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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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ユニークアクセス五万人突破記念:サイハテさんちの食事事情

 基本的に、サイハテ達は三人揃って夕食を取る。

 昼間はサイハテが出かけていて、食事を取らない事もしばしばあるのだが、夕食だけは必ず戻ってくるので、三人揃って取る風習が出来てしまった。

 かつての襤褸屋で、三人揃って食事を取っている最中の事だ。


「君達はもう少し、食べた方がいい」


 隠された泉で取った川魚の干物を齧りながら、彼はそう言った。

 余りにも唐突な物言いだったので、味噌汁を飲んでいた陽子は咽そうになり、白米を食べていたレアは固まってしまっている。


「……いきなり何?」


 味噌汁を食卓に置いて、陽子は尋ねてみた。


「普段の運動量と、ここで摂取できるカロリーは大きな差が出ている。このままでは体力も落ちてしまうし、免疫力だって落ちるだろう」


 詰まる所、サイハテは心配しているのだった。

 確かに、二人の少女は目覚めた時と比べると体重も落ちてきているし、脂肪が減って筋肉の筋が薄らと見え始めている。

 モデルのような体系になっていたので、陽子の方はこっそりと喜んでいたのだが、いけない事なのだろうかと、彼女は思案した。


「でも私、スタイル良くなってるわよ? お腹は周りはきゅっと縊れて、モデルみたいな体系になってるし」

「君達女性の言う、痩せているは、医学的にも世間一般的にも、栄養失調と言うんだがな。スタイルが良くなっている訳ではない」


 ピシャリと、彼は陽子の喜びを否定する。


「特に、君達は成長期だ。普段、過度な運動を与えている俺が言っていい事ではないが……もっと食べた方がいい。摂取カロリーと消費カロリーの天秤は釣り合っている事が理想だ。体も綺麗になるぞ」

「それはぼくもわかってる、けど」


 今でもお腹一杯食べれているので、これ以上食べるのは厳しい。

 レアの言いたい事は、陽子にもよくわかった。

 食後はお腹がぽっこり膨らむ位食べないと、サイハテが怒るので食べており、これ以上は胃袋に入れようにも入らない。


「……そうか、お腹一杯か」


 アスリートにとっては食事もトレーニングの一つである。

 彼らは毎日厳しいトレーニングを積んでおり、食べないと痩せる所か、壊れた筋肉すら修正できなくなってしまうのだ。

 そして、二人の少女も中学校の部活動等鼻で笑える位の運動を、行っている。

 ちょくちょく必要な物をスカベンジしに行くし、車で行ける範囲は限られているので、一日二十キロくらいは、平気で歩く上に、感染変異体との戦闘や、背中に担いだ戦利品等の荷重によって、消費カロリーは大変な事になっていた。


「………………うーん」


 腕を組み、サイハテは唸る。

 これが兵士志望の若い男性ならば、無理矢理詰め込ませる事が出来るのだが、二人は幼い子供だ。食事がトラウマになってしまったら、笑うに笑えない。

 そんな彼の脳裏に、名案が思い浮かぶ。


「食事の回数を増やすか」

「それもちょっとキツイわよ……」


 ダメだったようだ。

 確かに、今でもお腹がぽっこり膨らむ位食べさせているので、消化に時間がかかっている。確かに、これ以上食べさせるのは不可能に思えた。


「いや、三食食べる物の量を減らせばいい」


 腹十分目の食事ではなく、腹八分目にまで抑えて、消化を早くし、その分余計に食べさせる戦法である。


「とにかく、やってみる価値はあると思う。十時のおやつと、三時のおやつの時間を作ろう」

「それ、つくるの、よーこだよ?」

「おやつは俺が作る。情報網の構築も、一段落ついたところだしな」


 とにかく少女達は過労気味なので、その分の仕事をサイハテが受け、休ませて栄養を溜めなくてはならない。

 幸い、家に必要な物は揃っており、スカベンジをしばらく中止することは出来るだろう。


「喜べ、俺はパティシエレベルのお菓子製作技術を持っている。体重プラス三キロは覚悟しろ」


 小麦粉に砂糖とミルク、ついでに卵もあればなんだって作れるのだ。


「ちょ、ちょっと! 三キロは増やしすぎよ! せめて一キロ位に負けてよ!」


 やる気になっているサイハテに、陽子が強く抗議した。

 ここまで痩せられたのに、そんなに増やされてはたまらないのだろう。


「ぼくもさんきろは、ちょっと……」


 レアも渋っている。

 研究や製作に夢中になると、平気で三日四日は風呂に入らない彼女も、一応は女の子であり、それほどの体重増加は受け入れられなかった。


「二キロは筋肉の増加分、一キロは身長諸々だから安心しろ。今の君達は痩せすぎだ、俺が適度な栄養と訓練を与えてやる。スタイルを今よりもよくしてやるからな、震えて待て、きっついぞ~」


 そう言って、サイハテは楽しそうにトレーニングメニューを作りにかかる。

 紙とペンを持って、彼は鼻歌を歌いながら、何かを書き込んでおり、声をかけるのは憚られたが、それでも聞かずにはいられなかった。


「……サイハテ、それ、さぼったらどうなるの?」


 くるりと振り向くサイハテの表情は、戦闘の時と同じ、感情を覆いつくした無表情だ。


「ケツの穴を拡張する。俺の腕が入るまでな」


 それを聞いて、絶対にさぼれないなと思う陽子だった。

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