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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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五話:顔合わせ

 サイハテに突如として連れ出された陽子とレアは、目の前に立つ四人組から、感情を感じさせない無機質な瞳を向けられていた。

 一人は分かる。

 いつぞやサイハテの所に遊びに来た、彼の同僚だ。だが、残りの人々は分からない。サイハテを超える巨漢も居れば、甘いマスクの変わった男も居て、大和撫子の美女も居た。


「……どちら様?」


 そんなヤバイ集団に見定められている陽子は、困ったような表情で彼らを見返しながら、サイハテに向かって尋ねる。


「俺の元同僚達だ」

「ああ、うん……」


 彼女の返答は分かり切っていたような口調だ。

 レアも居心地が悪そうな表情で、アルファナンバーズを見つめている。

 たっぷり二分程、二人の少女を見つめるだけと言う、現代社会であったならば事案になりそうな事態が過ぎ、彼らの内の紅一点が口を開いた。


「成程、救世主。言いえて妙、じゃな」


 閉じた扇子で口元を隠しながら、グレイスは二人を、そう評価する。


「俺も意見は変わらないなぁ。こりゃ確かに救世主だ」


 ニックも同じ意見のようで、したり顔で頷いており、サムは無言で頷くと二人から視線を外してしまう。


「……救世主?」

「きゅーせーしゅ?」


 二人の少女はうんうんと頷き合っている三人を見て、首を傾げていた。

 そんな中、少女っぽい青年ネイトは陽子とレアを見て、満足そうに微笑むとその場に胡坐を掻いて座り込む。

 ミニスカートでそんなことをやるものだから、パンツが見えてしまっており、彼が男性であると言う事を陽子は確認してしまった。


「こっちの話さ。南雲陽子、君が気にする必要はないよ」

「……気になるんですけど」


 居心地の悪い空間に、長く置かれていたからだろうか。陽子の口調には少し棘があり、それを聞いたネイトは少女のように笑う。


「気になっても話せないね。ジークに聞いたら?」

「サイハテの事、その名前(ジーク)で呼ばないで」


 ぴしゃりと言い切った彼女に対して、ネイトは口笛を吹いて手を上げた。


「君にとってはサイハテでも、僕らにとってはジークなのさ」


 それでも、奴は懲りない。

 戦友であり、リーダーであり、兄妹だった西条疾風に対して、アルファナンバーズはそれなりに複雑な感情を抱いているのだろう。

 その名前で呼ぶ限り、二度と家族として認められないとしても、彼らにとってはジークなのだ。


「一つ、質問をしたいんじゃが……いいかえ?」


 陽子がムスッとしていると、グレイスに声をかけられる。

 質問とはなんだろう、と考える前に、その質問が投げかけられた。


「お主は何者ぞ」


 いいとも悪いとも言ってない内に質問するのなら、聞く意味がないじゃないか、そんなことを思った後に、陽子は返答する。


「何者かなんて、定義できないわ」

「……ふむ? それでは、そのなけなしの善意を握りしめて、どこに行く」

「……」


 続けてされた質問を聞いて、陽子は少し言い淀んでサイハテを見た。

 彼は腕を組んで、自身を見つめる少女を静かに見返していた。まるで、その答えなど知っているかのように振る舞い、何一つ口を出す事はない。


「幸せでいてほしい人が、幸せでいてくれる世界」

「うむうむ、素敵じゃな。して、そちらのちみっこはどうじゃ?」


 グレイスの目は優しそうに細くなっているが、扇子で隠された口元が一切笑っていない事に、陽子は気付く。

 そして、質問はレアにも降りかかる。


「お主は、何者ぞ」

「かがくしゃ」


 すぐさま答えたレアに、グレイスは少しばかり驚いてみせた。

 恐らく、驚いた振りだと陽子は勘づく。


「では、その大きい知識は、何を成す」

「ちしきは、なにもなさない。ちしきとは、どうぐであることが、かんよー。つかいかたしだいで、どくにも、くすりにもなる」


 小さな少女の答えを聞いて、グレイスはかみしめるように頷いている。


「ならば、その知識の主は何を求める」

「こーふくのために、つかわれるみらい」

「ふーむ……」


 目を閉じて、質問をした彼女は三人の元へと戻っていく。


「成程のう……」


 閉じたままの扇子で肩を叩いて、グレイスは空を仰いだ。

 彼女の目には何が映っていて、何を考えているのか、二人の少女には伺い知れなかったが、ニックとサムは口元に笑みを浮かべていた。


「よかろう。妾達はお主二人に仕えよう……せいぜい、上手く使えよ?」


 グレイスの言葉に、陽子とレアは驚いてしまう。

 あんなに偉そうなのに仕えるなんて言葉が出て来たのにも驚いたし、そんな彼女に認められた己らにも驚いた。

 だが。


「ただし」


 その忠誠は注釈付きであった。


「その理想、努々忘れるでないぞ」


 背筋が凍る思いだ。

 千葉の街で感じた、漠然とした恐怖ではなく、個人に向けられた死の臭いと言うのは失禁しそうな位に強烈なものだった。


「我ら、生まれた時より道具なれど、理想を忘れた小娘なんぞに使われる程、安くはないでな」


 要するに、失望されたら殺されるわけだ。

 とんでもない人材を得てしまったと、陽子は頭を抱えて、グレイスはカラカラと笑う。サイハテの仲間だったら、頼りになるのだろうが、同時に死の危険も増えてしまった。

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