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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
五章:アルファ・クラン
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四話:もう一度、始めよう

 礼を言われ、むず痒くなったサイハテは基地の大型昇降口の方まで歩いていた。

 戦車やヘリなどを搬入して整備できる格納庫と、地上まで上がれる巨大なエレベータ等が存在する、広い空間。今は兵器が置かれていないので、ただ広いだけの頑丈な部屋になっている。

 その部屋で、西条疾風は空の金属コンテナに腰掛けて腕を組んでいた。


「……はぁ」


 彼の口から出るのは、疲れたようなため息ばかりで何かに思い悩んでいる様子が見て取れる。

 それもそのはず、サイハテの計画では、彼女達に嫌われているはずだったのだ。

 レアも陽子も、時代を産み出し、牽引できる才能と人格を秘めている。語られる事のない歴史が主戦場のサイハテとは真逆の性質を持った人物達と言えるだろう。


「……俺が、表舞台に」


 そう言って、彼は背筋を震わせる。

 サイハテにとって、そのような行為は考えただけでゾッとするような物なのだ。

 その気になれば、国を作って人々を牽引できる能力は持っている。だが、うまく行くわけがなく、そこに待っているのは民衆から正義を執行される未来ばかりだ。

 平和な時代だったならば、身分と素性を隠してこっそりと暮らしていける、しかし、今の時代は人類に敵が多すぎる。

 人類に危機が迫った時は、自身にも危険が迫る時であり、そうなればひた隠しにしていた力を使って、己を守るしかない。

 そんな事をしたら、あっと言う間に英雄に祭り上げられ、不要となれば殺される、便利な道具に成り果てる。

 サイハテからすれば、そんな死に方は真っ平ご免であった。


「どっこいしょ」


 おっさん臭い声を出して、彼は立ち上がる。

 向かう先は外に出るための大型エレベータで、そこに着くと操作盤を動かして、エレベータを上昇させた。

 地下三百メートルに存在する地下基地なので、地上に出るための道のりは長い。非常用の階段もあるのだが、三百メートルの階段を上るのは流石に面倒だ。

 もう、表舞台に立つ役者は決まっているのだから、いくら考えても、それはもし(if)の話なのだから、今の自分には関係ないと、彼は鼻を鳴らす。

 地上に上がり切ると、経年劣化か、それとも艦隊による対地ミサイルの攻撃で瓦礫の山となった偽装基地が見える。

 見えると言っても、あるのはコンクリートの破片ばかりで建物なんて一つたりとも見当たらない。

 辛うじて残っている検問所と、周囲を囲っていたであろう錆びたフェンスを見て、元々基地があったのだろうと予想しただけだ。

 サイハテは適当な瓦礫に腰掛けて、待つことにした。


「……」


 ただぼんやりと空を眺める事一時間、陽炎の向こう側に複数の人影と、見覚えのあるトラックがこちらに向かってきているのが見える。


「来たか」


 尻を叩いて立ち上がる、彼らを出迎える為にだ。

 基地と荒野の境界線までゆっくり歩いていくと、サイハテにとっては懐かしい面々が見えてくる。


「よう、ジーク!」

「おう」


 最初に挨拶をしてくるのは、お調子者のネイト。

 少女に見える青年で、バイセクシャルの一風変わった変態である。


「やぁやぁ兄妹、出迎えご苦労」

「ああ」


 この偉そうなのは生意気なグレイス。

 大和撫子の見た目をした、ショタコンでありロリコンの変態である。


「む」

「おう」


 不愛想な巨人はサム。

 二メートル三十センチと言う巨体を持つ、無口で覗きが趣味の変態だ。


「ジーク、オッスオッス!」

「黙れホモ」

「俺に対してだけ酷くない?」


 甘いマスクのイケメン、ニック。

 ホモの変態である。

 サイハテことジークを含めて、五人のアルファナンバーズが終結してしまう。どいつもこいつも性癖と性格に難ありの扱い難い奴等ばかりで、見ているとため息が出てしまう。


「……揃いも揃って、ロクデナシばかりが揃ったか」

「いねーよりはマシだろ? ヒヒヒッ」


 悪態を吐くサイハテに、ネイトの煽りが加わる。


「お前が死ぬまで、殴るのをやめない」

「ぐへぇ!?」


 そして隙あらばサイハテは彼を殺しにかかるのだ。

 元仲間にやる対応ではないのだが、彼が死んで、皆が謀殺される前は日常の風景だったらしく、ナンバーズ達は取っ組み合いに発展した二人を見て、賭け事に勤しんでいる。


「今日はどちらが勝つと思うかえ? 無論、妾はジークの辛勝に賭けてやろう」

「だったら俺はネイトにジークのケツだ!」

「……ん」

「なんぞ、サムはジークが勝つのにネイトの尻かえ。愉快じゃのう」


 殺し合いと言っても過言ではない喧嘩を見て、ほのぼのと出来るのは彼らだけだろう。

 一般人から見れば殺し合いにしか見えなくても、ナンバーズにとってはただのじゃれ合いなのだから。

 そして一時間後、サイハテのフックがネイトの顎に入って、彼は地面に倒れ伏す。サイハテがネイトを踏みつけて片腕を上げて勝利のポーズをとる。


「なんじゃ、ジークが勝ちおったか。つまらん」


 吐き捨てるように言い放ったグレイスは、足を組んで瓦礫の上へと座った。

 綺麗に整えられた黒髪が、風に揺れている。


「ちくしょう、ジークの尻が……」


 四つん這いになって落ち込んでいるニックを、汚い物でも見るような目で見つめた後、グレイスはサイハテを見て、ある事を切り出す。


「……それで、お前が認めたという救世主はどこかえ? 妾の目に叶うとは到底思えんが、一応見てやろうと思って、ここまで出向いたんじゃ。はようここに連れてまいれ」

「わかってるよ。貴様がただ働きとか、もう一度人類が滅んでしまう」

「お前っ……まぁ、よい。はようせい」


 ぷいっと顔を背けるグレイス。

 サイハテはエレベータまで歩いていき、途中で凹んでいるニックを蹴り飛ばした。


「邪魔」

「あぁん!? もっとぉ!!」


 こんなのでも、アルファナンバーズに所属しているのならスペシャリストの一人だ。ぶっ殺したくなるほど気持ち悪いが、サイハテは耐えておくことにする、今は。


「三十分程で帰ってくる。どこにも行くなよ」

「……む」


 サムが返事をしてくれたので大丈夫だろう。

 直接戦闘の殺し合いなら、彼が一番強いから、誰も逃げようとは思わないだろう。

 エレベータで地下に降りて、陽子達を迎えに行くことにした。

変態しかいねぇ!!

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