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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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八話:彼の家族

少な目で申し訳ないですが、やっとこさ更新。

次回から、作戦開始。

無双が始まるよー!


まぁ、アルファが五人揃えば基本ヌルゲーです。

 爆発音や殴打音、そして悲鳴と怒号が響く会議室の前で途方にくれていると、珍しい物を見る。

 サイハテが心底呆れたような表情で、会議室の扉を見透かすように見つめている姿は、陽子に対して初めて見せる表情と仕草であり、彼女にとっては懐かしい表情だった。

 あれはかつて、陽子の弟達が玩具を取り合っての、何度目かの喧嘩を起こした時に、彼女がした表情でもあったからだ。


「……やっぱり、家族なのね?」


 彼は否定するが、その眼差しは家族へ向ける物にしか見えない。

 陽子の問いに、サイハテは唸るように言葉を詰まらせると、小さな声で返事をした。


「かも、な……」


 ジークは死んだ。

 裏切りと絶望の中で、満足して逝った。

 ここに居るのは、かつて妻を愛した人間性の残り滓である西条疾風なはずなのに、彼の心はどうしようもない哀愁と追懐(ついかい)を訴えている。


「悪くない」


 彼の言葉に、陽子は何故だかとても嬉しくなった。


「そっ、よかったじゃない。家族が生きているぶん、貴方は幸せ者よ」


 そんな事を言ってしまい、サイハテに怪訝な表情をされてしまう。


「幸福……?」


 首を傾げる彼だったが、ようやく気が付いたのか、少しばかり申し訳なさそうな表情をすると、陽子をジッと見つめた。


「そうか、君の家族は……」

「うん、間違いなく生きてないわ」


 あっけらかんと言い放つ彼女に面食らったのだろう、サイハテは目を丸くして言葉に詰まっている。

 家族がいない、天涯孤独の身だと言うのに、陽子は気にするそぶりも見せず、そう言って見せた。

 二度と会えない気持ちと言うのは、想像以上に辛く、頼る者がいない……しかも、子供の時期にそうなってしまえば、不安に押しつぶされても仕方のない側面がある。

 それでも彼女は平気そうだった。


「……寂しくないのか? 不安じゃないのか?」


 彼の言葉を裏返せば、サイハテは孤独だった時にそんな気持ちを感じていた証左に他ならない。


「寂しくはあるけれど、そこまでは寂しくない。少し不安だけど、不安なのはあんたが考えている不安とは、別の事」


 強がりかと勘ぐったが、陽子の表情を見る限り違うらしい。彼女は彼をジッと見つめるとニッコリと笑ってこう言った。


「私にはあんたとレアがいるもの。寂しくないし、頼りにしてる」


 嗚呼、つまりはだ。

 陽子はいつからか、サイハテとレアの事を家族だと認識していたらしい。うれしい事なのは間違いないが、サイハテは父と呼ぶには愛を知らず、兄と呼ぶにはスケベ過ぎる。

 となると、己のポジションは一体どこになるのだろうかと、彼に下らない悩みが増えてしまった。


「……そうか」


 故に、こんな気の利かない返事しかできない。

 琴音の時もそうだったが、サイハテは真っ直ぐな親愛を向けられるとこう言った返事しかできないのだ。

 不器用な信頼とも呼べばいいのか、味気ない反応しか示さないのは、それはそれで彼の魅力だと陽子は思っている。


「そういう事、これからも頼りにさせてもらうわよ。あんたも、あんたの家族も」

「……ああ」


 彼の返事が返ってくると共に、会議室の中から鼓膜を吹き飛ばしそうな轟音が響いて、二人の少女は耳を抑えて、巨漢二人は顔を顰めた。


「みみが、みみがいたい……」


 耳を抑えてしゃがみこんでいるレアを尻目に、サイハテは会議室の扉に手をかけるとゆっくりとそれを開く。

 中の様子は、酷い物だった。

 並べてあった折り畳み式の机は、余すところなく木片と化しており、レアがどこからか引っ張り出してきたプロジェクタは部品の山と化し、喧嘩をしていた三人衆が血塗れて転がっている。


「またかお前ら……」


 心底呆れたような視線を向けたサイハテはそう言ってため息を吐く。

 普通の人間ならば、失血性ショックを起こしていてもおかしくない出血量だが、曲がりなりにも彼らは伝説の諜報員達、あれくらいなら立ちくらみがする程度での済むので、作戦には差し支えないが、片づけに時間を盗られそうな荒らされっぷりだった。


「レア、適当に治療してやってくれ」


 背後に居るはずのレアにそう声をかけるが、返事はない。

 後ろを振り返ってみると、まだ耳を抑えて蹲る陽子とレアが見えた。


「……レア?」


 近くに寄って、声をかけてみても、返事はない。

 どうやら先程の爆音で耳が遠くなっているようだ。こうなったら、回復するまで多量の時間を必要とするだろう。

 奴らに喧嘩なんてさせるんじゃなかったと、サイハテは大きな溜息を吐くのだった。

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