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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
四章:かつての街で
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暗い話が続くので小話:胸像

 元来、胸像とは胸より上の部分を象った像である。


「と、言う訳で胸像を作りたいんだ。協力してくれないか?」


 ワンダラータウンの廃屋で、サイハテは唐突にそんな事を言った。

 突如としてそんな話を聞かされた陽子レアハルカの三人は、何がどうしてそうなったとしか答えようがなかったが、彼が何かするときはいつも唐突である。一々気にしていたら身が持たない。


「……胸像って、美術室にあるアレよね? 石膏で出来た」

「そうだ」


 白くて滑らかな胸像は、陽子にも見覚えがあった。

 美術教師がデッサンの授業で、引っ張り出してきたのを覚えているのだ。


「それで、どんなわけで、きょーぞーつくりたくなったの?」


 どら焼きを齧りながら、レアは聞く。


「うむ、よく聞いてくれたレアえもん。昨日な、スヌオとシャイアンを誘って遊んでいたんだ」


 したり顔で頷いたサイハテを見て、陽子が少しだけ嫌そうな表情を見せる。

 レアえもんと呼ばれた少女も、微妙な表情を見せた後、手に持っている食べかけのどら焼きを急いで口の中へと放り込んだ。

 彼の話は続く。


「そしたらスヌオがBGM付きで自慢してきやがってさ。市議の親父から、美術展のチケットを貰ったんだと」

「どんなBGMよ……」


 最早この時点でカオス極まりないが、ツッコミは控えめにしておく。


「んで、おめえの席はねぇから! って言われたのが悔しくてな」

「……さいじょー、いじめられてるの?」


 彼の言葉を聞いたレアは、そう結論し、サイハテは少しだけ暗い表情を見せた。


「……ああ、いじめられているんだ。俺はただ、女子トイレでモップを持って暴れただけなのに」

「それ、いじめられても仕方ないと思うわ」


 同情の余地はない。

 だが、サイハテは首を左右に振って、こう答える。


「感染変異体が入り込んでたんだよ。珍しく、俺に非はねぇ」

「あ、そうだったの? 頑張ったじゃない。それで、なんであんたは女子トイレの近くにいたの?」


 疑う気持ちなんてなく、純粋な疑問だったのだが、彼は少し言いよどみ、目を反らす。


「……日課の生足ウォッチングを。ここの女性はくるぶしから脹脛にかけてのラインが美しいんだ」

「………………」


 やっぱり同情の余地なんてなかった。

 それでも、彼が変態なのはわかり切っている事なので、目くじら立てる必要もないだろう。言ったって直らないのだ、放置するしかない。

 ともかく、話を進めなくてはならないと、陽子は続きを促す事にした。


「まぁ、いいわ。それで、それがどうして胸像を作る。なんて話になったのよ」


 疑問点はそこだ。

 美術展に行きたいのに、何故胸像なんてものを作ろうと考えたのか。


「うむ、その美術展な。まだ美術品を募集しているんだ。だから観客ではなく、作者として参加してやろうかと」


 サイハテの言い分に、陽子は思わず関心してしまった。

 復讐してやろうとか、嫌がらせしてやろうではなく、正当な方法で意地悪した相手を驚かしてやろうとする彼の行動は、称賛されるべきものだ。


「サイハテにしては建設的で健康的なアイデアじゃない。うん、それなら私も協力する!」


 断る理由なんてない。


「ぼくもー!」


 それはレアも同じだったようで、賛同の声を上げている。

 少女二人の反応を聞いた彼は、胸につかえていたなにかが、取れたような表情を一瞬だけ見せて、安堵の息を吐いた。


「そうか、助かるよ。それじゃ、準備してくるからそこに座っていてくれ」


 そうと決まれば、サイハテの行動は早い。

 風のように移動して、倉庫から型取り用の石膏やら、真鍮を溶かす為の炉やらを引っ張り出していそいそと準備を始めている。


「……いやなよかん、する」


 うきうきで準備をしている彼を見つめていたら、隣から不安そうな声が上がった。


「嫌な予感?」

「うん、いやなよかん」


 プラスチックバケツで石膏を混ぜているサイハテは楽しそうで、邪気なんて感じないのだが、レアには何かわかったのだろうか。


「それって、どんな予感?」

「……よく、わからない。でも、いやなよかん」


 もう少し具体的に教えて欲しいと、彼女に聞こうとした瞬間に、サイハテが戻ってきた。

 彼の手には、石膏がなみなみと入ったバケツが握られている。


「待たせたな。それじゃ手伝ってもらおうか」


 サイハテの笑顔を見た時、やっと陽子の脳裏にも嫌な予感が浮かび上がってきた。

 彼があんな顔で笑う時は、必ず何かしてくるからだ。


「……ね、ねぇ、サイハテ。私達は何をすればいいの?」

「そこに座っているだけでいい。すぐに済む」


 この返答を聞いて、レアが逃げ出した。

 しかし、サイハテに回り込まれてしまう。


「残念、変態からは逃げられない!」


 レアに伸びる、変態の魔手。

 十歳を越えて、半ば程過ぎた少女の上着は、その魔手によって一瞬で引っぺがされてしまった。呆然とする彼女だったが、サイハテの動きは素早く正確だ。

 剥離剤を手際よく塗り込み、ぷっくりと膨らみ始めた胸に、石膏が押し付けられる。


「んひぃっ!」


 冷たさと、気持ち悪さで甲高い悲鳴を上げるレア。


「あんまり動くなよー」


 一方の変態は随分と手慣れた様子で、レアの上半身を石膏で固めていく。

 その作業の最中、


「ひゃぁ」


 だの


「ぴぃ」


 だの悲鳴を上げているが、抵抗むなしく、石膏の鎧が出来上がってしまう。

 諦めたのか、少女は少し疲れたような表情で、椅子に座った。

 あんな目に合うのは真っ平だと、陽子は裏口から逃げようとしている。抜き足差し足で、音を立てないように、裏口のドアノブに手を伸ばして、ゆっくりと扉を開く。

 ドアを開けた先には、サイドチェストで筋肉を強調するサイハテが居た。


「……もう一度、言ってやろう」


 陽子は、唾を飲み込む。


「変態からは逃げられないっ!!」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」






 数時間後。

 上半身裸で、呆然とする少女二人を尻目に、サイハテは出来た型へと真鍮を流し込んでいた。


「揉まれた……がっつり揉まれた……」

「つままれて、こりこりされた……」


 身を寄せ合って震える少女達は彼から距離を取っている。

 次は尻の型なんて言われたら、堪った物じゃないからだ。


「……よし! 後は冷やせば完成だ!」


 今日のサイハテは、まるで未来の展望を語る少年のような、眩しい笑顔を見せているが、笑顔の裏には幼気な少女二人の犠牲があった事を忘れてはならない。

 どうでもいい話だが、少女二人の胸像は、美術展で特別審査員賞を受賞した。

変態変態ガッツリ変態。疲れた。


リアル友人達から、ヌルイと指摘されても、私にはこれくらいの話しか書けませぬ。

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