三話:会議は踊る、変態は踊りたい、無論全裸で
ぷりぷりと怒るレアは、両手を振り回してワクワクを台無しにされたことを抗議している。ウェーブのかかったフワフワの髪に、いつでもどこでも萌え袖白衣を着ているので、どうにもマスコット辺りが劇をしているようにしか見えなくて、陽子は微笑んでしまう。
「ねーちゃ! ぼくおこってるのー!!」
たっぷり三十分も待たされれば、誰だって怒るだろう。
「ごめんごめん」
これからを決める会議、言わば最初の一歩で躓いていては話にならないのだから、レアの怒りも最もだろう。
「とりあえず、始めようぜ。時は金なりだ」
あのままじゃれさせていたら、話が進まない所か遊び始めるのは目に見えていたので、サイハテは二人のじゃれ合いを中断させる。
ちなみに、遅刻したのはサイハテが原因だ。
「そうね。それじゃあ、まず何をするか。と言った部分から始めましょうか」
陽子も出会った時より大分図太くなったように思える。
「俺は地下の制圧を提案する。武器弾薬はこれからより一層必要になるからな」
「ぼくは、じんいんのかくほ、てーあんするー。ひといないと、このきち、まわらない」
「私は基地の整備を提案するわ。天井が崩れた瓦礫で埋まってる場所もあるし、壊れそうな所も補強したいわ」
三者三様に別れてしまった。
サイハテは武断派、武器を確保して未来に備えると言う意見で、レアは中道派、人員を確保して生産ラインを作りたいらしい。
陽子は無論、穏健派である。
当然、どれもこれもやらなくてはいけない事であり、これより会議はどれを優先して行うべきかに遂行するのだ。
「……別れたな」
「わかれたね」
「別れたわね」
三人共、やらなくてはならない事を提案し、どれも必要な事であると理解している。
「どれから始めるか、だが、俺から一ついいか?」
「いいわよ」
最初に挙手したのはサイハテだった。
二人はまだ悩んでいるようで、とりあえず彼の意見を聞いてからでも遅くはないと考えたのだろう、とりあえず意見を聞いてみるようだ。
「まず、基地の補強。昨日基地の様子を見たが、補強は急務だと思う。いくつか電線が寸断されていて、基地の機能が二割も稼働していない状況だ。この状態で敵から奇襲を食らってしまえばどうにもならないだろう」
「当然よね」
「だが、俺達三人で基地の補強はあまりにも難しい」
「……それもそうよね」
陽子は納得する。
確かに、この基地は広いし、三人で瓦礫の撤去から補強までやるとなると、凄く時間がかかる事は彼女も懸念していた。
「次に人員の確保。これも急務だと思う。守るにせよ作るにせよ、三人じゃ何も出来ん。レアはハルカの修理もあるし、陽子は飯の準備や家事がある。俺一人では不可能だ」
「じゃー、ぼくのいけん!?」
「いや、その人員を確保する候補位はあるのだろうが、今の状況じゃ迎えに行く事は出来ない」
「……むー」
レアは唇を尖らせる。
上げて落としたサイハテに対する抗議で、意見自体は否定していないようだ。
「最後に武器弾薬の確保。俺はまずこれを一番最初に行いたい」
「むー、なんで?」
「足元に敵が居ると言うのは落ち着かない。まずこれが一つ目」
「それはさっきも聞いたわね。他にもあるの?」
「ああ、他の意見を聞いて思ったが、戦闘能力を喪失したままでは、何も出来ん。この状況で、無理する必要はないんだ。堅実に一歩一歩、必要な事から始めるべきだと、俺は思う」
彼の言葉を聞いて、陽子はなるほどと思った。
武器弾薬さえ確保できれば、ここが攻められたとしても逃げ出して、再起のチャンスを伺う事だってできるのだ。
つまりはだ、武器の確保をして、人員を確保して、それから基地の整備にリソースを割り当てるのが、この状況の正解なのだろう。
「つまり、最初の一手は武器の確保ね。その次に人員の確保をして、基地の整備をするわけ。あってる?」
「ああ、それが概ねの意見だ」
サイハテは多くの事を陽子に教えてくれる。
戦いや、生きる事に必要な物ばかりではない。
精神の方向性を決める助言や、このようなやる事が多すぎる時に整理する方法、それを最も覚えやすい方法で、伝授した。
口で言うのは簡単だが、彼のように実施して教えると言うのは、難しい物だと陽子は知っていた。
「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、 ほめてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。ね?」
「山本五十六か」
「あどみらるー」
陽子がそういうと、サイハテは顔を反らしてしまう。
そんな彼を見て、レアが喜んでいる。
「……俺が君達を一日でも早く信頼できるよう、祈っているよ」
そう言って、サイハテは席を立つ。
不機嫌そうに見えるが、陽子にはわかっている、あれは照れているのだ。照れ隠しに不機嫌そうな雰囲気を装っていても、半年の付き合いだ、それ位は見破れる。
だが、それを揶揄ったりすると、彼は不貞腐れてどこかに隠れてしまう。
昔、揶揄った事があるが、一週間ほど行方を暗ませていた。
とりあえずと、彼が部屋を出てしまう前に声をかける事にする。
「ねぇ!」
ぴたりと足を止めて、顔だけこちらに向けるサイハテ。
「いつも色んな事教えてくれて、ありがとう。先生」
感謝の言葉を伝えると、彼はむず痒そうに首を掻いて、一度だけ小さく頷いて部屋を出ていった。
サイハテの姿を見つめていたレアが、ほにゃりと笑って、彼の事を一言で表す。
「すなおじゃない」
それはいつもの事で、彼のいいところだ。
ツンデレもどきの変態。
誰が得するのでしょうか。