので、それについて講義の声を上げる人間はいない。
「ジーク、ここの見取り図は?」
「出発前、レアから渡されたこれに入ってる」
駆け抜けるにしても、見取り図が無ければ意味がないと聞いたネイトに、小手のような機械が手渡された。液晶画面のはまった、頑丈そうな小手だ。
「……これは?」
「バイタルデータ等の健康面の管理をするコンピュータ兼、通信機やらハッキングツールやら何やら、諸々入った超高性能なスマートフォンみたいなもの、らしい」
「すっげぇ不安になる説明、ありがとよ」
ネイトは、嫌そうな表情を見せながらも、それを受け取って腕に付けてみせた。
気味が悪い位、腕にぴったりとフィットして、違和感を感じさせない軽さの、多目的ツールだ。
「……これ、すげぇな。全く重くない」
「そのサイズで重さは三グラムだそうだ」
「おお、こりゃ凄い」
ネイトに続いて、ニックも着けて見せて、驚いている。
他の静観していたメンツ、グレイスとサムも危険は無さそうだと付けて見ては、驚いていた。どうやら、レアからのプレゼントは気に入ってもらえたようで、サイハテとしてはホッと胸を撫で下ろすばかりだ。
「そうか、気に入ったか。ところで、脳が痒くなったりしていないか?」
何気ない風に出された質問に、四人は硬直する。
「……おい、なんだその質問」
口火を切るのは、ネイトの役目なのか、彼は恐ろしそうな目でサイハテを見つめている。
「何、神経に直接接続するタイプらしくてな。体にあっていないとアッパラッパーになるらしい」
「それは先に言えよ!! これ、どうやってとるんだ!?」
「脳が痒いのか?」
「痒くねぇけど、怖ぇよ!」
「腕ごと取るしかねぇらしいが……」
こう言われてしまえば絶句するしかない。
彼らの脳裏には、何故先に言わなかったのかとか、そもそもそんなもの作るなとか、いろんな言葉が去来するが、彼らの知っているジークに言っても無駄である。
「……まぁ、いいや。じゃあ作戦を説明してくれ」
それに彼らも優れた諜報員だ、己の肉体は道具と割り切っている為、長くは騒ぎ立てない。己の仕事道具に改造を施された職人の心境なのだ。
「作戦は至極単純、敵を無理矢理突破して武器弾薬を補給し、敵を始末するだけだ。装甲目標はいない、全て人間より少しばかり、頑丈な程度だ。犬の大群だと思えばいい」
「なるほどのう、烏合の衆が敵か」
グレイスはあまりやる気が無さそうに見えるが、それもそのはず、彼女は爆発させる目標は選びたい性分であり、今回の敵はお気に召さないらしい。
「それでも、俺達は噛まれればアウトだ。気は抜くなよ」
「まっかせてよ。僕らを誰だと思っているんだい?」
「よく理解している、では、行くぞ」
隔壁の傍にある電子錠を開錠して、分厚い鋼鉄の閉鎖隔壁を開かせる。
ここはどうしても、開く際にサイレンが鳴ってしまうので、地下に居るグール達を呼び寄せてしまう。土台、隠密任務なんて不可能だったのだ。
それならば、力づくで突破して、一直線にたどり着ける方が、手間が無くていい。
「よっしゃ、僕が先頭になる!」
そう言って、ネイトが駆け出していく。
隔壁の向こうにはサイレンに反応したグールの大群が居る。しかし、あれだけいても、彼に触れる事はできないだろうと、サイハテは予測した。
案の定、大ぶりのナイフで首を跳ね飛ばされた奴らの死体が、転がり始めている。
「グレイス、サム、ネイトを援護。ニックは俺と後方の敵を押し留めながら前進する。全員突撃」
残ったメンツは、サイハテの指示と共に戦場へと入っていく。
薄暗いコンクリート製の通路には、夥しい量の死体と、血痕が溢れていた。
無双するだけなので、この後はクァーット!!